少年少女はド天然
少年少女が歩くは川辺。
樹海に行くも、光玉という大きな収穫はなく、石碑のようなものを見つけるだけにとどまった。
彷徨う覚悟でいた二人であったが、10分とかからず簡単に見つかった。
「窪みみたいなのが3つあったね」
「杖の先を地面に刺したような造形だったな」
少年らが今目指しているのは、樹海から天ノ川の洞窟へと変わっている。
樹海にそれ以上の手掛かりが無いとすると、次に候補となりかつ分かりやすいのが洞窟だろうという判断だ。
洞窟がどこにあるのかは、ヒカリから借りた地図におおよそ記されている。
樹海を抜けてから行くとなると、およそ中流から上流まで歩く必要がある。
「僕の予想だと、あの窪みに光玉を3つ埋めたら何かが起こると思う」
「どうしてそう思うんだ?」
「うーん。なんとなく。勘なんだけどね」
「勘か……。私が嫌な気配を感じたのと似たようなものなのか?」
「そうかも? 都市伝説だったり……あとはゲームだったりも、こういうカラクリがあってね」
「そういうものなのかー。ゲームって?」
「ああ、ゲームはね——」
などと、二人は談笑しながら洞窟に向けて歩みを進める。
小川のせせらぎと砂利を踏む音が、会話と共に響く。
ルディミハイムは様々なことに興味を持つため、少年もそれらについて分かる範囲で説明をしようとする。
「そういえば、水ってこんなに綺麗なんだな」
「うん。天ノ峰の水は綺麗だって、帰省してきた人がよく言うみたい」
そうなのか、と少女は呟きながら川辺に向かう。
水面を眺めながら、ふと呟く。
「まるで鏡みたいだ。天ノ峰の自然が大切にされてきたからこそ、なのかな」
「父さんが言うには、広大な自然と町の発展。昔の人たちはそこに難儀したんだってさ」
乾いた砂利へ一緒に座り、川の音色を楽しむ。
少女が楽しむ様を見ることが、少年にとっての楽しみである。たとえ本命である洞窟に辿り着けなかったとしても、楽しんでくれるならば住民冥利に尽きるということだ。
「そこまで強い流れじゃないんだな。しかも浅い……よし」
「どしたの、ベガ」
ルディミハイムは答えないまま、靴と靴下を脱ぎ始める。
「え、まさか」
「その、まさかさ」
そう言いながら、彼女は川に両足を浸けながらその場で駆けてみる。
「ルイ! これすっごく気持ちいい!」
「あー、もう、濡れちゃうじゃない」
「へへっ、もう手遅れだ!」
「…………」
「ルイ?」
少年は少女に思わず見惚れていた。
透き通る小川に、色白で赤髪の少女が立っている。
陽の光と森や自然の木々によって調和が取れている。
その光景があまりにも似合い過ぎていた。
吸い込まれるように、意識が遠のいていた。
「綺麗だよね、ベガって」
「へ……!? な、なんだよ突然! たりゃ!!」
「わぁっ!」
少女に思いっきり川の水をかけられ、少年の衣服は濡れてしまう。
「うぅ……濡れちゃったよ……」
「もう! いいからこっち来いよう!!」
絵の才能でもあれば、その光景を描いていたかもしれない。
そう思いながら少年も靴下まで脱ぎ、ルディミハイムの下へ駆けていく。
二人は時間を忘れるほどに、川遊びを楽しむ。
川遊びがこんなに楽しいものだとは。少年には不思議で仕方がなかった——。
——それから、夕暮れ時まで遊びは続いた。
少年少女のくしゃみが響く。
「たははー、遊びすぎちゃったね……」
「そうだなー、おかげでずぶ濡れだ」
川辺で遊び過ぎたせいか、二人してずぶ濡れになっている。
夕日に当てられた帰り道で、少年少女は笑い合う。
「帰ったら一緒にお風呂入らないとね」
「そうだな〜。うぅ、寒い」
「体温下がってるね、僕も寒い……」
当たり障りのない会話が続く。
「そういえば、昨日お風呂について教わったが、まだよく分からないことがある」
「そしたら、後で教えるね」
「ああ、今日も隣で頼むよ」
使い方を覚えてないしと、ルディミハイムは付け加える。
あ、そうだ。とルイはポンと手を叩く。
「そういえば、今日はベガのベッドが届いてるかも!」
「ベッド?」
「昨日、父さんが通販で頼んでくれてたんだ。もしかしたら今日届いてるかも!」
「注文して、1日で届くのか?」
「天ノ峰直送だからね」
そういうものなのかーと、少女は納得する。
やがて会話をしていればさして気にならないほど直ぐに、ルイの家へ着く。
「会話してると本当にすぐ着くんだなー」
不思議だよねと少年は応えつつ、はっと思い出す。
「ねえ、洞窟……どうしよっか」
「あ……忘れてた」
楽しさが興じすぎて、本筋を忘れてしまっていた。
「まあ、いっか!」
「ああ、こういう日があってもいい!」
そうして二人は家へ入っていく。
一緒にシャワーを浴びて一緒に暖かいベッドで休むことで、風邪をひくことなく二人は翌日を迎えるのだった。