欠落 スナオなトモリ火
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『天ノ峰家と夜天は、絶対に何かを隠している』
深夜、町のSNSでそう呟こうとしたが、少年はここでキャンセルを押した。
あまりにも根拠が足りない、証拠もない事柄は書き込むべきでないと考えているからだ。
これでは都市伝説と何も変わりはない。そしてゴシップ以下の価値なき投稿でしかない。
ただ証拠が無いとはいえ、納得ができるものではない。
少年は大きくため息を漏らす。
この世の中は理解できないことに満ち溢れている。
少年は常に未知の探究を試みているのだが、最近は身の回りで意味不明なことが多数起きているため困惑しているのだ。
「疑っているのならば、本人に聞いてしまおう」
翌日の昼休み、斎藤スナオは夜天ルイの机に向かう。
チャイムと共に速攻で向かったので、ルイは移動する暇もなかった。
「夜天、ちょっと聞いて良いか」
「うん、どしたの斉藤く——」
「ルディミハイムは何者なの? 教えて」
空気が変わった。正確にはルイの席周辺がピリついた。
ルイに緊張が走る。
「……えーっと? ホームステイしてきた女の子」
「にしては外国語喋らない気がするんだけど?」
核心を突く。ルディミハイムは外国語を喋ることはできないのだから。
「まあ良いや。じゃあ情報と引き換えにしよう。それならどうだ?」
「情報……? 一体何の?」
ルイは相手にするつもりは正直ないが、相手を立てるために一応聞いておく。
「君が好きなもの。オカルト——」
「良いよ!」
「いや早すぎだろ。もう少し悩んでやれよ」
切り替えが早すぎると逆に焦るというもの。
さしもの斉藤も思わずツッコミを入れてしまうほどであった。
「聞き捨てならないな。サイトー」
「ベガ・ルディミハイム……!」
無鉄砲かつ無計画な突進であったため、彼は失念していた。
夜天ルイの前の席はベガ・ルディミハイムであることに。
「というかルイ、何を喋ろうとしたんだ……!」
「やー、えっと、その、釣られたふりして何でもない情報を開示しようとしてた」
やられかけていた。
なるほど、本質ではないものの交換条件に見合う程度の情報を開示するつもりだったということか。
などと斉藤は半ば勘繰りつつ、そのC級漫才のようなやり取りを観測し続けていると、隣から本を閉じる音が聞こえた。
その際、表紙が一瞬だけ目に映った。
「二人とも困ってるよ。やめてあげなよ」
藍色のロングヘアーが特徴的な文学少女、夢空トモリであった。
常によく分からない呪術のような本を読んでいるため、斉藤が少し気にしている人物の一人である。
斉藤は夢空に目を向けると、そのまま言い合いになる。
「もう、後戻りできないんだ僕は」
「出来ると思うけどなあ。別に。引っ込みがつかないだけでしょ」
「僕のプライドの問題なんだ」
「やっすいプライド。捨てなよそんなの」
「何だと!? 僕は真実の探求者だ。この世の全てを解明する——」
ルディミハイムとルイはそそくさと教室を後にする。
熱が入った斉藤にはそれを意識することが出来なかった。
夢空はそれを認識する。
「——邪魔するのは許さないぞ」
「あーもう、うるさい……まあでも、これでいっか」
心が掻き乱されるあまり、その言葉の真意を理解できないまま一秒。
我に帰った彼はようやっと周囲を見渡して二人の逃走を認識する。
「やられた……」
夢空に視線を戻すと、彼女はまた読書を始めようとしていた。
やり場のないモヤモヤした感情を落ち着いて分析し、熱くなりすぎたことに気付いた斉藤は夢空に頭を下げる。
「やりすぎた。うるさくしてごめん」
「どのような状況だったとしても、聞き方と礼儀は持っておくべきなんじゃない? このままだと三流ジャーナリストだよ」
それは本当にそうかもと、自分の至らなさを自覚する斉藤スナオ。
夢空の言葉には本当に助言めいたものを感じたためである。心から思ったことを発したのだと理解したからこそだった。
「うん。良くない癖が出たかも」
「セルフコントロールは出来といた方がいいよ。感情で関係悪くしたくないでしょう?」
小学生の頃を思い返し、自分の行動でクラスメートが離れたのを思い出し、己の浅慮さを痛感する。
反省をしているのは夢空にも伝わった様子。
「ところで、その本面白いの?」
「真実の探求者なら、読んでもいいんじゃないかな」
そっか、ありがとうと言い残し、彼は席に戻ろうと歩み出す。
その際、彼女が読んでいた本のタイトルを思い返す。
あの閉じた一瞬に見えた文字である。
『天ノ峰と生命が繁栄するまで』
彼女も何かを知っている。
もしくは知りたがっているのかもしれない。そう考えつつ、斉藤は自分の席に座った。




