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82:悪夢の城

ジュリア視点です。

 漆黒の騎士レオンハルトを倒した。

 そして彼を埋葬した後、私たちは城へと向かっていた。



「ごめん、ジュリア。僕はもう大丈夫だよ。」


 スザクは無理に前に進もうとしていた。でも私の前では正直でいてほしかった。


 私は彼に支えられるだけじゃなくて、支える存在でもありたい。

 あの時広場で、私を抱きしめて、励ましてくれたお返しもしたい。

 そんな思いで彼の涙を受け止めた。



「いいの。でも無理しないでほしかったの。」



 私だって、レオンハルトさんを救いたかった。

 

 彼はスザクの道標となった人だ。


 もしもこの人がいなかったら・・・。

 私たちはどうなっていたんだろう・・・。



 この先、救いたくても救えないことがあるかもしれない。

 それを覚悟しないといけない。



 エレンさんやマリアさんだって・・・。






 救えるとは限らない。






 ********








 私たちは城の前についた。






「ん?なんだろう?」とスザクは言うと、門の前に置かれている球体を指した。


「これってルギウスの映像を記録できる水晶玉かな?」


 私たちは慎重に水晶玉に近づいた。

 

「ルギウスからのメッセージかな。再生してみよう。」

「わ、罠の可能性もあるんじゃない?」


 思わず私は言った。

 城門の前に水晶玉が置いてるなんて、不自然だと思ったからだ。


「確かにその可能性もあるね。」


 うーん、とスザクは唸る。


「でも『水晶玉』を罠として使うかな。」

「確かにそうだけど・・・。」


 罠だとしても不自然すぎる・・・気がする。

 罠は気づかれないように置くか、もっと自然な形の罠を設置すると思う。


 例えば城門に刃とか仕掛けるとか・・・。


 こんなあまりにも不自然だと罠とすら疑えない。


 それだったらルギウスさんが何かしらをメッセージを伝えるために置いた、って考える方がしっくりくる気もする。



「そもそもこの水晶玉がルギウスの持ち物だし、彼からメッセージだと思うよ。」


 きっとね。とスザクは言った。


「罠だったらその時に考えよう。」

「そ、そうね。」


 私たちは水晶玉の映像を再生した。










 ―『この映像を再生したということは無事に勝ったと言うことだな。』


 映像にルギウスさんが映し出された。

 罠ではなさそうなので一安心だ。


 ―『手短に伝える。』

 ―『・・・クレアとティアが先に城に潜入したようだ。』


「えっ!?」


 映像内でルギウスさんが言ったことに驚きを隠せなかった。


 ―『エリーとシュリと戦っているようだ。』


 私たちが驚いている間に映像内のルギウスさんが言葉を続ける。


 ―『俺たちも先に城に潜入することにした。』


 でもティアとクレアはなんで先に潜入したのだろうか。


 ―『お前たちもこの城門から正面から潜入してくれ。』


 ルギウスさんはそう言うと、映像は切れた。








「ティアとクレアはなんで先に潜入したんだろう・・・」

「きっと二人にはなにか考えがあったんだと思う。」


 ティアとクレアが考えもなしに行動しない。

 スザクの言う通り、彼女達になにか考えがあったんだ。



 ルギウスさんたち、彼女達が城に先に潜入したを知った。

 どのような方法で知ったのか定かではないが、ルギウスさんなら城の中の気配で誰かがいるのかくらい察知できてしまいそうな気がする。

 彼女達に、城の中にいる魔王の戦力が集中しないように、ルギウスさんたちも侵入したのだろう。




「いくよ。ジュリア。」

「・・・ええ。」



 私はスザクの言葉に無理やり応えた。



 私たちは魔王がいる城に潜入しようとしている。

 言ってしまえば魔王城だ。





 けれど魔王がいるという以上に私にとっては悪夢の城だ。





 あの男に洗脳されていた時に過ごした悪夢の城。

 あの男に身体を捧げた悪夢の城。




 冒険者として王都に来た時も、この城には近づかなかった。




 緊張が身体を駆け巡る。

 私は自分の手をグッと握る。


「大丈夫。」


 ふと優しく手が握られる。


「今は・・・僕も一緒にいる。」


 私の手を握るスザクの温かい手。

 彼の目は力強く城を見つめていた。





 今はスザクが隣にいる。


 ― 彼を支える存在でもありたい。


 私はそう決意した。






 その決意は、あの男との記憶程度で揺らがない。







「さあ、行こう。」

「ええ!」



 彼の言葉に私は力強く答える。

 私たちは城門をあけて、城の中に入っていった。








 *********









「意外と綺麗な状態のままなんだね。」


 城の中に入ってスザクが言った。



 ・・・もっと禍々しい雰囲気に改造されていると思った。

 けれど私の記憶の中にある城とあまり変わらない。



 綺麗なエントランスホール。

 魔王がいるってことを知らなかったら、品位のある王宮の城って思うくらいだ。

 少なくとも『魔王城』っていう雰囲気は微塵にも感じない。



「でも慎重に進むよ・・・。」



 彼の言う通り、警戒は怠らない。

 この綺麗なままの作りが私たちを油断させるための相手の作戦かもしれない。




 慎重に城を探索しよう。







 そう決意した瞬間・・・








「ジュリア。来たか。」


 私の心を安心させる声が聞こえてきた。


「よく勇気を出して城にきたな。えらいぞ。」



 その声の主は笑顔でそう言った。

 けれどその姿を見て、私は言葉を失った。



「エレンさん・・・。」


 言葉を失った私の代わりに、その声の主の名前をスザクが言った。


 声、大きな身体、表情・・・


 間違いなくエレンさんだ。




 けれども・・・




 肌の色が違う。

 明らかに人間の色じゃなかった。




 ・・・彼女の雰囲気も変わっていた。




 私が知っている頼れる姉御な雰囲気ではない。

 彼女の豊かな胸が強調されている姿をしている。


 艶やかな雰囲気だ。

 ・・・まるでサキュバスみたいだった。






 私の頼れるエレンさん。


 洗脳を解かれたときも。

 馬車の中で甘えてしまったときも。

 モック村のときも、スキルのときも。


 沢山の場面で彼女を頼ってきた。




 そんな彼女の変わり果てた姿に私はショックを隠せないでいた。

 この姿のエレンさんをはたしてこのペンダントで救えるのか。もう既に『手遅れ』の状態なのでは・・・?


 もしかしたらマリアさんも・・・。

 そんなことを私は考えてしまっていた。


 

 


「大丈夫。ジュリア。」


 スザクがそっと私の手を握る。

 城に入るときも握ってくれた時のように優しく・・・。


「きっと・・・救える。」


 スザクは私を励ますように言った。


 けれどその声に力強さはない。

 そしてわずかばかり手も震えている・・・。



 彼もエレンさんの変わり果てた姿に動揺しているんだ。




「ジュリア、スザク。」


 動揺する私たちに、エレンさんが優しい声をかけてくる。


「魔王様と一緒に平和な世界を作らないか?」


 ・・・彼女が何を言っているのか、理解出来なかった。

ジュリアにとって城は、勇者に洗脳された記憶が残る悪夢の場所。

その場所が魔王のいる城として、再びジュリアの前に立ち塞がります。


果たして彼女はその場所で取り戻したい人を取り戻すことができるのでしょうか?



次回の話はティア視点となります。

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