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RED NAIL  作者: 空蝉ゆあん
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歪み

パチリパチリとメッセージを打っている。私は知っているやり取りをしている「BLUE」と名乗る人物の正体を──


「リアルでもネットでも友人なんて笑っちゃう」


あの時の自分は余裕がなくて、弱かった。弱いのは今でも変わらないかもしれないけど、昔よりは強くなったと実感していた。簡単に逃げれる筈なのに、洗脳されてしまった心と体は身動きがとれなくなっていた。

見たくない現実と雁字搦めになる言葉の数々が降り注いで刃に変わる。苦しみ藻掻くあの頃の私とその光景を観察している今の自分の間には超えてはいけないラインが存在している。


「いつまでいい人ぶってんの? そんなに苦しいなら捨てれば?」

「……私はいい人じゃないよ。周りが必要としている私を演じているだけだもの」


私の代わりに憎悪を背負っている彼にそう言うと何かを諦めたように笑う事しか出来なかった。彼の言う通りだ、本当の自分を、欲を否定してまで都合のいい人間になる事ほど時間の無駄にしかならない。


──そんなん私が1番理解してる


彼の言葉は記憶の境目を壊していく。今までの私とは違う彼の価値観に触れ、変化が起き始めたのかもしれない。


毒は毒で制す


その言葉通り正反対のものを背負っている彼と私は手を取り合いながら、馴染んでいく。あわせ鏡の存在は全てを否定しながら、現実へと流れる。


ふっと我に返った私は止まっていた指を動かしていく。自分の指なはずなのに、つらつらと偽善の言葉が埋まって文字へと相手に流れていく。


「バカみたいだなぁ」


机に項垂れながら呟いた言葉には笑みが含まれている事に気づけない。


ああ、この感覚覚えてる。


理性を壊してしまったあの時の私に戻ったみたい。



「大丈夫、痛みなんて一瞬だから。あんたが泣いている時間よりも美しく、きっと生きてきた中で最高の快楽を得られるよ」



両手から伝わってくるのは血液が流れる音だった。心臓の音よりも脈の動いている感覚が好きだった。



私が欲しくなるのはあの人と同じ匂いがする人なのだろう。プライドが高くて自信満々で、どんな手を使ってでも邪魔をしてくる人。


そんな人と血が繋がっていると思うと嫌悪していたはずなのに愛しくて仕方がない。


「BLUEもあの人と同じ匂いがするんだよね。だから……」



約束を破ったあの人の縋り付いてきた記憶を思い出しながら酔いしれている。


「どんな事でも、そう。2度目はないからね」


クックックと自分の知らない低音の笑い声が闇の中へと浸透していく。否定したかった現実を、受け入れたくなかった過去の調理方法を見つけれた気がして高揚している。


なんて素敵な夜なんだろうかと、本当の幸せの意味を見つけた気がした。周囲からしたら歪んだ愛が見せている幻影だろう。でも私にとっては違ったんだ。



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