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中年サラリーマン。副業、殺し屋。  作者: おれんじ
第2章 ホワイトハウス
9/11

田中、殺し屋組織へ向かう。

 土曜日。

 一週間で最も素晴らしい日。

 日曜日も良いが、なんと言っても土曜日は翌日も休みだという安心感と開放感を伴う。


 そんな気分も上々な土曜日の昼下がり、アパートのチャイムに反応してドアを開ける。


「やあ!ちょっと付き合ってよ!」


 志島月子。プロの殺し屋であり、俺を殺し屋に勧誘した女子高生。こいつ休日までセーラー服なのか。


「…また殺しの任務?あのさぁ。土日くらい休みたいんだけど。」


「いいえ?今日は誰も殺さない…多分ね!それに田中さんいつも夜遅くまで本業のサラリーマンしてるし…土日くらいしか副業に専念できないじゃん。」


「まあ…そうだけどよ。でも殺しじゃないなら何の用だよ。」


「少し話したっけ…私はフリーランスじゃない、とある組織に所属する殺し屋なワケ。」


「ああ。ホワイトハウスだっけ?」


「そうそう。あなたもそこの一員になったワケだからさ、メンバーに挨拶をと思ってね!」


「まあ…必要なことか。」


 殺し屋なんて聞けば非常に世間から離れた位置にあるように思えるが、しかし、やはりどの社会、どの組織においても人付き合いはあるし、礼儀という常識を全うする義務があるらしい。

 

 正直言って面倒くさかったが、挨拶に向かうしかない。


 俺は部屋着からスーツに着替えると、志島と共に歩き始めた。


「別にスーツじゃなくていいのに!あは!」


「…一応初めましてだしよ…スーツで悪いことはねぇだろ。」


 特に意味のない会話を続けながら電子に乗り、3度の乗り換えを経て着いた駅から徒歩15分。

 住宅街の一画にそれはあった。


「ホワイト…ハウス。」


「ええ。ここが我々の秘密基地よ!」


「ひ…秘密?」


 目の前の建物には看板が備えつけられており、デカデカと『ホワイトハウス』の文字が掲げられている。

 もう1つ不可解なのは…ここは…。


「クリーニング屋…だよね。」


「ええ。」


 志島は当たり前だという風な態度で店内に入る。

 俺は後を追う。


「いらっしゃいませ!」


 愛想の良い女性店員が挨拶を投げてくる。

 志島は彼女に注文をする。


「カーディガン、ダウンコートをオリジナル料金で。チョッキをロイヤル料金、スラックスはクリスタル料金ね。明日までにお願い。」


「…いや、志島。いきなり何を…。」


「かしこまりました。」


 女性店員が頭を下げると、志島はカウンターを通り越して、クリーニングしたスーツを掛けてある細い道を進み始めた。


「え?ちょっ?いいの?何これ…。」


「田中さん〜早く〜!」


「あ…あの…失礼します…。」


 俺は店員にそう声をかけながら、スーツをかき分けて奥へと進んでいった。

 しばらくして突き当たりに出る。

 そこで志島も待っていた。


「さっきのは…。」


「合言葉ね、合言葉。」


「じゃあ…マジでここが…。」


「ええ。ようこそ、ホワイトハウスへ。」


 何もないと思われた突き当たりの壁面だったが、志島が一箇所を人差し指で押すと、カチリと音が鳴り吐きめんがドアのように開いた。


 その先には螺旋状の階段があり、志島と俺はそれを下り地下に降りる。


 下り終わると、今度は隠されていない、明らかな扉。志島はそれを勢いよく開け放った。

 

「ただいま〜!」


 彼女が浮かれた様子で中へと入る。

 俺も恐る恐るそれに続いた。


 天井は剥き出しの荒々しい鉄筋が覆い尽くし、所々に白く光る蛍光灯が敷かれている。

 壁面も鉄筋コンクリートの無骨な作り…地下なので窓すら備え付けられてはいない。

 広さはそこそこあったが、無感情な室内は圧迫感や居心地の悪さを覚えさせた。


 目を引くのは部屋の中心…真っ赤なソファが4つ向かい合わせになるように配置されている。

 中心にはガラス製のテーブルが置かれ、その上には灰皿が1つ。


 そしてソファには…3人の殺し屋が座っていた。



「月子ォ……ソイツ何者だぁ?」


 瀬々漸次(ぜぜぜんじ)

 柄シャツを着こなす金髪のその男は、いかにもといった荒々しい口調で尋ねる。


「志島さん。ここへはメンバー以外立ち入ることは禁止されています。忘れたわけじゃないですよね?」


 漆間総一(うるまそういち)

 厚手のコートで全身を隠す眼鏡男は、落ち着いた声で言い放った。


「…………。」


 我赫雛(ががくひな)

 黒いドレスを纏った黒髪の女性は無言のまま。

 前髪の間からは真っ赤な瞳が覗いていた。


 

 決して無個性とは言い難い3人だったが、1つだけ共通していることがあった。

 

 敵意。3人はこちらを見つめ、そして俺を睨んでいる。


「ちょちょ、志島…。何か誤解されてない?俺ももうここの…ホワイトハウスのメンバーなんだよな!?」


 俺は完全に怖気付き、コソリと志島に耳打ちをした。


「……。ごめんね、田中さん。」


「あ?何の謝罪だよ。」


 志島は俺のその問いには答えず、瀬々と漆間と我赫の3人の方を向き言い放った。


「この人ね!ホワイトハウスのメンバーになりたいんだってー!どう思う?」


 話しが違う。というか嘘じゃねーか。

 俺は確かに志島の誘いを受けて殺し屋になると言った。だがホワイトハウスに加わりたいなど一言も口にしていない。

 というか志島の口振りでは、俺は既にホワイトハウスに加わっている様子だった。

 


 兎に角…この一言がまずかった。

 初めましての3人の敵意は殺気に変わっていた。

 

 動いたのは瀬々だった。


「月子ォ…テメーがワザワザ連れて来たってコトはよォ…お前はこいつを入れてぇんだよな…ホワイトハウスのメンバーによォ。」


「まぁね♪」


「……理由は聞かねぇ。どうでもいいし意味ないからなぁ。ホワイトハウスのメンバーは誰もが殺しのプロ…最低限必要な殺しの力ってモンがある。

この男は見るからに素人…月子にどんな思惑があろうがこの時点でコイツはボツだろォ。」


「…瀬々。言っとくけど…コイツ、瀬々より強いよ。」


「「ああっ!?」」


 俺と瀬々とは同時に声を上げていた。

 ただでさえ俺がこの場にいることを好ましく思っていない様なのに…煽ってどうする!?


「ク…ククク…。」


 瀬々が笑っていた。

 冗談として…受け取ってくれたのだろうか。


「上等だコラ…ここで今…殺してやるよ。10秒後に生き残ってたら…入団も考えてやる。」


 真逆だ!!ブチギレてる!!


 俺は何とか彼をなだめて貰おうと志島を見るが、彼女にその気は皆無だった。


「ごめんね、田中さん。田中さんにはホワイトハウスに入って欲しかったけど…実力を示さないと無理だからさ…瀬々を倒して証明してよ。」


「聞いてねぇよ!!」


「言ったら来なかったでしょ?」


 瀬々が俺に向かって駆け出す。


 「ひぃぃっ!!」


 ああ…結局また…殺すだの殺されるだの…そういう展開かよ…。

 

続きます。

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