9:両親
故郷のモック村が近づいてくる。
1年ぶりの懐かしい景色を楽しむ・・・・余裕なんてない。
ずっと帰りたかった場所のはずなのに。
故郷の景色が近づいてくるのに心臓の鼓動が激しくなる。
護衛の兵士さんにお礼を言って村の入り口へ向かう。
そこには家族、村長さんがいた。
・・・でもスザクはいない。
心臓の鼓動が高鳴る。
―私の顔も見たくないっていうの?
―もしかしてこのまま私は村に入れてもらえないかもしれない。
―もしかして私を追い返すために、最低限のお迎えなのかな・・・。
絶望が心を支配する。
でも一言謝らないと。
それがこの村で発する最後の言葉だとしても・・・。
「あの、その、ごめ・・・」
「ジュリア」
私が謝罪の言葉を発する前に、お母さんが抱き着いてきた。
「お、おかあさん?」
「ジュリア、ジュリア。ごめんなさい。」
「なんで、なんで、お母さんが謝るの?」
あの男と村を出るとき、私はお母さんに向かって
―『勇者様のすばらしさをわからない家族なんていりません』
―『私は勇者様の女なの。私の母でいさせてあげたことを光栄に思いなさい』
って暴言を吐いたのに。
「・・・ジュリアが村を出ていったときに私に言った言葉。その言葉を聞いて、ああ私たちの娘はもういないんだってお父さんと思ったんだ」
「お母さん、あれはね」
「わかっているよ。あの男に変なことされていたんだろ?神官様がこの村にきて説明してくれたよ・・・」
「それでも、それでも洗脳されちゃったのは私で、でも私の意志じゃなくて・・・」
「いいんだよ。ジュリア」
そっと頭に手を置いてくれたのはお父さん。
スザクを捨てると言ったとき、私を叱ってくれた時も・・・
―『・・・勇者様。この男があなたの女である私に暴力をふるいました』
―『あら、この私に暴力を奮った罪で斬殺されるかと思いましたが・・・。勇者様の寛大な心に感謝ですね』
とお父さんに言った。
なのに優しいまなざしを私に向けてくる。
「俺たちの娘がこんなことするはずない。って思っていた。でも最後には俺たちの娘はもういないと結論づけて、お前を見捨ててしまった。
・・・洗脳されていることにも気付かずな。」
そんなの一村人が気づくはずない。
「・・・お父さん、お母さん、ごめんなさい。」
「・・・娘の異変にも気付かない、そして最後には諦めて娘を見捨てる親だが、また俺たちの娘に戻ってくれるか」
「もちろんだよ。ううん、私をまた娘にしてください!家族としてまた私を迎い入れてください。」
私は家族を取り戻せた。
「ジュリアよ。大変だったのぅ・・・。」
声をかけてきたのは村長さんだ。
「村長さん。あの、ごめんなさい」
「いいんじゃよ。それよりジュリアよ」
「なんですか?」
「スザクはどうしているか気にならんか」
・・・どうしてここにいないんだろう。
もしかして本当に私の顔も見たくないとか・・・。
不安が押し寄せてくる。
家族から許してもらったからって、恋人が許してくれるとも限らない。
むしろ家族に許してもらったことは幸せなことなのかもしれない。
これ以上の幸せを望んではいけないのかもしれない・・・・。
けれど、会いたいよ。
会えなくてもどうしているか知りたいよ。
「・・・スザクはどこにいるんですか?」
「スザクはのう。今な・・・」
「村長さーん。ただいま帰りました。」
それは私が一番聞きたかった声・・・