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新しい日々⑦

 校門に立つ二つの姿。小学生より背が高い。夜と朝陽だ。明らかに目立つ二人は、男子たちからはジロジロ見られ、女子からは遠巻きにキャーキャー騒がれている。


「あれって星ノ丘学園の人?なんでここに」

「夜!朝陽!」


 カケルは手を振って、二人の元に行く。


「ええ?あの人たち、知り合いなの?」

「うん。なんて言うか、おれの兄ちゃんみたいなモン。本当のじゃないけど」

「そ、そうなんだ。じゃあ、ここまでだね」


 歩みを止めた雪之丞の手首を掴む。


「はぁ?何言ってんだよ。ユッキーのこと紹介するからさ。帰れるところまで一緒に行こうぜ」

「え。で、でも僕、知らない人と話すの苦手なんだけど……」

「おれが居んじゃん」


 そのまま強引に雪之丞を引っ張っていった。朝陽は一度手を上げ、そのままその手の平をカケルに向けたので、ハイタッチした。


「おう!カケル!」

「『カケル』じゃないでしょう。カケル様、お帰りなさい」


 夜は朝陽を咎め、それからカケルに向かってニッコリと笑顔を向けてくれた。遠くに聞こえる女子の嬉しそうな悲鳴が大きくなる。


「そのお顔だと、新しい学校楽しく過ごせそうですね」

「うん。紹介するよ。一番にできた友達!」


 雪之丞の背中に手を回し、カケルは二人に紹介した。


「ユッキーいいな!カケルのこと、宜しくな」

「くっ!桑染雪之丞です!よろしくお願いします!」


 朝陽はカケルのつけたあだ名を気に入ったようだ。雪之丞と言えば、カチコチになって膝に手をつき深くお辞儀をした。まるで遊びに行った友達の家で、親に挨拶をするときみたいだ。


 それから四人で帰り道に着いた。雪之丞とカケルが並んで歩き、その後ろを夜と朝陽が同じように並んでついて行った。


 聞いたところによると、駅のすぐ側にあるスーパーから少し歩いたところにあるアパートが雪之丞の家らしい。カケルの家はまた別方向なのだが、夜がスーパーに寄るというのでそちらに向かっている所だ。


「今日はたまごの特売日なんですよ。おひとり様一パックまでですから、僕ら三人で二パック買うには十分でしょう」

「主婦か!」


 指を立てて言う夜に、朝陽が突っ込む。


「シズさんからのお使いです」

「なーる」


 『シズさん』というのは、カケルの家で働く中年の女性だ。いつも疲れているのか不機嫌なのか、ともかく愛想はあまり良くないので、カケルや朝陽はあまり関わらないようにしていた。彼女と会話しているときは、だいたい小言を言われているときである。


 学校終わりの夕時は、駅やスーパーがある方は人通りが多くなる。カケル達が駅前の道を通っていた時だった。


「――雪之丞」


 スーツ姿で鞄を手に持った男性が駅の出口におり、呼び止めた。きちんとセットされた白髪交じりの髪に、眼鏡をかけて優しそうな笑みを浮かべている。


 雪之丞がビクッとして足を止めた。カケルも同じようにして止まり、雪之丞の隣から顔を出して男性を見た。


「誰?」

「おっ、お父……さん」

「ユッキーのパパ?」


 カケルの質問には答えず、雪之丞は食い入るように父を見ていた。


「こんにちは」


 夜が礼儀正しく頭を下げ、カケルの両肩に手を置いた。


「本日からこの子が転校になりまして、雪之丞さんに仲良くしていただいていたんです」

「そうかそうか」

「こんにちは。カケルです」

「カケルくん、こちらからもお願いするよ。雪之丞と仲良くしてやってくれ」


 そう言い、彼はカケルに手を差し出したのだが、それを掴んだのは雪之丞だった。手を出しかけていたカケルは驚き、思わず引っ込めてしまう。


「――お、お父さん!早く帰ろう!」

「どうしたんだい?そんなに慌てて」

「あ、あの、また明日!きょ、今日は僕、お父さんと一緒に本屋にっ、い、行く約束してて」

「そうなのか。じゃあまた明日な……」


 カケルは押され気味に頷いた。雪之丞はカケルと視線を合わせずに父の手を引っ張り、急かすように歩き出す。


「仲良く帰ってるところを邪魔してすまなかったね」


 父は眉を下げて謝罪し、雪之丞と一緒に人の背の中を先に進んでいった。





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