髪型
Ⅰ 13月36日 -髪型-
お金が無いと母は愚痴る。
よくあることで、私は母の気に入られようとその愚痴を只管聞く。
少しでも出費を減らして母に貢献し、助けたかったし機嫌よくいてほしかった。
服はいつも1サイズ小さくシミもあり、生地はくだびれていた。
靴下や下着のゴムは略消滅していた。
髪も外で切るなどお金をかけるわけにはいかなかった。
母に切って貰っていたが髪型は母が決めた。
前髪がまあまあのぱっつんでオカッパから「カッパ」というあだ名で学校で呼ばれていた。
聖子ちゃんカットが流行していた時期で小学校高学年になると女の子は髪型を工夫しだした。
ブローで横を流したり中学生になるとふんわりとパーマを当てている人もいた。
それが可愛くて別世界の人のようだった。只管羨ましかった。
学校では生活指導で女子の髪をチェックすることが増え体育館に順番に横一列に並んでは厳しい先生が校則違反を摘発していた。
やがて「これはダメ」「これはパーマでしょう!」と数人が指摘を受けながら先生がやってきた。
すると「ナニコレ、ダッセー!!」と大声で言いながら定規で私の頭を小突くのだ。
一瞬だが体育館中にその声は響いた。
私は体も表情も凍り付いた。本当に”凍る”のだ。
先生は何事も無かったように次々チェックしていく。
周りの生徒は「なに?なんて言われたの?まさかね」とざわついている。
凍り付いたままでも意外に精神的に大丈夫であった。何故なら感情も凍り付いたから。
美容院のお金は出してと言えない。
だから母に前髪はこうしてほしいと言ったのだが馬鹿なお前におしゃれは厳禁だと無視され又カッパにされた。
明日から又カッパと呼ばれるのだ。ダッセー!!と思われながら。
それを思うと惨めで涙が溢れてきて、本当に自然に”溢れ”てきてとめどなく流れる。
そんなことが中学生時代何回か繰り返されていた。
先生は容赦なく嘲笑し私は凍る。
私は自分を守るため、自分を凍らせて、隣にもう一人の自分を存在させる。
凍った惨めな自分と、平気な自分だ。
平気な自分さえ”自覚”していればへっちゃらだ。
凍っている気の毒な人は今は”わたし”ではない。
色んな場面でこの手を使って正気を保ってきた。
得意技と自覚するほど、こういう場面に度々遭遇した。
人って意外と何とかなるようにできているものだ。
便利便利。
正常ではないがね。