佐久間・中科医院
「たまにはいいもんだな。日曜の昼間に2つ先の駅で降りて、住宅街の店で昼飯ってのも」
「ああ、食った。食った」
「しかし閑静な住宅街。」
【佐久間・中科医院】
〔年中無休〕
「病院?年中無休?」
「コンクリート打ちっぱなしのモダンな病院だけど、、中科?」
「中科って何?ちゅうか?なかか?」
「知るかよっ。内科と外科、両方診れるって事じゃない?」
「間を取って[中]?」
「普通なら[内科・外科]って看板だよな」
「けどさッ、[中]と[内]って同じ意味じゃね?間とってないし」
「ちょっとさぁ、お前行ってみな」
「ここに?」
「熱が出た!でいいじゃん」
「そんな嘘ついて? 熱なんかないし、怪我一つしてないよ」
「ほら、よくあんじゃん。朝方熱があってさ、病院行ったら下がっちゃってて右往左往」
「よくは無いよ」
「それ使えよ」
「だったら、お前が行けよ」
「あっ、俺さ国保なの。高くつくだろう?」
「ちっ。なんだよそれ」
「けど興味あるだろ?[中科]?」
「、、ある。」
「俺は用事あるから先帰ってるわ。また後で教えて[中科]の事」
ーーーーーーーーーーーーーー
ガラっ。
(ん?誰もいない)
「ごめんくださ~い!すみませ~ん!」
(インターホンがある)
ピンっポ~ン!
『は~い!いらっしゃいませ~!どなた~!?』
(どなた?いらっしゃいませ?)
「診察をしていただきたいのですが~」
『そのままお入りくださぁい。玄関上がった所のドアを開けますと診察室ですので~』
(いきなり診察室。けど病院である事は確かだ。第一関門クリア)
「失礼します」
ガラ。
(えっ、女医。インターホンの声はこの方?)
『はい、こんにちわ。そこにお掛けになって下さい。今日はどういったご用件で?』
(ご用件、、?)
「はい、朝方ですね、ちょっと熱っぽいなと思いまして、測った所37・6度ありましてぇ」
『分かりました。じゃこれで、計ってみて。たぶん熱は無いと思いますがっ』
ジーーーーーーーーーー
『はい、体温計返してください』チラっ『36・5℃。平熱』
「あちゃ~、朝はあったんですがぁ、、」
『嘘おっしゃい。』
「えっ?なぜ嘘と?お分かりに?しかも測る前から熱は無いと」
『あのね、うちの病院[中科]よ。聞いた事ないでしょ?』
「はい」
『外科でもない内科とも書いてない。なのに熱が出てここに来る。おかしいでしょあなた。その段階で興味本位』
「、、、すみません。そのとおりでございます」
『ほらごらんなさい』
「では[中科]とは?」
『聞いちゃう?私の身の上話?』
「はい、是非」
『私ね、こう見えて医大出てんのよ。』
「当然かと」
『けどさっ、医療ってものに全く興味がなくて、学生時代は毎日デスコでお立ち台。腰をうねうねワンレン・ボデコン。そう、4年間ずっと。単位だけは取得。試しに国家試験受けたら、、受かっちゃた』
「天才。」
『まぐれ。で卒業したけどやる事なくてさ。ほら私金持ちの娘でしょ~。 開業医でもやるかってなってさ。けど病気の事も薬の事もなんにもわからないでしょ。呆れた客はみ~んな帰っちゃう。閑古鳥。』
(今、客って言っちゃったよ)
『で、一念発起。新規開拓、企業努力。なんと内科と外科の間をとって[中科]に改名!』
(図星だったのかよ)
『そうしましたら、売上倍増。ひっきりなしに客がクルクル。企業努力が実を結んだ』
「なぜです?」
『あなたみたいな興味本位で来るお客様がワンサカ。しかも一石二鳥。』
「一石二鳥?」
『だって来る方来る方皆健康。興味だけ。治療を施す必要なし。腕を奮う必要皆無』
「けどそれでは、単なる、、藪医者?」
『あらぁ?それでしたら熱が出たと嘘をついて病院に来たあなたは、藪患者ではないかしら?』
(やぶ患者、、)
『けどぉ、せっかくお見えになって頂いたので、お薬出して置きましょう。カルテ書いてお薬出しとけば、ほら、お国からお金がね。保険適用』
「、、この白い錠剤はなんです?」
『一日3錠。朝昼晩。今ならお試し価格の上に、更に無料サンプル3日分をお付けいたしますわ。』
「ですから、これは?」
『ラムネ菓子。それっぽいでしょ? 錠剤ぽい』
ーーーーーーーーーーーー
「今週もどっか食べに行くかぁ?今度は3つ先の駅辺り。どう?」
「今日はやめとくわ」
「何で?暇だろ?」
「ちょっと今日はあの病院へ、、」
「えっ?お前ただの藪医者だって行ってたじゃん!」
「いいからいいから。だから昼飯行かない」
ーーーーーーーーーーーーーー
ピンポ~ン!
『あら!この間の! リピーターですね。お待ちしておりました。』
「はい、リピート致しました。佐久間先生」
『そう思いご用意してございますわ。錠剤。一週間分でよろしいですか?』
「はい、大変美味しゅうございました。ラムネ菓子」
『処方いたします』
「マイバックに」
「ではまた来週の日曜日に」
『お目にかかりましょう』
彼は患者ではなく女医の言うところの「お客様」になっていた。
※短編
「赤煉瓦の喫茶店」
「小判虫と寄生人間」
「音の証明・耳の適応」
他
こちらも宜しければ是非!