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RED NAIL  作者: 空蝉ゆあん
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反転していく世界


 全てが正解でも不正解な訳でもないのは分かっている。それでも……僕は。

 

 彼女の生末がどんな結末を迎えるのか分からないけれど、もうついていく事は出来ないと感じたんだ。自己防衛なのかもしれない。彼女の闇は僕が思う以上に深いもので、美しくもあり残酷でもあるのだから──


 最初はその魅惑にとりつかれていたのは事実だ。自分に持っていないものを手にしている小夜が魅力的に映っていた。表は光に包まれている、しかしその奥底には誰にも救いようのない残酷な闇を抱いていた。


 「君は後悔しないの?」

 

 ふと小夜が僕を試すように呟いた。一体何を言いたいのか分からなかった僕は、何も考えず軽く返答をしてしまう。それが絶望の入り口へと続くとは知らずに。


 「後悔なんてしないよ。僕は小夜の傍にいたいんだ」


 その言葉に偽りはなかった。ただ彼女の光に憧れて、隠しているものを知りたい一心で答えたんだ。自分は彼女に絶望と希望を見た。だからこそこの返答を選択したんだ。


 「今思えば……僕はどこまで残酷だったんだろうな」


 自分のしてしまった事を見つめながら、ため息を吐く。彼女の言葉は『毒』そのものだ。人の人生を良くも悪くもすることが出来る不思議な使い方をしていた。それは一種の洗脳(・・)だったのだろうと、今更感じた。


 滴り落ちるのは汗なのだろうか、それとも血液なのか。今の自分にはもう分からない。ボンヤリと見つめる空間は氷のように固まっていて、徐々に溶けて現実世界へと繋がっていく。


 「私達を裏切る(・・・)事がどんな罪か理解した? 私達は小夜の為に生きているのよ」


 ミオリがそう言い切ると狂ったように笑っている。少し離れるのは遅れていたら自分もあんな風になっていたかと思うとゾッとする。


 「僕は……間違って……ない」


左目を塞ぐように垂れてくる赤い液体。そのせいで右目でしか状況を把握出来ない。まぁここまで眩暈が酷いと把握する余裕もないだろうけど、意識があるうちに手を打てる所まで打つしかないんだ。


 ──もう後戻りは出来ない


 廃墟の中で朧月が僕達を照らしている。微かに見えるのは床に飛び散った僕の血潮。思った以上に出血が多いみたいだ。そりゃ眩暈もするわな。こうして立って会話をしているだけ奇跡だとも思うが、そこまで自分の想いは偽りではなかったと言う意思の表れなのかもしれない。


 「よくその状態で会話出来るわね。その根性だけは認めてあげる。でも……ねぇ?」

 「……ツッ」


 グラリと全てが反転していく。光が闇に染まり、闇が光を喰らう瞬間を僕は知る。


 体で

 心で

 景色で

 感覚で


 それでも後悔はない、したくなかったんだ。



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