84:洗脳の恐怖
引き続きティア視点です。
「いくわよ。ティアぁ」
エリーは私にかなりスピードで突っ込んでくる。
ガギン
「うぐっ!重い!」
「デスアイスストーム」
エリーの攻撃を受け止めたが、あの時と違って攻撃の重さが格段に違う。
そんなことを思う暇もなく、シュリの魔法の演唱が聞こえた。
このままでは、嵐のように氷の魔法が降り注いでくる!
・・・まずい、まずい。
そんなことを私が思っていると・・・。
「させないわよ。!」
クレアはそういうと、嵐のように降り注ぐ氷の魔法を剣で切り刻んだ。
「あら、一気に速攻でティアを片付けようと思ったのに・・・流石はクレアってことね。」
シュリは言った。
「はあああ」
私は力を入れてエリーを吹き飛ばした。
これで一旦「間」を作れた。
「シュリは私が抑えるわ。エリーは任せたわよ。」
「ああ!」
シュリはクレアに任せるしかない。
私へのリベンジに燃えているエリー。
魔王の間と同じと思って戦うと確実に負ける。
―もう一度集中だ。
私はもう一度深く集中し、気合を入れなおした。
**********
「や、やはり強いわねティア。」
エリーに余裕がなくなってきている。
魔族化したからだろうか。
それともあの時のリベンジに燃えているのだろうか。
かなり実力が上がっている。
特にパワーは格段に上がっていた。
ガキン!
剣と剣がぶつかり合う音が以前戦ったときとは違って、激しい音になっていた。
「流石ね、ティア・・・」
息を切らしながらエリーは言う。
1対1なら負ける相手ではない。
このまま相手を消耗させて押しきって見せる。
「魔王様と一緒に新たな世界を作らない?」
戦いながらエリーは言った。
呆れた。
洗脳能力を持つものが上に立つ世界なんてまともになるわけがない。
「断る。」
「そうよね。あなたは洗脳されたことがないものね。」
「・・・どういうことだ?」
―『君は俺に洗脳されてないからねぇ・・・』
女神の塔での勇者の幻に言われたことと思い出し、思わず剣を振る手を止めそうになる。
「あなたは洗脳される恐怖を知らないものね。」
―『君は他の三人違って、洗脳される恐怖を知らない。』
あの時は勇者の幻の言葉に惑わされて、自分をコントロールできなかった。
最後は剣士の命と言っていい、剣を手放してしまった。
「洗脳されたこともない癖に、魔王様が目指す世界に賛同しないのね。」
―『あの娘たちも心中では『洗脳されたことない癖に』って思っているかもね』
・・・女神の塔であの男の幻影を見といてよかったかもしれない。
「ああ、そうだな。」
私が洗脳されたことがない。
それは紛れもない事実だ。
本当の意味で、彼女達の苦しみを理解してあげられない・・・。
「それにしても、勇者はなぜティアを洗脳して魅了状態にしなかったのかしら・・・。」
それは女性としての魅力がないのから・・・。
そしてきっと私の心が汚れているのを、同じく心が汚れている勇者に見抜かれていたのかもしれないから。
・・・だから私は「彼」に、見向きもされない。
洗脳されたいとは絶対に思わない。
だがそれを経験してないことで、仲間達との心の距離を感じたことはあった。
でも私の仲間は、それを否定してくれた。それで十分だ。
「あのクソ勇者と同じ洗脳能力を持つ魔王が作る世界なんてまともじゃないな。」
心を操れないと上に立てないトップなんていらない。
女としての魅力がないこと。
勇者と同じ汚い心を持つこと。
そして女神の塔で見せられた勇者の幻と似たようなことを言われたこと。
半ば八つ当たりするように、エリーに言葉を吐き捨てた。
「魔王様を侮辱したわね。」
「・・・くだらないことはいいからさっさと剣を向けろ。」
「いいわ。あの世で後悔しなさい。」
すると彼女は背中の翼を広げる。
その姿は明らかに人間ではなかった。
私は覚悟を決めた。
エリーを救うのはこのペンダントがあっても無理だと悟った。
・・・命をかけた戦いだ。
「ウィングスコール!」
広げた翼から、鋭い羽根が嵐のように私に迫ってくる。
「竜巻乱舞」
迫ってくる羽根を私の起こした竜巻で返す。
「うああああがああ」
返した羽根が刺さったのかエリーが悲鳴を上げる。
それでも攻撃の手は緩めない。
そのまま竜巻にエリーを巻き込む。
「ティィアぁぁぁ」
「エリー覚悟しろ!」
エリーを竜巻に巻き込みながら・・・。
私は身体から生えている翼を剣で切った。
竜巻が収まる。
エリーはおとなしくなったか・・・。
「・・・翼を切り落としただけで倒せるなんて甘いわね。」
エリーは息を切らしながら言った。
ああ、やっぱり駄目だったか。
彼女の言う通り私は甘かった。
覚悟を決めたはずなのに、命がけの勝負になると自分に言い聞かせたのに・・・。
魔族の特徴である翼を切り落とせば、エリーは元に戻せるかもしれないなんて・・・。
根拠のないことを本気で思った自分の甘さに情けなくなる。
覚悟が決まり切ってなかった自分の甘さに情けなくなる。
「トドメを刺さなかったことを後悔しなぁ!」
エリーはボロボロの身体で私に切りかかってくる。
「・・・すまないね。」
私は小声でそうつぶやき・・・。
「はああああ」
エリーの攻撃をかわして、彼女を剣で切った。
「ぐきゃあああああ」
悲鳴を聞いてまた認識させられた。
私は今「魔物」を倒したと言うことを。
最初から救うなんて甘いことだったことを。
私はエリーを倒したことを確認した。
深く集中していた状態を解除するように、一旦剣を懐にしまった。
そしてクレアに加勢しようと思ったのだが・・・。
「えっ!?」
信じられない光景に、私はそう言うしかなかった。
次回はクレア視点です。