枯れ木
目を覚ますとそこは暗黒の世界のように見えた。揺れるロウソク、飾られた祭壇、まるで何かの儀式が始まるかのような空間。そこに僕はいた。
「ここ……は?」
『起きたんだね、ユウ』
誰かが僕の名前を呼ぶ。その声には毒が宿っていて、今にも吐きそうな位の闇を感じたんだ。
──ガシャリ
体を起こそうとしても何かに縛られたように動く事が出来ない。少しでも体を動かそうものなら、蛇が巻き付いてくるようにクビをキリキリと締め付けてくる。もしかして、僕の体は鎖か何かに固定されているのか? そう思いながらも僕も人間だ。訳の分からない状況に恐怖を感じてしまった。
『動きたいだろうけど、今は大人しくしておきなさい』
僕が固定されている台の隙間に腰を下ろし、笑いを含みながらそう告げる。視線だけは動かせる事が出来る事に気付いた僕は、ユラリと視線を影の方へと向けていく。
「お前……は」
『賢い子なのだから、それ以上話さない方がいいと思うが? 自分の状況を把握した方がいいだろうね』
「?」
男は僕の視線の中に入り込み、僕の喉を抑えた。トンと刺激を与えるとクビに激痛が走る。暗闇の中で気づいていなかったのだ。時分の喉を狙うように構えている針の正体に……
『これ以上声を出しても、何もいい事なんかないよ? 君の喉が痛むだけだ。今は我々の言う事を聞いた方が命拾いをするだろうね──それが嫌ならば……』
続きの言葉を遮るようにドン、とドアが開く音がした。荒々しく開くドアの奥底から聞こえるのはミオリの声だ。まるで自分の思い通りにならない不満をぶつけるように、八つ当たりしているみたいだ。
『荒々しいな、ミオリ君は。少しはユウを見習ったらどうだい?』
『……フン』
『まぁ、いい。今はその態度で済むだろうが、これから先はどうだろうか、自分の胸に聞いてみた方がいいね』
チッと舌打ちをするミオリは男に憎しみの混ざった感情を瞳から浴びせている。今の自分は表の人形でしかないと言う事実に気付き、この男に反抗する事が何を意味するのか理解しているからだろう。全ては自分の欲望を叶える為の行動には盲点がある。だからこそミオリは男に利用される形へと堕ちたのだ。
その事実に気付けない僕は自由を奪われた枯れ木だ。これ以上、少しでも動くと命さえ朽ちていく感覚が全身を包んで、恐れとして支配しようとしているのだから、この感覚は誰にも理解は出来ないだろう。
同じ境遇に陥らないと感じる事の出来ない感情と感覚なのだから。君達に伝える言葉なんて見つからないんだ。
あの時の僕は『弱かった』それだけは言える。