二人のBLUE
コーヒーの匂いが鼻先をツンと刺激すると、青い爪をした一人の青年が出て来た。
『いらっしゃいませ』
ネイルをしているように青ざめた爪が作り出す匂いは極上の質。ぼんやりと彼を見ていると私の視線に気付いたようで、視線を向けてくるのだった。トコトコとカウンターから出てくるこの空間に存在しているのは私と彼の二人っきり。まるで最初から仕組まれていたような違和感を感じながらも、平静を装う。
ドクン、ドクン──
今まで感じた事のない震えが全身を支配していくのが分かる。頭では分かっているこんな姿を見せる事がどれほど失礼な事か。ギュッと両手で震えを止めようと試みるが、収まるどころか加速していく。
コツン、コツン……
ぬっと顔を近づけてくると、クンクンと匂いを確認しているように見える。そんな彼の行動に驚きながらも、作り笑いをし続ける自分がいる。
『……お客さんは僕と同じですね。こびり付いて離れないでしょう? 何故、自分が生きているのかも分からないまま、人間の振りをしてる、違う?』
「……何をおっしゃりたいんですか?」
『言葉通りの意味ですよ。同じ匂いがする、君からは。だから僕達は『化け物』なんですよ』
言っている意味が分からない私は逸らす事も出来たはずだった。しかし、彼の瞳の奥に渦巻く憎悪と殺意、そして悦楽に気付いてしまった。彼の言う事はある意味『正しい』のかもしれない。でもそれを肯定する事も現実として受け止める事も私には出来なかった。
ああ──困ったな。
プツンと私の言葉が不透明になっている『空白』の二年間を生きた自分へとSOSとして信号を送る。これ以上言葉を聞いてはいけない、自分が本当の意味で『人』じゃなくなってしまう。それが本能的に分かるからこそ、悲しく笑いながら切り替わる。
護身用に持っていたスタンガンを取り出しながら、ゆらりとBLUEに変化していく。それは彼の爪色とは違った鮮明な色で私は自分で自分の足に突き刺した。このスタンガンは改造されている。上はスタンガンの機能をし、下にはランダムで六つの針が仕込まれている。その中で三本には毒薬が塗られている。それは自分に使う為にでも、標的を喰らう為でもある美しい芸術品なのだ。
自分の右足に刺さった針はドクリドクリと生きているように動いている。グニャンと歪む世界が面白くて、楽しくて口から血を吐きながら笑い続けた。
『君はこの結末を選んだんだね、残念だよ』
狂い笑いながら赤く染まる全身を見つめながら、彼は興奮している。それは少年だった頃に初めて見た血しぶきにも似た美しさだったからだ。自分の運命を決めたBLUEを見て、満足気に嗤った。
『美しい、そして面白い』