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RED NAIL  作者: 空蝉ゆあん
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女『門番』


 暗い海の果てで『ナナシ』と出会った。夢の中の出来事のはずなのに、そこだけ妙に現実味を帯びているように見える。僕の視界がこの夢の世界に捕らわれてしまったのか、それとも……


 「ここは何処? ナナシ」


 短い言葉の方が理解しやすいだろうと判断し、彼に聞いた。どうも長くなると考える時間を取るみたいだ。人間とは違う存在なのは理解出来る。ワンテンポ遅れる感覚。その中でも会話を円滑にしたい僕の久作とも言える。


 『夕闇、夕闇』


 とだけ答えるナナシ。ここは『夕闇』と呼ばれているようだ。やはり簡単に聞く事で返答するスピードが速くなっている。ビンゴだ、これならサクサクと会話を進めていけるだろう。


 「僕を待っていた?」

 『待ってた、待ってた』

 「どうして?」

 『言えない、言えない』


 今度はグルンと上半身を回し、機嫌が悪いような態度を取っている。何故かは聞かない方がよかったらしい。一つ一つの言葉に気をつけなくては答えは出てこない、そんな気がした。


 次は何を聞こうかと考えている最中にクスクスと女の笑い声が微かだが聞こえた。誰かが僕とナナシの事を監視しているようだ。意を決して、聞いてみた。賭けではあるが勇気を出して言葉にするしかなかった。


 「誰かいるの?」

 『ガーガーガーガー』

 「ナナシ?」

 『ガーガーガーガー』


 何を聞いてもそれ(・・)しか言わなくなった。聞いてはいけない言葉は体で表現していたのに、どうしてだがその質問だけは生きているように思えない。壊れた機械のように同じ言葉を繰り返すだけで、僕の言葉を聞く事さえ困難になった。


 その時だった。


 『壊しちゃったわね、ナナシ、眠りなさい』


 その言葉と共にナナシの中から一人の女が出てくる。黒い着物を着ている女の瞳は真っ黒で白目がない。どうしてここまではっきり見えるのかと思う程、見えるんだ。


 『不思議でしょう? 視界が明るくて』

 「あんたは?」

 『名乗る程の者ではないわ、言うなれば『門番』そう呼んでくれたら嬉しいわね』

 「門番?」


 僕がクビを傾げると女も同じ真似をする。


 『これが人間なのね、面白いわ』

 「え」

 『ナナシの言葉で言うと『ツナガッタ、ツナガッタ』かしらね?』


 女の口から先ほどまで聞いていたナナシの声が出てくる。同じ声色、発音。まるで同一人物のように。どうしたらいいのか何を聞けばいいのかショートしてしまった僕を見て、楽しそうに嗤う。


 『あらあら。こんな事でフリーズするの? 人間って変ね』

 「……」


 何て答えていいのか分からない。まるで蛇に睨まれているようだ。声も体も動く事を忘れたみたいに固まっている。


 『今回は初対面なのだから、疲れたでしょう? ユウ、また(・・)会いましょう』


 言葉の暗示にかかったように僕の意識は途切れた。


 

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