入学式のそれは、ある種運命のトモし火
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晴天。
爽やかな風が、まるで歓迎するかのように優しく新入生を包み込む。
これからの生活に期待と不安を寄せて、少年少女達は門を潜る。
既に友達同士だったらしい男子二人組や、互いに睨みつけるような目つきで自己紹介をする女子二人組。ただ一人黙々と本を片手に歩く少女など、数えていてはキリがない。
そんな中、桜が似合う季節に、桜より赤い髪色の少女がよく目立つ。
パステルレッドの髪色に、向かって左に垂れ下がる一本のアホ毛が特徴的である。
「みんなこっち見てくるね」
「この髪、意外と目立つんだな」
ルディミハイムはショートヘアーなその髪をくるくると弄りながら歩く。
どうやら顔立ちが色白なこともあって、ハーフと勘違いされている様子。
「えー何あの子可愛いー!」
「外国って感じ!」
上級生の女子たちだ。
入学式前だというのに、少女はかなり注目されている。
「…………」
終始こんな調子で入学式会場、もとい体育館へと入っていく。
入り口で名簿のチェックをしてもらう際、大人は一瞬硬直し、疑問符を浮かべていた。数人が確認をしていた。
それはそうだ。昨日までの名簿にルディミハイムは存在しないのだから。
体育館にいる新入生はまだ少なく、数えられるぐらいの人数だ。
「静かだな」
「始まるまでまだ時間あるもんね」
「こう、パーティー! みたいな感じではないんだな」
「式典だからね」
「そういうものなのか」
ルディミハイムは厳かではなく明るいものを期待していた様子。
一人一人がジュースを片手に談笑する訳ではないと知り、拍子抜けしている。
対してルイは小学生の頃に散々面倒な式典に参加させられていたため、もう慣れっこである。
クラスは一組。席は出席番号順。
ただ、ルディミハイムは末尾の席だった。カタカナが特殊なのか、それとも突然だから後ろにねじ込んだのかは不明。
夜天ルイは後ろから二番目のため、必然的に隣同士となる。
時間がまだあるためか、ほとんどの新入生は中に入ってきていない。
しばらく黙っていた二人だが、ルイが話の続きとして口を開く。
「……ってことはそういう、パーティーみたいな式典が多いところで暮らしてたってことなのかな」
「なるほどな。うーん。具体的には分からないな」
「そうだよねー」
簡単なイメージがあったとて、それが記憶の手がかりに繋がるということはなく。
少女もこんな短期間で思い出せては苦労もしないし、少年も簡単に思い出せるとは思っていない。
些細なことでも積み重なれば手がかりになるかもしれない。その思いから自然と発していたのだった。
話している最中、ルイの左隣に女の子が座る。
本を片手に座ると「はあ」と一息。緊張とも取れるその呼吸の後、すぐにまた持っていた本を開く。
ルディミハイムは、その女の子にひっそり注目する。
だが、しばらく待ってみてもページを捲る様子はなく、同じページをただ眺めているだけのように見えた。
それが彼女にとっては不自然で仕方がない。
だがルイの隣である以上、不用意に話せば本人に聞こえてしまう。
そのルディミハイムの様子にルイも気づいたようで、女の子の持つ本に意識が向く。
「あー! その本!」
これまでにない大きな声を発する。
女の子は少し驚いたものの、声に応じてルイの方を向き口を開く。
「……え、知ってるの?」
「うん。欲しかったけど買えてなかったんだ!」
それは、オカルトの基礎とも呼べる本の一つ。
ルイにとっては喉から手が出るほど欲しいもので、本当ならば入学前に購入してもらう手筈のものだった。
「もしかして、こういうの好きなの?」
「動画も結構漁ってるよ」
「へえ、変わってるね」
そう言うと、再び女の子は読書に戻ってしまう。
ルディミハイムもルイも、お互い目を合わせると首を傾げる。
「そういえばルイ」
「どしたのベガ」
「昨日おじさんが出してくれて服に敷いたアレ、一体なんなんだ?」
「あー涎掛けのことね」
空気があまりよろしくなかったので、二人は再度関係のない話でお茶を濁すのだった。
女の子は気が散って仕方がなかった。