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中年サラリーマン。副業、殺し屋。  作者: おれんじ
第2章 ホワイトハウス
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田中、反撃を開始する。

 瀬々は目の前の相手の様子が変わったことに驚いたが、それが致命的な隙になることはなかった。

 瀬々が掴まれている右手を強く引くと、俺の上半身も引き寄せられる。

 ガラ空きになった顎に向かい瀬々の膝蹴りが繰り出される…が、俺はそれを右手で受け止める。

 それと同時俺は左手の力を緩め、掴んでいた瀬々の右手を開放する。

 

 両者共にフリーな状態となり相対する。

 しかしその心持ちは異なっていた。

 自らの攻撃を連続して防がれた瀬々は動揺し…何より怒りを覚えていた。

 それは強い殺意となり…その殺意は俺の殺意の栄養にもなった。


「何だ…急に防ぎ始めたな。」


 漆間が眼鏡を光らせる。


「……雰囲気が……変わった…。」


 我赫も無機質な音声ではあるが驚いている様子だ。


「ね?私が連れてきただけあるでしょ?」


 志島が得意げに胸を張り、さらに続ける。


「田中さんの殺しはね…誰より美しいのよ。」



「ヴォラぁぁアアァアアア!!!」


 瀬々は咆哮し、両腕両足、頭すら使って脅威的な速度で連撃を繰り出す。

 しかしそのどれもが命中しない。


 最小限の動き…腰の捻りと腕や足を使って丁寧に一撃一撃を受け流していく。


 その運動量の差は激しい。

 状況は数分前と真逆だった。

 追い詰められ、息を切らしているのは今や瀬々の方だった。


「ハァッハァッ!ハァッハァッ!」


「………。」


 外で見ている漆間たちの心境も穏やかではない。


「おいおい、まさか勝つのかよ…瀬々に。」


「…避けるのが……上手いだけ………それじゃ瀬々には勝てない……。」




 「ッアアァアアア!!」


 瀬々は連続した攻撃を切り上げると膝を曲げて腰を落とし、右腕を引く。


「出る…一撃必殺技…。」


 漆間が呟く。


 膝のバネと腰の回転力…全ての力を込めて放つ瀬々の右拳は正に必殺…。

 グローブを付ければ鉄筋すら砕く威力を持つ。


「テメェ……なんかに本気とはなぁ…!」


 放つ。

 高速の拳は肉眼では捉えられない。

 そして拳は…俺の頬を捉える。


 それと同時、俺は首を捻る。


 拳の勢いを…完全に殺す。


「ス…スリッピングアウェー。…ボクシングとかでつかわれる技術だよな。志島、あいつ格闘技経験が?」


 漆間の疑問に志島が答える。


「いいえ。何もないそうよ。というか…現役のプロボクサーでも今の瀬々の一撃をかわす事なんて出来ないでしょ。」


「そ…そうだが…。」


 今度の瀬々の動揺は激しかった。

 一撃必殺のつもりだった。これで終わるつもりだった。

 事実、当たった…が、勢いを殺された。ダメージを与えることが許されなかった。


 しかし…まだ外しただけ。

 こちらの攻撃が失敗に終わっているだけ。


 向こうの有効な攻撃が無い限り、俺が負けることはない。


 その考えは正しかった。

 そう、瀬々が負けることはない。

 攻撃を当てられない限りは。


 後ろ回し蹴り……瀬々が思考を巡らせ、尚も有利なのは自分の方だと確実したのと同時、彼の側頭部は撃ち抜かれていた。


「ぐぅっ!?」



 我赫は赤い目を光らせながら驚く。


「!?……何が…。」


 漆間も思わず立ち上がった。


「今の速度…雛には見えなかったか……回し蹴りだ…恐ろしく速い…。恐らく…。瀬々以上…。」


 得意げな志島も驚いていた。

 そしてまた一つ田中という殺し屋の性質を理解しようとしていた。


 脱獄囚、土田洋太を殺した際には、彼の使う包丁を利用して返り討ちにした。


 剣山会組長、松原信玄を殺した際には、彼の使う日本刀でトドメをさしていた。


 そもそもが相手の殺意を自らの殺意として呑み込むという手順…。では、相手の持つ武器、あるいは戦い方や得意とする攻撃方法すらも模倣するのは不自然とは言えないのではないか。


 相手の全てを呑み込み、凌駕し、圧倒する。


「これが……田中さんの殺し。」


「あっああっ!はぁっ!はあっ!」


 頭から血を流す瀬々は必死に立っている。


 意識も朧げで、足腰に力が入らない。

 それでも倒れないのは、彼に殺意が残っているから。


 目の前の男を殺す。

 その一心でのみ立っていた。


 しかし殺意は…目の前の男にとっては養分である。殺意は伝播し捕食される。




 俺は一歩、二歩と瀬々に近付く。

 瀬々は動かない。動く力もない。


 やがて目の前にたどり着く。

 瀬々は血が染み渡る目を開いてこう言った。

 いや、言葉には出していないが、それは確かに伝わった。


「殺す。」


 それに呼応して、俺は最後の一撃を繰り出した。


続きます。

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