ハーレクイン 1
今宵、ゴールデンオーカー家の
ブラックオパール【ハーレクイン】
を頂に参ります。
怪盗クレー
新聞でも、テレビでも、ネットニュースでもこの話題で持ち切り。
怪盗クレー
狙ったものは逃さない
百発百中、どんなお宝だって絶対盗む
言わずと知れた大怪盗
そんな怪盗クレーが次に狙ったのが、私の家の【ハーレクイン】……
「今回怪盗クレーが狙った宝石は【ハーレクイン】世界的にも超希少価値の宝石だ。」
「詳しいね、クラージュ」
パソコンをいじりながら、私の専属ボディーガードのクラージュがそう言った。
その横からパソコンを覗いているのは、同じく専属ボディーガードのピソン。
まぁ、もちろんコードネームだけど。
「僕もそれ知ってるよ。この家の家宝って言われてる宝石でしょ?」
「あら、ピソンも知ってるの?」
「旦那様が話してるのを聞いたんだ。
その宝石で怪盗クレーを誘い込むんだって。」
「誘い込む?」
「まんまと騙されてやってきた怪盗クレーを捕まえて、手柄を上げたいんだと」
「おいクラージュ!言い方が悪い!」
なるほど、そういうこと。
政府に協力して、またこの家の地位と名誉を上げようって魂胆なのね。
お父様が考え付きそうなことだわ。
ゴールデンオーカー家は世界でも屈指の金持ち。
厳重な警備に、大量の人材投与が可能。
だから、怪盗クレーをおびき寄せて捕まえるなんて、容易いことだと思ったのだろう。
「怪盗クレーもお気の毒様ね」
「失礼致します、皆様。
お茶をお持ち致しました。」
そう言って入ってきたのは、私の専属メイド、トゥイーディア。
私と同い年なのだが、私よりしっかりしている。
おまけによく気の利くとってもいい子。
「わーい!ありがとう、トゥイーディア!」
「ピソン様はお砂糖とミルクたっぷりでしたよね?」
「そうだよ!
さすがトゥイーディア!わかってるね!」
ピソンは私より5歳年上なのに、私より子供っぽい。
けどいざというときはとても頼りになるしっかり者。
戦闘能力も並外れて高い。
「クラージュ様はストレートで大丈夫でしたか?」
「うん。ありがとう。」
そう言ってクラージュはふわっと笑う。
私より10歳も年上で、私が生まれた時から唯一ずっと傍にいてくれた人。
ボディーガードというより、お兄ちゃんみたいな存在だ。
正義感が強くて、頭がすごく切れる。
射撃の腕は世界トップクラス。
「お嬢様、本日はカモミールティーですので、お砂糖は上白糖、ミルクはティースプーン一杯分入れておきました。」
「ありがとう。」
ホントに気の利くいい子だ………
「ゲッ……
出た、スリジエの超強いこだわり!めんどくさーい!」
「トゥイーディア、よくそんなのいちいち覚えてられるな……」
二人のお決まりのこの顔とセリフ
いつものことだ。
「うるさいわね
紅茶をどう飲むかなんて私の勝手でしょ?」
どうやら私は、紅茶に関してのこだわりがもの凄く強い。
お母様といつも一緒にお茶をしていたからか、こだわりが移ってしまったらしい…
だってお母様の飲む紅茶、何の紅茶でもいつも完璧に美味しかったんだもん………
「そういえばお嬢様、ニュースはもうご覧になりましたか?」
「怪盗クレーのこと?」
「はい。今屋敷内はその話題で持ち切りなんです。
みんな口を開けば “怪盗クレー” “怪盗クレー” って……」
「予告日は今夜だからな。無理もない。」
「なんでも、ゴールデンオーカーが所有する大きなホールでわざわざ待機するんだとか……」
正直、今回で怪盗クレーは捕まるだろう。
ゴールデンオーカー家の警備は世界でも通用するほどの実力。
いくら怪盗クレーでも侵入すら難しいと思う。
「私、ホールに行ってくるわ。」
「!?
いけませんお嬢様!何をお考えになられてるのですか!
怪盗クレーは言わずと知れた大怪盗、何かあっては危険です!」
「怪盗クレーに興味があるの。
それに我が家の一大事よ?黙って見てるわけにはいかないでしょ?」
「それはそうかもしれませんが………」
「トゥイーディア、心配するな。こいつはただの野次馬だ。」
クラージュが怒った顔で私の肩をグッと掴む
さすがね、クラージュ。
よくわかってる……
「野次馬?
………お、お嬢様!!!」
「やっぱり…ダメ…?」
私はそう言って三人に子犬のような目で懇願する。
私は知ってる
三人はこの目にめっぽう弱いということを
「………はぁ…わかったよ。
その代わり、俺らの傍を離れるな。わかってるな?」
「スリジエに何かあったら僕たちの責任になるんだからね?」
「わかってるわよ。行きましょう」
そう言って私たちが部屋を出ていこうとした時だった。
「私も行きます…」
普段こういうことには絶対についてこないトゥイーディアが、珍しく口を開いた。
「トゥイーディア?」
「お嬢様に何かあったら、私の責任にもなるんです。
それに、こう見えても私、腕は立つほうなんですよ?」
トゥイーディアはそう言って、どこからかバトンを取り出した。
そう言えばこの子も、ただものじゃなかったんだっけ…
「そういえば、トゥイーディアはバトントワリングの世界チャンピオンだったね。
素手が武器の僕よりはよっぽど役に立ったりして」
ピソンがからかうようにクラージュを見る。
どうやらピソンはトゥイーディアがついてくるのに大賛成のようだ
「………ったく
わかったわかった!来たいなら来い!
その代わり、トゥイーディアも俺らから離れるんじゃねぇぞ」
「承知致しました。クラージュ様。」
みんなごめんね
私は、ただ野次馬をしに行きたいんじゃないの………
もし、もし怪盗クレーが【ハーレクイン】を盗み出せたとすれば…
少しの期待と好奇心が、私の心を揺さぶった