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[序]星屑の漂流者—水の大賢者—  作者: くろめ
1つ目 水の光玉
9/22

その不審な男、危険につき

 校門を抜け、帰路に立つ。

 ルイは歩道寄り。ルディミハイムは道路寄りで歩みを進める。

 そうしてルイは伸びをする。ようやっと落ち着いた様子だ。


「やーっと解放されたー」

「だいぶお疲れだな、ルイ」


 入学式が終わった後、教室に案内され、担任から自己紹介があった。


「まあゆっくり仲良くなっていけばいい」


 とのことで、生徒側の自己紹介コーナーは省かれた。

 おかげで割とすぐに、クラスの行事からは解放されることとなった。

 ルイとしては自己紹介でスベり倒す心配をしていつつも、即興でどんなネタを披露しようか思案していたため、少し残念そうである。


 だが教室の外に出ようにも次は部活動の勧誘が煩く、なかなか抜け出すことができない。

 それだけでなく、ルディミハイムが人気過ぎるのだ。単に目立つからなのかもしれないが。

 紅一点を獲得せんとばかりに運動部が駆け寄ってきたり、或いは文化部の女子が話しかけてきたりした。


 その度にルディミハイムはその概要をとりあえず聞いていく。


「野球ってなんだ? それを投げてどうするんだ? その棒はなんだ……?」

「サッカーってなんだ? 野球の球とは違うのか? 蹴るのは少し抵抗があるな……」

「陸上競技……。走るだけじゃないのか……? 投げたり飛んだり……。少し興味ある」

「芸術? 絵や写真、彫刻を彫ったりか……。私には向いていないかもしれない。そういう人でも歓迎? 考えておく」


 終始このような調子なため、当然「なに言ってんだこいつ」という目をされる。

 その度にルイが「記憶喪失でしかも外国出身なのでー」と伝えることで事なきを得る。

 だが、この言葉を怪しむ者も中には居る。

 

「記憶喪失なのになんでこの学校入れたの?」


 斉藤とやらのこの一言に二人は内心ギクりとする。

 このエピソードをまるで考えていなかった。


 だが、斉藤のことをよく知る者達が仲裁に入ってくれる。


「やめなよ斉藤君、ルディミハイムさんを困らせないで」

「でも気になるんだよ」

「空気読めよ斉藤。理由があるんだよ」

「俺が悪いんか!? なあ!?」

「うるせーぞダ斉藤」

 

 初日から散々な言われ様な斉藤であった。

 これを見てルディミハイムは頭を抱えつつ、毅然と振る舞う。


「喧嘩はよしてくれ。争いは嫌いなんだ」


 彼女が口論に割って入ることで、その場は落ち着いた。

 側からその光景を目の当たりにした女子の一部は、この行動に心の中で拍手喝采なのであった。


「ヒソヒソ(ルディミハイムさんってかっこいいね)」

「ヒソヒソ(隣の人……夜天君は実は彼氏だったり……? 優しそうでかわいい)」


 二人のあずかり知らぬところで、密かな人気を集めていくのだった。

 さて、時は戻り現在。


「部活どうする?」

「面白そうではあるけど、入る気はないな」

「同じくー」


 部活に入ることで忙しくなっては元も子もない。

 楽しそうだが集団行動は苦手。

 雰囲気が暑苦しい。爽やかさが欲しい。

 など、他愛のない話をしながら帰り道を歩く。


 まだ少し肌寒さが残る、時折吹く風。

 その風と共に、ルディミハイムは何かを感じ取る。


「…………」

「どうしたの。立ち止まって」

「誰かに見られている気がする」


 そう言うと、少女は周囲を見渡す。

 だが、その正体を見つけることは出来ず。

 とりあえずは「気のせい」ということで自己完結する。


「なあ、走ろう」

「え、どうしたの」

「このまま外に居てもいい事はない。勘だ」


 少女が感じたその気配は、敬意や慈愛のような温かみのあるものでは決してない。

 寧ろその反対で、否定的な眼差しを浴びせられたような冷えた感情であった。


 少年にはその気配を感じられなかったが、少女の反応を見て只事ではないと理解する。


 ただそこは通学路。

 中学生のみならず、小学生たちも行き交う住宅街のメインストリート。

 このような目立つ場所で、果たして誰かが攻撃してくることがあるだろうか。


 少女らはその気配を気にしつつ、急ぎ家を目指すのだった。




    ☆☆☆


「気づいたか」


 少年少女の後方。

 細道から顔を覗かせていた、胡散臭い男が一人。

 バレては元も子もないだろうと、身をそっと細道に隠す。


  その名は、『リガルス・レイジモンド』。

 

 集中が切れてしまったのか、ズボンの右ポケットから煙草のソフトケースとライターを取り出す。


「空じゃねえか。しゃあねえな」


 ぐしゃりとケースを潰し、またポケットに仕舞う。

 男は雲のかかった青空に目を向け、空を仰ぐ。


 そこに無垢な幼女が男の下に歩いてくる。


「ん? なんだい嬢ちゃん」

「なにしてんのー?」

「あー、仕事してんだよ」

「おしごとー? おてつだいするー」


 若干5歳ほどの幼女はそう言うと、細道からぴょこっと顔を出す。

 そうして遠くを見やると、男に向かってにっこり笑う。


「あかいこ、かわいいね!」

「はぁ? 見えるのかお前」

「みえる! でも、こわいのかな」


 男には不思議で仕方がなかった。

 赤髪までの距離はおよそ50メートル。並の人間では表情を視認することは不可能である。

 それも横顔だ。容易に判断できるものではない。

 だがこの幼女はいとも簡単にやってのけた。


 その幼女が只者ではないことは、男には十二分に理解できた。


「おじさん、いいひと?」


 幼女は男を不審者と疑ったのか、それとも男自身の『仕事』について触れたのか。

 ともかく尋ねられた男は少し考えて答える。


「さあな。悪い人かもしれねえぜ」


 長細い銃を持ち、肩に担ぎポーズを取る。

 銃口は背中の斜め上を向いていた。


「少なくとも、仕事の間はな」


 幼女はただ、その姿を透き通った瞳に映し込む。

 無垢な瞳に、男はどう映ったのやら。

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