とある少女と少年の夢
「じゃあ、後で執務室へ来てね」
ヒカリはそう言うと足早に部屋を立ち去る。
彼女もそれなりに多忙のようで、時間に気づくなり1時間は自由にしていて欲しいと言われる。
ルイは自分の部屋に戻ることも考えたが、身体もまだ怠い中で動くのは億劫だ。
そこで彼はしばらく、記憶喪失の少女ことルディミハイムと話をすることに決めた。
とはいえ、こちら側から質問をしようにも彼女が何を覚えているわけでもない。
だがそれでも、この部屋から出るという選択だけはルイには浮かぶことはなかった。
側に居てあげたい。
彼がまだ短い人生の中で思ったこともない思いを少女に抱く。
それは決して恋愛感情ではなく、あくまで「一人で居たら寂しいだろう」という推測のもと動いた優しさである。
ふと、ベッドで横になっているルディミハイムを見やると、彼女もまた少年を、ほぼ同じタイミングで見やる。
そうしてにこりと笑う彼女に対し、少年もまた、にこりと返す。
「部屋に戻らないのか?」
「戻っても退屈だし、まだあまり動きたくないから」
「そっか。なあ、お前について教えて欲しいな」
「僕?」
「うん。だってまだ『ルイ』について何も知らないからさ」
そういえばまだ自分のことを話してなかったと、ルイは気づく。
話したことと言えば己の名前ぐらいで、それを覚えてもらったぐらいだ。
「えっと、何から話せばいいかな……」
「身長は?」
「うんと、154cmぐらい……」
「じゃあ体重は?」
「43kgぐらいかなあ」
「細めだもんなあ。性別は?」
「うーーん……男」
「……そっか。なるほど。好きなことは?」
「世界の不思議やミステリー」
「そんなに不思議なことがあるのか」
「わからないことだらけだよ」
…………。
それからしばらく、ルディミハイムからの質問攻めが続いた。
夜天ルイとはどういう人間なのか、そして、何を好んでいるのかに興味があったようで、少女はじっくりと話を聞く。興味津々だった。
「へぇ、ロマンっていうのが溢れてるんだな」
「うん。僕はそう思ってる」
「地底世界……火山島の宝……世界の創造者……興味はあるなあ」
「でしょでしょ?」
次第に打ち解けていき、自然と友達同然の会話をしていた。
そのうち少年は、少女に自らの夢を伝える。
「えっと。僕ね、世界がなんで出来たのかが知りたいんだ」
「いいじゃないか。楽しそうだ!」
ルディミハイムは笑顔で話を聞く。
彼女には夜天ルイという人間に対する興味も、更に増幅していくのだった。
気付けばヒカリに呼ばれている時間に近くなっていたのだから、相当熱中していたのだろう。
「起き上がれる?」
「ああ。なんてことはないよ……このぐらいっ」
よっこいしょと言いたげな動作で、少女は腰と背中を気遣いながら身体を持ち上げようとする。
「無理はしないでね。支えるよ」
気遣いの言葉を決して忘れることはない。
誰かが辛そうにしているのは見ていられない。
優しいが、どこか抜けている。
それがルイという人間である。
「いい。大丈夫。自分で出来なきゃ……」
少女は少年を静止し、ゆっくりと自らの腰を上げる。
用意されていたスリッパを履くと、ようやっと立ち上がる。
「案外、なんとかなる……ぞ」
「無理しすぎだよ」
表情と声色こそ平静を装おうとしているが、じんわりと出た汗や呼吸の乱れがそれを思わせない。
ナチュラルなルイですら「分かりやすいなあ」と思うほどに演技が下手である。
この雰囲気がなんだかツボにはまったようで、少年少女、二人して笑い合うのだった。