表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RED NAIL  作者: 空蝉ゆあん
14/52

執着心の存在


 カタン……


 「ん……」


 僕を夢から現実へと戻していく。一度目起きた時よりもスッキリした感覚の中で起き上がる。そこには『アユ』の姿は見えなかった。あれも夢だったのだろうかと不思議なくらい静かだ。どこからか微かに音がした気がしたのだけど、気のせいだったのだろうか。くるりと周囲を確認してみると、古い埃ががっている部屋だ。ドアの前には鉄格子が見える。二重扉と言う訳か。


 音を立てないようにゆっくりとドアへと近づいていく。どちらにしても鉄格子に手をかけると音が出てしまうだろう。気づかれてもよかった。ただ少しの可能性にかけたかったんだ。武器を持っていない僕は弱いだろう。それでも何かしら出来ると考えている。


 「……」


 心臓の音が加速していく。自分の感情の高鳴りと共に──



 Can you hear me?


 貴方に私の音が聞こえているかしら?




 『いいのかアユ。ボクの所にきて』

 「いいのよ、カカシ。接触は出来たのだからね」

 『ウム』


 カカシには理解出来ないだろう。考える事を放棄している癖に聞きたがる。ただ人間が会話を交わす真似をしているだけ。それがカカシ、仕方ない。


 「こちら(・・・)でも、現実(あちら)でも網は張った。後は開花するのを待つだけ」

 『コワイ、コワイ』

 「あら。ありがとう」


 私達の始まりを祝福するように黄色い月が赤く染まっていく。まるで人間の流してきた血よりも深く美しい。


 「そして醜い」


 ポツリと呟いた言葉はカカシの耳には届いていない。例え届いたとしても理解する事はないだろう。カクカクとクビを回しながらフリーズしている。長時間私との会話をしたせいだろう。人間と同じ言葉を使う私の真似をするのだから、だから──


 「壊れるのよ。ねぇ貴女もそうでしょ? いつまで人間(・・)のままでいるつもりなの?」

 『……ワタシは』

 

 カカシの音が眠りについたのを確認して私の傍に来たのね。何度も何度も自分の欲望の為に動いて『人間』としての自分を捨てた存在。その存在は私が闇の一部にする為の『食事』として置いていた。ただそれだけだったのに、彼女の呟きを面白いと感じたから、私の操り人形として生かす(・・・)選択をした。


 「人間は面白い生き物ね。私には到底理解出来ない。だけど貴女のその『執着心』の深さは知りたいと思うのよ? 純粋にね」

 『……アユ』

 「自由に出来るのはこの世界(・・)だけよ。現実(あちら)に貴女を連れていかす訳にはいかないの。そこは理解しているわよね?」


 影でしか存在を保てない存在はゆっくりと頷いた。もう人間の思考など残っていないはずなのにたった一つの『執着心』の為に残されているのだ。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ