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81:勇者に奪われた者

スザク視点です。

 僕を強くしてくれた人が目を赤く光らせて目の前にいる。


 戦う直前・・・いや、闇のバリアが張られるまで彼を救いたいと・・・。

 そんな甘いことを僕は思っていた。


 だがレオンハルトの肌の色や目の色が、救うなんてことが無理であることを示していた。

 僕は剣を構える。






「いくぞ、スザク!」



 ガギーン!

 剣と剣が重なり合う音が響く。




「俺はお前を倒して!」



 レオンハルトは、憎悪に染まりきった声色で叫ぶ。



「王都への復讐を果たす!」



 復讐。



 勇者を野放しにした王都。

 自分の妻が自殺しても、それを我慢しなければならなかった。

 勇者が魔族に対抗する最高戦力だったから・・・。




 自分もジュリアが故郷に帰るという選択ではなく、自殺という選択をしていたとしたら・・・。



 彼のように復讐に駆られていたのだろうか。



「妻を見捨てた、そして俺の心を踏みにじった王都を!」



 ジュリアは戻ってきてくれた。

 そして今も僕のすぐ側にいる。

 彼女の前で負けるわけにはいかない。



 魔王の間の時のように彼の言葉に惑わされて、同じように負けるわけにはいかない。

 同じ失敗はしない。




「勇者に縋る愚かな人間に復讐を果たす!」



 人間に復讐を果たす。



 でもそれは八つ当たりだ。

 勇者と関係ない人もいる。そんな人たちを巻き込んで復讐をしようなんて自己満足だ。


 被害者だけど関係ない人までに八つ当たりしたらそれは加害者と一緒だ。

 勇者と同じ加害者になんて僕はならない。




 そんな加害者になろうとするレオンハルトは倒さないといけない。



 僕は覚悟を決める。




「死ねえええええスザクううううう」


 感情に支配され、一心不乱に迫ってくるレオンハルト・・・。


「セイクリッドソード」


 僕は小声で呟く。



 ―『スザクよ。感情に支配されるな。』

 ―『実力があっても、一時の感情・気持ちで敗北することもある。』

 ―『常に自分を律するのだ』



 魔王の間では、彼からの教えを守ることができなかった。



 けれど今は違う。



「聖なる力よ・・・!」




 僕は光の力を纏わせた剣で、感情に支配されたレオンハルトを・・・。







 かつての師を切り裂いた。








「うぐおおおおおおおお」


 人が出すような声ではない声が響いた。

 それを聞いて僕は魔物を倒したこと認識させられた。





 彼の絶叫が響くと同時に、闇のバリアがはがれていく。






「スザク!」

 ジュリアが僕の側に駆け寄ってきた。







「・・・スザクよ・・・強くなったな・・・」


 レオンハルトが声をかけてきた。

 僕とジュリアは思わず身構える。


「もう・・・お前たちに抗う気はない・・・。安心しろ。」


 ・・・レオンハルトさんは穏やかな声で言った。


「初めて・・・会ったときのこと・・・覚えているか?」



 ―『お願いします。勇者に奪われてしまった大切な人を取り返すために僕は強くなりたいんです』



 僕はそういってレオンハルトさんに縋った。



 ・・・今思うと彼も「勇者に奪われた」人だった。



「必死に・・・頼む・・・お前の姿を見て・・・・」



 僕は思った。



 あの時レオンハルトさんが僕に剣の修行を付けてくれたのは・・・。



 もちろん森の調査のこともあっただろう。

 でもきっとそれ以上にレオンハルトさんの私情があったんだと思う。

 同じ「勇者に奪われた」者同士として、きっと僕に何を感じたんだと思う。



「強くなるお前を見て・・・・俺も変わろうと思った・・・」



 同じ「勇者に奪われた」者同士。大切な人を奪われて何かに縋りたかった。




 僕は「強くなる」ということに縋った。

 レオンハルトさんは調査の任務を遂行すること、そして僕に修行を付けることに・・・。



 そうやってお互いに前に進むフリをして、大切な人が勇者に取られたという現実から逃げていたんだ。



「だが俺は・・・そう決意するのが遅かった。」


 ―『・・・俺も向き合わないとな。』


 モック村の入り口で別れるときに彼が言った言葉を思い出していた。

 彼は逃げずに、現実と向き合おうと決意して・・・。







 王都に戻ったら、妻が自殺していたという現実が待っていた。








 僕は王都で強くなって、ジュリアと向き合う強さを得ること誓った。

 でもそんな悠長なことをしている間に・・・




 僕を追って王都へくる道中で魔物に襲われて、死んでしまった。

 討伐クエストをこなしている時に、死んでしまった。

 魔界で彼女が真っ先に狙われて、死んでしまった。

 女神の領域で、女神の塔で、死んでしまった。





 そんなことがあったかもしれない。





 僕とレオンハルトさん。

 お互いに現実から目を背け逃げ続けたのに、大切な人の生死は、異なる結果だった。




 僕は「勇者に奪われた」者の中では幸運な方なのかもしれない。




「お前は・・・もう手放すなよ・・・。」



 彼の目が閉じられていく。


 ・・・そしてその目が二度と開くことはなかった。




 ****************









 僕とジュリアは簡単なお墓を作って、レオンハルトさんを埋葬した。



「さあ、行こうか。」



 別行動しているチームと合流しないと・・・。

 僕はそう思って城に歩みを進めようとした。








 キュッと僕の服が掴まれた。


「どうしたの?ジュリア。」


 僕はジュリアの行動が理解できずに言った。


「ねえ、無理しないで。」


 彼女は俯きながら小さな声で言った。


「私の前では正直でいて。」

「正直?僕は無理なんて・・・」



 ―『してないよ』



 そう、言葉に出そうとしたのに・・・。





 代わりに出てきたのは涙だった。



「・・・ッ!?」



 僕はなぜ涙が出たのかわからず混乱した。



「無理しないで」


 ジュリアは優しい声で言った。


「泣きたいときはいっぱい泣いてよ。」


 そう言って彼女は僕を抱きしめた。


「私の前では無理しないで正直でいてほしいの・・・」





 自分の無茶なお願いを聞いてくれて自分を救ってくれたレオンハルトさん。

 けれど僕は彼という恩人を救うことができなかった。




 それどころか自分の手で倒してしまった。








 ―救いたかった











 そう思ったら涙が止まらなくなった。


「ごめん。」


 それは救えなかったレオンハルトさんに対してなのか。

 それとも僕の涙を受け止めてくれるジュリアに対してなのか。


「大丈夫だよ。」


 彼女は、僕の涙を受け止めながら優しい声で言った。


 間違いない。

 小さい時から知っている、優しいジュリアだ。


 洗脳されたときの彼女の豹変した態度が信じられなかった。

 勇者に何かされたんだと思っていた。


 彼女は戻ってきてくれた。

 彼女の隣にいることができない僕を追いかけてくれた。

 王都に行っても彼女は僕を追いかけてくれた。



 そして今・・・。

 僕を優しく包んでくれている。


 小さい時から変わらない、優しいジュリアだ。





 ・・・ジュリアが受け止めてくれるからと言って僕がレオンハルトさんを倒したことに変わりはない。

 


 けれど今はその現実から目を背けたかった。




「ごめん・・・ごめん・・・」




 僕の涙はしばらく止まることはなかった。

次回はジュリア視点となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] レオンハルトはある意味本望だったかねえ。 彼の言う様に勇者野放しの王国の責も重大だからなあ。
[良い点]  いくつもの感情がほとばしるさまに見とれてしまいました。レオンハルトの心残り、スザクの悲しみ、ジュリアのスザクへの思いやり。  それにしても、ジュリアは、愛する人の哀しみを受け止められるよ…
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