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RED NAIL  作者: 空蝉ゆあん
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おもちゃ


 溢れる血は誰のものだろうか。


 沢山の人間達が僕を『化け物』と言う。


 そして母さんも……




 過去は逃げても、逃げても追っかけてくる。何度、悪夢を見ても『現実』は何も変わらない。飛び起きる度に『絶望』に苛まれていく。そんな自分自身の存在が『何者』なのか分からなくなってしまうんだ。だからこそ道化師は僕を欲しがっているのかもしれない。


 背負った『十字架』の存在に気付いている昔の僕を知っている可能性が高い。


 何が『夢』で『現実』か分からない。混乱を越えてしまっている僕の精神は異常そのもの。記憶を支配しているある人物が僕に囁きかけてくる。


 『実行する時が近づいているのよ、ユウ。私との『約束』を忘れている訳じゃないでしょう?』


 細い指先が具現化され、人間の姿に作り替えられていく。長い髪を靡かせながら、怪しく微笑む美しい人。


 僕の頬に触れる。長い爪を食い込ませて皮膚が破れていく。タラタラと血が溢れてくるのに『痛み』を感じる事はない。その代わりに広がっていくのは僕の欲望と化した『闇』だ。心が痛いはずなのに暗示にかかったように麻痺していくのが手に取るように分かる。


 戻れない

 戻りたくない

 喰わなきゃ喰われる

 潰さなきゃ潰される

 コロサナキャコロサレル


 

 『そう、それでいいの。貴女は私の『模倣』なのだからね』



 嬉しそうに楽しそうにスキップをしながら闇へと戻っていく女は僕の一部となり、刃となり、毒を落としていく。何年も何年も、僕の思考を行動を塗り替えていくんだ。


 「グッ……ああああああ」


 右半身が固まっている。意識はあるはずなのに動かせない。力を入れようとしても抜けていくんだ。そんな僕の苦しむ姿を見つめながら『道化師』が見下ろしている。


 『起きようか、ユウ。そんなに苦しいのなら『楽』にしてあげよう』


 彼の言葉は今の僕には届かない。だからこそ聞かれたくない事でも彼は一つの呟きとして残していく。無意識の中で自分の言葉を植え付けて、種から花開く瞬間を待つまで、道化師は『道化師』としてあり続ける。


 『お父さんが憎いかい? でもなユウ。忘れていた方が幸せな事もあるんだよ。だから思い出せない事は無理して思い出す必要なんてないんだ。その時(・・・)が来ればきっと……』


 注射針が光る、念の為に自動拘束機を作動して全身の自由を奪う。


 『右側が苦しいのだな? 私が助けてあげよう。あの女(・・・)の呪縛から、一時だけでも』


 機械はウィンウィンと部屋中に声をまき散らしている。誰かの声とリンクして、導かれるように鎮静剤を注入するのだ。




 闇は深くて怖い

 それでも

 赤い血は

 苦しむ声は


 僕の心を躍らせていく『おもちゃ』になっていく。

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