幕間 ひそかにトモる決意
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やけに騒がしい声が聞こえた。
普段は静かなはずの、このヒカリさんのお家。
でもなんだか今日は賑やかみたい。
入り口は誰でも入れるようになってて、オープンな状態。
監視もいなくて不用心。
いつでも誰でも立ち入って良いって言ってたのはヒカリさんだけど、このご時世なんだから、もう少し防犯意識は持ったほうが良いと思う。
入ってしばらくヒカリさんを探し歩いていた時に、大きな声が聞こえて来た。
その在処は、きっとここかな。
「……執務室」
執務室といえば、私も一週間前に訪れた。
ヒカリさんが教えてくれた、姉を助け出す方法。
それは光玉なるものを5つ集め、願いを叶えることだった。
でも、私は昔から体力がなくて、運動神経もない。
だから自分には絶対無理だろうと思って、その場では断ってしまった。
それを今になって後悔している。藁にもすがる思いだったはずなのに。
だからもう一度、ヒカリさんに頼んで教えてもらおうと思ってここに来た。
そろりそろり、開いたままの扉から覗き込む。
ヒカリさんとそして向かい合わせに座る二人がいる。
顔は見えないけれど、少なくとも左の子は見たことがないと思う。
町の外から来た人たちかな。
あんなパステルレッドな髪色の人に会ったことはないし。
「じゃあ、明日から探索だね」
「入学式や説明会の全てが終わってからにしてね。折角の晴れ舞台なんだから楽しんで」
——ああ、そうなんだ。
あの二人、天ノ峰中に入るんだ。
でもどうしてこんなところに?
ただ入学するだけなら、わざわざヒカリさんのところに来る必要はないと思うけど……。
「終わったら3時間ぐらい探そうか」
「そんなに焦る必要はないよ。毎日少しずつでいい」
「でも、誰かに取られたら大変」
「そんな簡単に見つかるものでもないだろう」
盗み聞きをするのは悪いこと。
でも、聞いてしまう。
興味が湧いたことは、解決しないと気が済まないから。
だけどこの二人、一体何を探すつもりなのだろう。
急いでないみたいだけれど。
「アマノ、他に光玉のことを知っている人はいるのか?」
……!
光玉って言った。たしかに言った。
「ええ。一人だけ。でもあまり乗り気ではなかったから、多くは語ってないよ」
きっとそれは私です。ひっそり後ろで聞いてます。
「そうか。ならそれほど急がなくてもいいな」
「冒険は楽しみだけどね〜」
「うん、楽しみだな」
ああ、そっか。
私以外にも光玉を狙っている人がいたんだ。
…………。
悪いことを閃いてしまった。
本当なら、こんなことしてはいけない。
でも、自分にとっては一世一代のチャンス。
思っても見ないことだけど、これで良いのかもしれない。
これはいくら身体が弱くても、体力がなくてもできること。
彼らが集めた光玉を、最後に奪ってしまえばいい。
自分の力では、どう考えても集めることが出来ない。
だけど、他人が集めた後でそれをひっそりと盗み出せたなら……。
あの二人にも願いがあるのかもしれない。
だけど、私以上に重たい願いではないはず。
アドベンチャー感覚でお宝探しをしたいだけでしょう。きっとそう。
私の願いは、姉を生き返らせること。
命を落とした双子の姉と、また一緒に過ごしたい。
その願いを叶えるためなら、卑怯と言われることでもする。
今日、この場で私がこの話を聞けたのは運命なのかもしれない。
そうじゃなければ、こんな偶然に巡り会えることなんてないはず!
赤色の髪の子は分かったけれど、もう一人は……?
せめて髪だけでもしっかりと覚えときたい……。
学校生活の中ですぐ分かることだけど、目に焼き付けたい。
ん……見えそうだけど、うまく見えない……。
「……ん。誰かいるの? 入って良いよ」
「…………」
うかつ。顔を出しすぎた……。
ヒカリさんに気付かれた。どうしたらいい……?
入ったとして、何をしたらいい?
謝るべき? それとも偶然を装って、あたかも今来たかのように振る舞うべき?
いや、でもこの場から離れてもバレないよね?
悪いことしてるけど、結局私がやったってバレなければ良いんだもんね。
あくまでヒカリさんは気配に気づいただけで、誰なのかは分かってないはず。
うん。そうだ、立ち去ろ——。
「…………」
「…………」
考えてる間に、ヒカリさんが扉を開けてしまい、私たちは至近距離に。
「あれ、あなた……」
「——は、はい……ちょっと、その、ご用があったんですが……立て込んでいるみたいですね? かか、か、帰りますね!!」
逃げよう。ひとまず退散。
「廊下は走らないで!!」
早歩きで。
遠くからヒカリさんのお怒りが聞こえたので。