80:スカウト
ジュリア視点です。
「レオンハルト」
彼はかつての恩人を呼び捨てで呼んだ。
自分を強くしてくれた人。
その人が魔王の配下となって、自分と戦う。
・・・彼は何を思っているんだろう。
「スザクよ、魔王様はお前を高く評価している。一緒に魔族にならないか?」
レオンハルトは彼のことをスカウトしはじめた。
私は、ティアがスザクをスカウトしたときのことを思い出していた。
あの時も私はそばに居ながらも蚊帳の外だった。
今もレオンハルトは私をいないような扱いをしている。
ティアの時は私は黙って見ているしかなかった。
・・・いや、「私の側にいて」「私も連れて行って」と自己主張する勇気がなかった。
けれど今は違う。
「魔族と人族が争うから『勇者』という身勝手な存在が生まれた。」
魔王に対抗するために生まれた存在が勇者。でもその勇者は魔族だけでなく、私たちも傷つけた。
スザクのような人間が勇者だったら・・・。と妄想したこともある。
「王都は『勇者』の行動に目を瞑った。補償という言葉を利用して、弱者に対する我慢の強要をした。」
神父様たちは真実を話して、補償もしてくれた。なので私は王都の対応に感謝している。
もしも王都の方針が「被害者を切り捨てる」だったら、きっと私は過去と決別をしなければ生きていけなかった。
・・・生きる意味がないと思って、自分の意志で死を選んでいたかもしれない。
だから真実を話してくれた神父様には本当に感謝をしている。
・・・でも見方を変えると『勇者』を許容している。
加害者に罰を与えてないという視点から見るとレオンハルトが言うこともわかる。
レオンハルトは妻をあの男に洗脳された。
そして妊娠して洗脳が解かれて、きっとその現実に耐えきれず、彼の妻は自殺をしたのだと思う。
でも勇者は罰せられない。なぜならその当時は魔族に対する切り札だったから。勇者が大したことない弱い人間だったら、即罰せられていたと思う。
でもあの男も一応は魔族に対抗する優秀な人材。
事実、各地で魔族からの脅威を救っていた。まあそこで小さな穏やかな幸せも壊していたわけだが・・・。
大を救うために、小に目を瞑る。
きっと国も悩んだんだと思う。
・・・罰を与えられる人間は能力がないから、という現実もある。
なんであの男が罰せられないんだって思うこともある・・・。
王都の騎士団だったレオンハルトは我慢を強いられていたんだと思った。
「お前も『勇者』にめちゃくちゃにされただろう?」
私がもしあの男の洗脳されなかったら・・・。
きっとモック村で穏やかに過ごしていた。
こうやって冒険するということもなかったと思う。
「種族が統一されれば種族間の争いは起こらない。魔王様が正しく導いてくれる。」
確かに種族が統一されれば、『異種族間』での争いがなくなる。
けれどそれは異種族と言う概念がなくなるだけであって『争い』そのものがなくなるわけではない。
「種族を統一して平和な世界を作る、それが魔王様の『魔族統一計画』だ。」
「くだらないですね。」
スザクはレオンハルトの言葉を切り捨てた。
「種族、姿を統一したからって争いはなくならない。」
彼の言う通り、同種族間でも争いは起こる。
言ってしまえば私が勇者に復讐しようとしたことだって同種族間の争いだ。
レオンハルトもそれはわかっているはずだ。
きっと何か理由に縋りたいんだ。
魔王の言葉を都合よく解釈して、それっぽい理由に縋りたいんだ。
それは私も無意識によくやっていたことだ・・・。
「それに勇者と同じ洗脳スキルを持つ魔王なんて上に立つべき存在じゃないですよ。」
彼は剣を構えて、かつての師に言い切った。
「・・・俺は魔王様によって力を得た。四天王の三人目に負け、戦う相手とすら向き合えなかった俺がな。」
レオンハルトの雰囲気が変わった。
「・・・勇者への復讐もできた。」
周りから魔族と人間を足したような兵士が出てくる。
「『勇者』に恋人を取られた騎士団の兵士たちだ。」
王都に仕える騎士団。
『勇者』に恋人を洗脳されても我慢しなければならなかった兵士。レオンハルトにそそのかされてきっと魔王側についたのだろう。
「・・・甘いなスザク。俺が一人でくると思ったか?」
確かにこの人数をスザク一人で相手するんだったら大変な戦いになっていたと思う。
けれど・・・私だっている!
「ライトニングギガボルト!」
私はずっと杖を構えていた。
レオンハルトがスザクをスカウトしている間に最上級の雷魔法の演唱を進めていた。
私はライトニングギガボルト放ち、周りの兵士たちを一掃する。
ガンさんの杖のおかげで魔力が上がったためか威力も前より増強されていた。
「甘いのはあなたです。私だっています。」
スザクのことを甘いと言ったレオンハルトにお返しにとばかりに私は言った。
「ジュリア、流石だね。」
舞い上がる気持ちを抑える。まだ戦いの最中だ。
私は彼に守られるだけの存在じゃない。共に戦う存在だ。
兵士は一掃できたみたい。
レオンハルトにも少しはダメージを与えたかったけど・・・。
「・・・なるほどな。金魚の糞も少しはやるようだ。」
レオンハルトにはほとんどダメージが入っているようには見えない。
ならば今度は単体への威力を重視する。
兵士のことを考えて幅広い相手に攻撃できる雷魔法を使った。単体相手なら私の得意の火魔法だ。
私のことを「金魚の糞」と舐めている間に一気にカタを付ける。
「ヘルフレイム!」
「ぬうう、こざかしい娘がぁ!」
レオンハルトは一瞬、私に敵意を向けた。
それはスザクから気をそらすということ。
彼に隙を見せるということ。
そんな隙を彼は見逃さない。
「ファイヤーソード!」
「ぐあああああ」
彼の剣がレオンハルトを切り裂く。
私の業火と彼の剣。
二人で力を合わせた攻撃でレオンハルトを打ち砕く。
・・・はずだった。
「デスエリア・・・」
レオンハルトがフラフラと起き上がる。
私の業火に焼き尽くされて、そこから彼の剣で切り裂かれたはずなのに・・・。
私はスザクの元に駆け寄る。
だが、女神の塔のあのバリアのように阻まれる。
「なに・・・これ。」
私と彼の間に闇のバリアのようなものが張られている。
いや、違う。
スザクとレオンハルトが闇のバリア内にいる。
私はその外にいた。
「ジュリア。無事?」
スザクはバリアの中から私に問う。
「スザク!」」
彼はレオンハルトが作りあげた闇のバリア内にいた。
彼と一緒に戦うって決めたはずなのに・・・。
こんなバリアによって私と彼はまた離れ離れになった。
私はバリアをバンバンと叩く。
「無駄だ。」
バリアを叩く私にレオンハルトが言う。
「ここから出られるのは『生き残ったもの』のみ・・・」
その声は人間が出すような声でなかった・・・。
「外に出たいのであれば・・・・。」
レオンハルトは目を赤く光らせながら・・・
「俺を殺すことだ。」
私は少し甘かったのかもしれない。
私は心のどこかで「この人を救える」と思っていた。
それは甘いことだった。彼はもう既に・・・。
「ジュリア、僕は大丈夫だから。」
スザクは私に声をかける。
「君の元に絶対に戻る。」
その声は力強く・・・
「レオンハルト、お前を倒す!」
哀しみを含む声色だった。
16話とサブタイトルが被っていますが意図的にです。
ジュリアは、スザクがティアからスカウトされた時も今回も、スカウトした者の眼中にありませんでした。
次回はスザク視点の話となります。