95:支え
日本シリーズ二戦目はソフトバンクの圧勝。
福岡で巨人はセリーグの意地を見せれるでしょうか?
シオン視点に変わります。
―『一緒に魔族として、この世界を平和に導かない?』
マリアの言ったことを、私は理解できずにいた。
「魔族として」ってどういうことなのだろうか。
「俺らが魔族になって人類を裏切れって、言っているのか?」
ラフェールが言った。
「違いますわ。」
「じゃあどういうことだ!」
「種族を魔族に統一するということです。」
「は?」
思わず声を出した。
種族を魔族に統一するって・・・。
そもそも種族を簡単に変えることができるのだろうか?
という疑問は目の前のマリアの姿を見て解決できてしまった。
人間だったはずのマリアの姿が誰がどう見ても魔族の姿になっている。
きっとあの魔王が簡単に種族を変えるという手段を持っているのだろう。
マリアは続ける。
「『勇者』と言う存在が生まれてしまったのはなぜかしら?」
「・・・人類の平和を守るために、魔族に対抗するためだろう。」
「そう、魔族に対抗するために生まれた、それが『勇者』という存在が生まれた理由・・・。」
私たちにとっては洗脳で全てを奪っていった悪魔のような男。
けれど人類にとって魔族から脅威を救っている英雄・・・。
「人と魔族、つまり異種族間で争いが起こるからあの男が生まれた・・・」
もしも種族が無かったら・・・。
このような争いは起こらず、魔族に対抗するための『勇者』も生まれなかったのかな。
「皆が魔族になったら、魔王様が正しく導いてくれますわ。」
そう語るマリアの表情を見て、私は少し絶望感を覚えていた。
本当に今の状態のマリアは洗脳されているのか。
もう既に洗脳関係なく、心から魔王を・・・。
思わず私はペンダントを左手で握る。
このペンダントで救えるのだろうか。
「あなたならわかるでしょう。シオン。」
マリアが私に問いかけてきた。
「それは・・・。」
勇者がいなかったら・・・。
ルクの街でラフェールと穏やかに過ごしていたのかな?
子供にも恵まれて、故郷でお店を開いて・・・。
そんな幸せな未来があったのかな。
「わかるわ。」
「シオン!」
私がマリアに同調したからか、ラフェールが焦ったように私の名前を呼んだ。
「なら、一緒に魔族になるわよね?」
「断るわ。」
私は即答した。
「どういうことかしら?」
マリアの声に怒りの感情が含まれている。
「確かにそれなら『異種族間』での争いはなくなるわね。」
小さい頃、こんな物語を読んだことがある。
『魔物として悪さをしていたが改心して人間として生まれ変わり平和な世界が訪れる。』
あの時は全魔物がそうなってほしいなと本気で思っていた。
・・・心の中で魔族に対して、人族になることを強要していた。
今、その物語とは逆の立場になっている。
魔族になるってことで平和になるかはさておき、種族を変えるってことに、気持ち的にものすごく抵抗がある。
・・・きっと小さい頃に読んだ物語の魔族も、「種族を変える」ということに、今の私と同じように抵抗を感じていたんだと思った。
「なら争いはなくなるわけだし・・・」
「それはあくまで異種族間で、でしょ。」
「・・・・・」
私はマリアの言葉を遮って言った。
「あんたもわかっているはずよ。」
一緒に冒険者として名をあげようとしたのは何故だったか、彼女もわかっているはず。
「私たちが同族である『勇者』に復讐しようとしたことを・・・。」
―『勇者の使命は魔王を討伐することだ。・・・勇者より先に魔王と討伐して、『勇者の使命』を殺すんだ』
神父様の話を聞いた後の、エレンの言葉を思い出していた。
・・・きっとマリアも思い出しているはず。
「だから種族を統一したからって平和になるなんて・・・」
種族が違うから。
というそれっぽい理由付けて、それが争いの原因であると考えているだけ。
『楽』して原因を見つけた気になっているだけ。
真因を見ようとしないだげだ。
だってそれから目を背けることは『楽』なんだから。
「『楽』に平和にしようとするものが考える意味ない策よ!」
マリアの提案、いや魔王の提案には決してのらない。
その決意を込めて口調を強くして言った。
「・・・私も理解しているわ。」
マリアが静かに口を開いた。
「魔王様が言う、種族を統一することで、根本的に争いが無くならないことってくらい・・・。」
「じゃあなんでよ。どうして魔王の考えなんかに賛同しているのよ。」
「私はもう既に魔王様に身も心も捧げましたの。」
そう言う彼女の表情を見て、私は察した。
いや、けれど私の思い込みかもしれない。
その僅かな可能性にかけて・・・。
「それは洗脳されているからでしょう・・・」
「違うわ。シオン。」
マリアは即答をした。
その言葉を聞いて、私は左手で握っていたペンダントを静かに離した。
もう『手遅れ』だってことを理解したから。
「私の想い人だった人は、手の届かないところに行ってしまう。カムイくんも・・・スザクさんも・・・。」
カムイさんは彼女の話では既に結婚したと言っていた。
それでも彼女は前を向いて王都にきた。
そして彼女はアンデッドドラゴンの呪いからスザクさんを救って、ファンになったと言った。
・・・彼の言っていた大切な人がジュリアだと知って、ファンという言葉を使って、きっと想いを断ち切ったのだろう。
「でも魔王様は違った。」
―『マリアよ。魔王妃として・・・妻として我を支えてくれないか?』
「魔王様は王であるけど、決して強くはないの・・・。」
―『我は王という立場にいる。』
―『だが、我は強くない。ルギウスには強さでは勝てない。』
―『だから我を支えてほしい。』
「だから私は魔王様の心の支えになると・・・自分の意志で決めましたわ。」
ラフェールが「やるしかないか」と小さく呟き弓を構えた。
「だからあなたたちが魔王様に逆らうというのなら・・・」
私は戦わないといけないことを覚悟した。
そして・・・これまでにない『強敵』であることを。
回復魔法で補助していたあの時とは違う。
きっと攻撃性能も格段に上がっている。
「私は魔王妃として貴女達を倒します。」
「望むところだ。」
ラフェールが答えた。
彼は既に弓を構えている。
「マリア、あんたの目を覚まさせてあげる。」
私も弓を構えた。
洗脳から解放された時に、一緒に故郷へと旅に出た、かつての仲間に向けて・・・。
次回もシオン視点です。