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幻の舟

作者: 岸亜里沙

織田信長の一代記として知られる信長公記に、封印された幻の記述があった事を知っていますか。

家臣、太田牛一が記した信長公記の中で、唯一封印された記述、それは信長の構想にはあったものの実現する事がなかった軍事作戦でした。

しかしこの記述が発表されていたら、世界の歴史は一変したかもしれません。

その幻の記述の概要を、小説風にここに記したいと思います。



信長様はある夜、重臣たちを集め、壮大な計画を立案されました。

(わし)は素晴らしい作戦を思いついた。この(そら)の広さを利用しない手はないとな」

信長様は意気揚々と話し始めました。

「と言いますと?」

重臣の一人が尋ねました。

「この蝋燭の火を見ろ。この火から放たれる熱は、(うえ)(うえ)へと昇っていくのだ。比叡山延暦寺を焼いた時に、(わし)はその光景を見ていたのだ。木屑が、紙が、(そら)へと舞い上がる様をな。そこで(わし)は考え続けた。この熱を利用すれば、鳥のように(そら)へと翔び立つ事も出来よう」

信長様の言葉に、重臣たちはまだ理解が追い付いていないようでした。

「よいか、大きな雨傘のような物を作るのだ。松明で火を起こし、その熱を雨傘で捕らえ、そらへと舞い上がらせる」

信長様は身振り手振りを交え、ご自身が立案された作戦を重臣たちに説明されます。

「そして舞い上がらせた雨傘には投石用の石を積む。それを風上から敵陣へと向けて翔ばし、頭上から石の雨を降らすのだ。まさか敵は(そら)から攻撃されようなどとは、思いもよらぬだろう」

信長様のこの作戦に、重臣たちは驚きました。

(そら)からの攻撃など前代未聞です。

「いやはや、(そら)からの攻撃とは想像も出来ませんでした。さすがは信長様でございます」

重臣たちは皆、感嘆の表情を浮かべております。

「それはまるで、(そら)を進む舟ですね」

重臣の一人が言いました。

「如何にも!」

信長様はご満悦でした。

「では早速準備にかかれ。敵共に目にもの見せてくれようぞ」

信長様は重臣たちに急ぎ命じ、この未知なる兵器の完成を心待ちにされたのです。



牛一の記述はここで終わっています。

敵に気づかれぬよう、極秘裏に制作と実験が進められましたが、明智光秀の謀反による本能寺の変が起きた事で、この作戦は頓挫する事となったのです。



しかし信長のこの作戦は、約400年後に実現される事となりました。

第二次世界大戦下、戦況が悪化した日本軍は、この信長公記の幻の記述を見つけ、百戦錬磨の信長に肖って風船爆弾という兵器を作ったのです。

和紙と蒟蒻糊で作られたその風船爆弾の幾つかは、太平洋を越え、アメリカ大陸まで到達したそうです。



人類初の気球が開発されたとされるのが、1700年代になってからと言われています。

もし戦国の世に信長が作り上げていたとしたら、世界戦史はどうなっていたのか、気になって仕方ありません。

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