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[序]星屑の漂流者—水の大賢者—  作者: くろめ
1つ目 水の光玉
14/22

不審者は通報されました

 後ろを振り返らず、一心不乱に駆け抜ける。

 何かから逃げ惑う少年少女らに対して、追っ手は来ていない。


 そんなことも露知らず、ただ全力で上流を目指す。

 向かう最中に茂みを見つけると、ようやっとそこに隠れて皆が落ち着く。


「はぁ、はぁ……」

「……一体、何があったんだよ」


 息の整わない声が二つ。計三人。すなわちもう一人がそこに居る。

 少年少女をそこから逃げるように指示をした張本人が。

 

「はぁ、ふぅ……。忠告のために探してたら、こんな……」

「アマノ……さん……。どういうこと、なの……?」


 少し時間を戻し、レイジモンドから後ろに下がるように言われた直ぐ後のこと。

 下がった際に二人の視界にはアマノこと『天ノ峰 ヒカリ』が居た。

 緊迫した表情を浮かべながら二人の手を掴むと、逃げようと指示を出したのだった。

 

 実はレイジモンドと彼らが接触して間も無くのこと。

 アマノが彼らを見つけた際、すでに対象と会話をしてしまっていたために、近くに居り様子を伺っていた。


 何かがある前に避難をさせようとしていたところ、丁度後ろにさげられていたため即回収に向かったのだった。


 それから茂みに居る現在。

 ルディミハイムもルイも、ただ事ではないとは気づいてはいる。

 だが何故そこまで急ぎで、こんな茂みまで連れて来られたのかは理解が出来ないで居る。

 やがてアマノが口を開き、その理由を述べる。

 

「あれ……不審者だよ」

「フシンシャ……?」


 彼らは一瞬考えるが、直ぐに言葉の意味を理解すると驚嘆する。


「あのおじさんが!?」

「しーっ!! 追ってきてたらどうするの……!」


 ルディミハイムはそっと茂みから顔を出して、走っていた方角を見やる。

 どうやら誰も居ない様子。

 そのことを二人に告げると、全員で安堵する。

 アマノは胸を撫で下ろし、ルイに至っては腰が抜けて座り込む。


「元々天ノ峰に居ないはず……あたしの記憶にも、住民データベースにも記録がない」


 アマノが不安げに語るが、解せない様子のルイ。


「データにないだけなら、旅行者なんじゃないの?」

「もちろん、それだけならこんなことしないよ」


 曰く、かの青年は様々な人をつけ回しており、稀に話しかけてくることもあるという。

 内容は質問が多く「なあ、〇〇はどこにいる? 知ってるか?」などと聞いてくるというもの。

 おまけにウィザードハットやらの黒と青を基調とした格好だ。

 風貌も怪しいだけでなく、聞いてくる話も意味不明。それは正に不審者と呼んで差し支えない。


「事案だね……」

「これだけならね。でも、まだあるよ」

 

 更には『銃のようなものを持っていた』という目撃情報もあるという。


 とある中学生男子の話によるとハンドガンだけに止まらずアサルトライフルを持っていた……などと、少なくとも武具の装備が確認されている。

 仮にサバイバルゲーム用であったとしても、こうも露骨であったなら住民に不安を与えていることは間違いない。


 遭遇した場合に命の保証ができないことから、県警が天ノ峰市長らの協力のもと調査を行っている。


「とりあえず警察は呼んでるよ」

「よかったぁ……。でも、僕らに対して敵意は無さそうで安心……」

「そうかな。あたしは少し懸念してるよ。不審者は最初に飴で誘うって言うじゃない?」


 甘い言葉で誘い込むのはよくある事例だ。

 遥か昔から幼稚園や学校の道徳教育でも伝えられるほどにも、当たり前と言われるほどにも教育されてきている。いつの時代もそんな輩が居るのだから、治安が良くとも安心はできない。

 連れ去られた先に何があるかは、言わずもがな。


「そういえばベガ、入学式の帰り……」

「ああ。一緒のことを考えていた」


 あの日の帰りに、ルディミハイムは何者かから殺気を感じていた。

 その正体がかの青年なのではないか、と二人は推察する。


「殺気ならそれ以外にも候補はあると思うけどねえ」

「というと?」

「ルディミハイムさんは転校生扱いで、突然現れたでしょう? だから、色んな見られ方があると思う」

「そういうものなの?」

「……だけど、アマノの言いたいことも分かる気がするよ」


 ルイには理解ができなかった。

 だが少女はどこか納得したように二人を見やる。


「ベガ?」

「私は……言ってしまえば部外者みたいなものだからな。そんな私を受け入れてくれているクラスメートも沢山居るけれど、それが全部の考え方じゃないだろう」


 アマノとルイは真剣にルディミハイムの話を聞く。


「声を上げない人だっている。言葉とは裏腹に、本心を口には出さない人がいる。普通に生きている人でも嫌われることがあるんだ。なら、私みたいな部外者を嫌う人は余計に多いだろう」

「ベガ……大丈夫?」


 ノータイムで深く頷くルディミハイム。それは本心であり、少年を悲しませないためでもある。


「私は大丈夫。辛いわけではないよ。そういう人が居ることに対して、確かになって思っただけなんだ」

「ルディミハイムさん、考え方が大人だね」

「そうか? 私は普通だと思う」

「でも、窮屈になりそう。一人で考え込んじゃって、辛い気持ちになったりとか……」


 ルイの言葉に、アマノは深く頷く。

 それを見て彼は再度口を開く。


「天ノ峰さんも、きっと大変じゃない? 生徒会長って、凄く重たい仕事だと思うけど……」

「……そういうこと、気にしなくて良いよ。あなたはルディミハイムさんのことだけ考えてあげて」

「へ? う、うん。わかった」


 今度は喋りながらルイが頷く。


「(やっぱり、無理してると思うなあ)」


 少年にはアマノの本心が、僅かに見えた気がするのだった。

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