新しい日々③
「出席簿を取ってきますから、少し待っててくださいね」
木村先生はそういって職員室に入り、黒い帳簿を持って再び出てきた。
「少し早いけど、行きましょうか」
「はい」
カケルは先生について、緑の廊下を歩いた。ここの学校の廊下はピカピカに磨かれており、ぼやっと自分の姿が映って見える。
「先生、おはようございます!」
「おはようございます!」
「はい。おはようございます」
先生を見かけたりすれ違う度、子どもたちは挨拶をして、木村先生もにこにこして返している。彼女と一緒に昇降口に入った。クラスの靴入は男女分けて出席番号順になっており、カケルの靴箱は男子の最後だった。持っていた靴をそこに入れ、教室に向かう。
階段前の廊下が視界に入った時、スンと鼻先に違和感を感じた。
(あれ?なんか変なニオイする?)
「どうかした?」
声に気づいてハッとすると、カケルがついてきていないことに気づいた先生が階段の途中で足を止めて、こちらを見ていた。
「あ、えっと」
「何かあった?」
先生は階段を降りてくる。
「何か焦げ臭いような気がして」
「あらまぁ!」
先生はスンスンと匂ってみる仕種をして、首を傾げた。
「ご近所の家がお魚でも焼いてるのかしらね。先生には分からないけど、桔梗くんはきっと鼻がいいのねぇ」
今はもう焦げ臭い感じはしなかった。気のせいだったのかもしれない。
「行きましょう」
「はい」
再びカケルは先生について階段を昇って行った。
校舎は二つあり、正門から真正面に一つと渡り廊下を通じてその後ろにもある。先生曰く、手前は一年、二年、五年、六年、校長室と事務室、職員室、図書室、保健室、家庭科室で、後ろは三年、四年と音楽室や理科室、パソコンルームとして使っているようだ。
体育館は敷地内に別で建ててある。校舎と校庭の間に中庭が、校庭には珍しく東屋のような屋根付きで休める場所もある。飼育小屋は後ろの校舎の近くだ。カケルのクラスは、三階にあった。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます!」
いくつかに固まって教室にいた子どもたちが先生の登場に気づき、挨拶を返す。
「転校生ですかー?」
「そうですよー。桔梗くんです。また皆が揃ってから紹介しましょうね」
教室の真ん中にある教卓の上には、連絡帳と宿題と思われるノートが山積みにされている。カケルは先生に言われ、教室の端にある教師用の机の椅子に座らされた。
自分用の机に座っていても目立ちはしただろうが、教室の一番前の今の状態はすごく目立つ。落ち着かずにソワソワしてしまった。今の位置的に、他の子達も話しかけようかどうしようか迷ってるようだ。
長く感じられた十数分が過ぎ、校庭で遊んでいたり登校してきたクラスメイトが集まってきて、鐘が鳴った。
着席したクラスのどこかから声がする。
「起立!礼!おはようございます!」
カケルも慌てて立ち上がり、慌てて挨拶は忘れてしまったが、お辞儀をして座った。前の学校では、ホームルームの時間に座ったまま挨拶をし、先生の話を聞くスタイルだったから驚いたのだ。
「おはようございます。出席確認の前に、今日から皆さんと一緒になる転校生を紹介しますね。先生の横に来てくれるかしら」
「はい」
カケルは立ち上がって移動した。黒板に大きく名前が書かれる。
「桔梗翔くんです。今日からこのクラスの仲間になります。学校が変わって不安に思ったり、分からないことが出てきて困ることもあると思うけど、気がついた人が助けてあげてくださいね。桔梗くんも、困ったことがあったら、近くにいる人にすぐ聞いてみてね!」
先生はカケルの肩にポンと手を置いた。
「桔梗くんもクラスの皆さんも、お互いに聞いてみたいことをどんどん質問して、楽しく過ごせる時間を増やしましょうね。桔梗くんから皆さんに何かありますか?」