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ファースト・コンタクト

「……くしょん」


 冬の寒さも僅かに残る4月の上旬。町外れの野原にて、少年は寝転がりながら鼻を啜る。

 そっと起き上がり隣に置かれたバッグからポケットティッシュを取り出すと、再び横になり星空を眺め始める。


 風は少し冷たいものの、耐えられないほどではない。

 没頭すれば冷えなど気にはならない。少年にとって星空はそういうもの。


 星々の名前にそれほど詳しいというわけではない。

 けれど眺めていると落ち着く。星空はそういうもの。


 冷えているはずなのに、あたたかく感じる。

 星空の光がまるで自分を優しく包んでいるかのように。


 そんな安心をよそに、ふと少年は独り思う。


「明後日には新生活かぁ」


 思考は吐息と共に発せられる。

 明日で中学生となるこの少年の名を「夜天ヨノウエ ルイ」と言う。

 これまでは少し遠めの市立小学校に通っていたが、中学からは近場の私立に通うこととなった。ルイ自身は特に否定はしなかったが、友人の居ない環境へと移り変わるため慣れ辛そうな生活に不安を募らせていた。


「友達、できるかなあ」


 初日や二日目が大事であることは、なんとなく理解している。だからこそ心配だった。

 変に浮いたことをすると空回りすることを知っている。小学生の時に散々失敗してきたのだから、嫌でも理解する。


 星空を眺めるのは、そんな心配を和らげたいという思いもあったのだろう。


「……なんて、ここでぶつぶつ言っててもしょうがないよね」


 その野原にはルイしかいない。

 樹海の奥にひっそりと広がる綺麗な野原。周囲500平方メートルほどの大きさだろうか。色とりどりの花が咲き、虫達が唄う。小川が流れ、開けた星空もある。中央には奇妙な形をした祭壇のようなものがあり、ルイにとってはより素敵やロマンを感じる場所だ。


 何故これほど素敵な場所に人が来ないのか、彼には謎で仕方がない。

 これまで何度も足を運んでみたが、人が居たことは無い。

 以前訪れた自分の足跡が残っていることすらある程なので、ほとんど誰にも知られていないのだろうが。


「楽しく過ごせたらいいなあ……ん?」


 何やら星空に違和感を覚える。

 少年は空の全てに異常を感じた訳でなく、ある光のただ一点にだけ違和感を感じている。


「…………?」


 その違和感へと辿り着く前に、身体中が警報を鳴らすかのように反射を起こされ立ち上がる。


「————!」


 空から何かがやってくる。

 声にならない声が漏れながらバッグを担ぎ上げ、背負う間もなくその場から逃げようとする。


「うわぁ!!!」


 本能的に生じたその直感的行動は、決して無駄ではなかった。

 遅れていようものならば衝突に巻き込まれていたことだろう。

 まさに彼が居たその場所——。

 


 ——そこに、何かが落ちた。

 

 強烈な爆発音と共に、周囲一体に衝撃が走る。


 幸いなことに、それは人が死なない程度のものであった。ルイが生きているのが何よりの証拠と言える。

 近くに生えていた丁度いい大きさの木にしがみつくことで、どうにか身を守ることができた。それでも満身創痍ではあるのだが。


 周囲が土煙で覆われルイはむせ返る。何が起きたのか一切分からないままに。


 その不自然が一体何だったのか、自然な状態に戻ったとてしばらくは思考が巡ることはなく。

 ぼうっと周囲を見渡すと、何やら先ほど自分が寝ていた場所がおかしいことに気づく。そしてようやっとルイは我に帰る。


 じんと痛む腕を労りつつ立ち上がり、そのおかしな場所へと近づいていく。

 一歩、一歩も重たく、上手く踏み込むことが敵わない。体力的な部分もあるだろうが、もちろん恐怖も感じているからだろう。


 怯えていながらも逃げずに近づくのは、ただ興味があるだけではない。

 「何かがある」と信じて疑わない程の運命的な、惹き込まれる何かをそこに感じられたのだ。


 土煙が風に払われ、月の光が周囲一帯を優しく照らす。

 およそ数十歩ではあるが、その頃にようやっとルイはおかしな場所の正体に気付く。


「クレーターだ……」


 彼は近づく折に薄々感づいていた。クレーターと呼ぶには小さいものではあるが、落下物によって出来ているのだからそう呼ぶ他ない。

 恐らく隕石が落ちたのだろう。何を怯える必要があるのだろうか。


 自分に言い聞かせるように、痛む腕や足腰を庇いつつそのクレーターを覗き込む。


「えっ……!?」


 人が居た。

 驚きのあまりルイは声を出してしまう。その次にやってきたのは心配である。


「ひどい怪我……。まさか、直撃したの!?」

「う……だれ、か……」


 微かだが聞こえたそのか細い声をルイは聞き逃さない。その赤髪の少女がまだ生きていることを直に感じる。

 自分の怪我など忘れて、まるで呼応するかのように無我夢中で駆け寄っていく。


 幸いにも大きな怪我は無さそうであったが、あくまでそれは外傷の話。

 意識朦朧としているだけでなく、助けを求めている人間を放ってはおけない。それはルイの性格によるものだ。


「病院へ、急がなきゃ」


 ルイは通話機器やその他の連絡手段をまだ持っていないため、それ以外の方法を知らない。

 だが、身体が弱っているのはルイも同じである。


 ボロボロの少年は同じくボロボロの少女を担ぎ上げると、急いでその場を後にする。


 だが、そのような状態では数分も持つはずがない。

 少女がいかに軽いとは言え、ルイは非力な上に体力もほとんど残っていないのだから。


 呼吸が乱れて身体は悲鳴を上げ、やがて野原を抜けた樹海で倒れてしまう。


 少年は気を失う。少女の安否を気遣いながら。

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