blue fog
目が覚めるとそこは青い霧が佇んでいた。それはまるでゆうの心に問いかけるように巻きついていく。遠くから具現化された言葉達が降り注ぎ彼女の体を貫き続けた。
埋め込まれ作られる事で現実からの痛みから逃げてきたのに、この空想の中でも同じなのかと感じてしまう。沢山の言葉達には誰かとの約束を象徴しているように見えて恐怖さえも感じた。
触れてしまってはいけない
自分が自分じゃなくなるよ
沢山の映像が繰り返し再生される、それはゆうの知らない記憶ばかりだった。諸刃の刃でしかない眠らされた記憶達はゆうが生きてきた証明をしているのに、拒絶する事でしか守れない。
進化せずに退化を選んだ彼女にとっては忘れたままの方が幸せなのだろう。
「お前はそれでいいのか? 兄さんはそんな事望んじゃいない」
「……だ、れ」
彼女の心に、記憶に、痛みに誰かが接触している。そっと優しく頬を撫でられる感触が浮き彫りになりながらも、近づけないように拒絶の言葉を繰り出した。自分を守るために言っているのに、何故だか心が泣き叫ぶ。
そんな事をしたくないと必死にゆうに反抗しているかのように。
夢が見せたのは彼女にとって閉ざされた過去の1部だ。
「遊羅……」
1つの名前を残すと、バチッと目を見開く。はあはあと過呼吸のようになっている事を理解した彼女は用意されていた錠剤を飲んだ。
「く……そっ」
涙が溢れて止まらない。悲しくないはずなのに、涙が出る理由なんてないはずなのに、声をころしながら泣き続けているゆうがいる。
そんな彼女を安定へと導く光の手が濡れた頬に手を添え、拭う。現実と夢の境目が分からないゆうにとっては1つの救い。
「大丈夫、貴女は独りじゃない」
懐かしい匂いと優しく温かい声で満たされていく。
この声、聞き覚えがある──
そんな事を呟きながら、意識を手放した。




