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新しい日々④

「今日から転校になりました。よろしくお願いします」


 転校の理由などわざわざ説明しなくても、星ノ丘学園の初等部廃止の件はニュースにもなっていたし、地元民なら既に知っているだろう。親の転勤でもないなら、それしかあるまい。


 緊張していたこともあり、無難な挨拶しかできなかった。昨日、夜が「クラスの前で挨拶することになるかもしれないから、考えておいた方がいいですよ」と助言してくれてたのに、朝陽と遊ぶのに夢中になってやっていなかった。


 つまらないことしか言えないなら、事前に考えてメモでもしておくんだったと後悔した。


「じゃあ、座りましょう。桔梗くんの席は、一番後ろの真ん中です」

「わかりました」


(やっとたくさんの視線から解放される)


 そう思いながら、席と席の間を通る。このクラスは縦に男女の列を分けているようで、更に横へ見ると窓際から男女女男男女というように並んでいた。自分の席まで来て気づいたが、カケルの左斜め前の席は誰も座っていなかった。


「あ、あの」


 机に鞄を置いて腰を下ろしたところで、小さな声がした。右隣の男子がチラッとこちらを見ている。くせ毛らしく、赤っぽい猫っ毛の髪がふわふわだ。膝の上に手を置き、自分の机とカケルの方を視線が往復していた。


「よ、よろしくね。僕、桑染(くわぞめ) 雪之丞(ゆきのじょう)

「ああ、よろしく」


(人のことは言えないけど、目が合わない……。照れ屋?)


「さて、それでは出席を――」


 先生が言いかけた時、ガラッと後ろのドアが開いた。肩まで伸びた黒髪をした女の子が立っている。


「遅れてすみません」


 低めの棒読みといった声だった。前髪で陰になり、表情が良く分からない。


日比谷(ひびや)さん。具合でも悪かったの?大丈夫?」

「はい」


 先生の質問に短く答え、彼女はカケルの斜め前に座った。新しく仲間入りしたカケルにも気づいているのだろうが、さして反応もなかった。


 それからは普通に出席の確認が行われ、授業に入った。時間割は事前に聞いていたが、使っている問題集や教科書等が一部違ったり持っていなかったりしたため、先ほど声をかけてくれた雪之丞と席をくっつけて見せてもらいながら進めた。


 休み時間は、主にクラスの男子が話しかけに来てくれた。隣の彼も話したそうではあったのだが、主張するタイプでもなく声もやや小さいので一番近くにいるのにかき消されてしまっていた。


「あ、あの桔梗く……」

「よーっす。転校生!宜しく!カケルって呼んでいい?」

「うん」


とまあ、こんな風にだ。


「前の学校ってやっぱ星ノ丘?」

「うん」


隠すことでもないので、そのまま頷いた。


「私立!すげー!頭いいの?」

「比べたことないからわかんないけど、テストの点数とかはあんまり良くなかったよ」

「へー!でもお金持ちじゃん。家、メイドさんといかいねーの?」

「いや、いないよ。お手伝いさんは何人かいるけど。想像してるようなのと違うと思うよ」

「まじかー」


(ここ日本だし、メイドはさすがに漫画の読みすぎぃ!)


 そんなこんなで休み時間と授業は流れるように過ぎていき、給食の時間になった。当番のクラスメイトがマスクと学校貸し出しの白い割烹着、帽子を着けてクラスの分を取りに行く。他の子どもたちはトレーと箸を並べ、当番が渡してくれる盛り付け済みの皿や椀を取っていく流れらしい。


 自分の分を取ったカケルは席について目を輝かせた。


(これが給食!しかもカレー!)


 口には出さなかったが、全身から嬉しそうな様子がわかって、雪之丞が聞いた。


「め、珍しいの?」


 同じく席に着きながら、雪之丞が小さく聞いた。


「今まで弁当だったからさ!」

「そ、そっか。ここ、毎月一日はカレーなんだよ。カレーライスとは限らないけど」

「くぅーっ!神じゃん!」


 拳を握ってガッツポーズをするカケルを見て、雪之丞は眉を下げて笑った。


「よ、よかったね」


 その後、全員で手を合わせ、「いただきます」を言って食べ始めた。フレンチドレッシングで和えられたサラダも美味しくて、給食とはこんなに美味しいものなのかと感動の連続だった。


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