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[序]星屑の漂流者—水の大賢者—  作者: くろめ
1つ目 水の光玉
15/22

不自然

 滝の飛沫はより荒げたものへ。

 滝に向かい歩くルイ、ルディミハイム、そしてアマノが居る。


 アマノとしては、安全でなかったとしたら急ぎ自宅に届けようと思っていたが杞憂であった。

 レイジモンドとやらが確保されたという情報が、正式にアマノの下に渡ったためである。

 

 安全に過ごしてもらう。

 それは天ノ峰町長の娘として自分自身に課した鉄の掟で、町民にいかなる危害も加えてはなるまいと意識した上での行動理念である。


 そして今回、危険な道のりになり得る滝への冒険は、知識のある自分が居た方が安全であるため共に行動することとなったのだ。

 

 光玉を求めて少年少女らは、そのまま滝の真向かいまでやって来た。

 目前にある崖から落ちゆく水流は滝壺に打ち当たり、川としての生涯を始める。

 話がままならないほどの轟音を立てるその滝に、思わず三人は見惚れてしまう。

 

「2年生の時以来だなあー」

「……え!? 何て言ったんだ??」


 会話は全て大声で、何度も聞き返しながらなんとか成立させている。

 しかし少年ルイの声が元々それほど大きくないこともあり、マイペースすぎることもあり、少女ルディミハイムとアマノは何度も聞き返していた。

 

「あそこ!」


 アマノが指差すそこは滝の中央部分。

 二人は疑問符を浮かべつつも流れ行く滝を凝視する。

 すると、そこに空洞のようなものが見える。


「この先!」

 

 アマノが先陣を切って手招きのジェスチャーと共に滝の奥へと進む。少女、少年の順で後ろをついていく。

 まともに人が通ることもないためか、通るべき坂道に生えた雑草が邪魔をしてくる。

 やや小走り気味にそれらを退けながら進むと、やがて人一人がやっと歩ける程度の幅になる。

 そこまで行くと、幸いにも邪魔をしていた草木はない。ただ湿気を帯びており、一歩間違えれば足を滑らせ泉に落ちてしまいかねない。


「滑りそうだから気をつけて!」

「おいしそーチョコクッキー色の地面だ」

「ぬかるんでいるな……」


 会話が成立していない。それもそのはず、それぞれが互いの声を把握できていないのだから。

 それでも少年と少女は、地面が不安定なことは体感で理解出来ていたので注意深く歩く。


「おっ……わっ!」

「危ないっ!!」


 道中ルディミハイムが地面に足を取られてしまうが、後ろのルイが支える形で事なきを得る。

 アマノは「ナイス!」と言いつつ、笑顔でサムズアップをする。声が聞こえずともジェスチャーさえあれば分かるのだ。

 少年と少女は手を繋ぎながら進む。一人が滑ったとしてももう一人が支えられるからだろう。


「うーん、ご馳走様」


 アマノのその声が二人に届くことはなく。

 やがて3人は空洞へと入っていく。


 

 

 中の空洞が広いようで、奥に向けて声は響きやすくなっている。

 先ほどよりは声が聞き取りやすい。

 しかし、広すぎる弊害で作りがよく見えない。


 アマノは右手で持っていた電話にモバイルバッテリーを着けて、ライトを点ける。


「結構深そうだな……」

「そういえば、アマノさんってここに来たことあるの?」

「……ずっと昔にね。ただ一度だけ」


 アマノはそれ以上は語らずに歩き出す。


「じゃあ、進み方は分かるのかな」

「ギリギリね。ところどころ勘にはなるけど」

「何かあってからだと危ないから、気をつけないとな」


 アマノの誘導に従いながら、入り組んだ道を進む。

 分かれ道があるが「左は行き止まりよ」と右へ進む。

 そうしてしばらく進んだ辺りで、少年はあることに気づく。


「……不自然かも」

「うん? どうしたんだルイ」

「えっとね、何かがおかしいんだ」


 アマノも静止し振り返ると、少年の方を見る。


「調子悪い?」

「ううん。そうじゃなくて……もしかして……うーん」

「良かったら聞かせてほしい。ルイ」


 少年は少し考えると頷き、口を開く。


「生き物の気配がないんだ。苔の一つも生えてないし、虫の一匹もいない……気がする」

「確かに見ていないな。アマノ、何か分かるか?」


 対してアマノは困り顔で首を横に振る。

 

「理由は分からないよ。理由は気になるけど……でも、確かにおかしい」


 そう言いつつ、再度行く先へ向き直し黙り込む。

 滝の音すら聞こえない静寂に包まれたかと思えば、しばらくして彼女は進み始める。


「え、アマノ……?」

「何も言わずに進むの怖いよ。不自然だよ……」

「…………」


 ライト代わりの電話機を左手で持ちながら、二人を見ることなく進む。

 洞窟の中はかなり冷えているが、それ以上に芯から冷える何かを二人は感じ取る。

 しかしここまで来たのだ。

 意を決して進むしかなかった。

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