閑話 ローグ・デビュー
彼女は孤児だ。
この世界に生まれ落ちてからの両親の顔を見ていない。
そもそも親とは何なのか。それを少女は何となく識っていた。
孤児であるが故か親という存在について、あまりにも偏見に満ちている。
その保持していたイメージは固定化されたまま変わることはなく、この世へやってきて13年の月日が経過する。
教室の後ろでクラスメートが家族について話題にしているのを耳に挟んでも、あからさまな創作であるとし聞き入れることはない。
「ねえ夜天くん聞いてよ。昨日ママがね——」
「ご両親本当に仲良いよねえ〜。僕は片親だから——」
その家族の話題が不快であったのか、少女は椅子から立ち上がる。
「……夢を見ている。まやかしだわ」
ボソリと誰にも聞こえないような声で呟くと、長い金髪を振りまくかのように振り返り、不機嫌そうに教室を後にする。
その様子をふと見ていた夜天くんもとい少年は、その少女に対して違和感を感じる。
「……あんな子、居たかな」
少年は記憶力に自信がある。
中学校生活が始まり約3ヶ月が経過しているが、クラスメートにあのような長い金髪の少女が居た覚えがない。
「えぇ!? 夜天くん知らないの……? 乙咲さん」
「乙咲さん……? フルネームは?」
「乙咲 鈴香。誰かとつるんでるのは見たことないかも」
少年にはピンと来ない。居た覚えがないのだ。
あのように目立つ髪色の人が居たなら、真っ先に気がつくはず。
このクラスに居る人間は皆暗めの髪色なのだから。
些細な違和感と不思議を得た少年は、少女を観察することにした。




