79:仲間
最終章スタートです。
「魔物も既に王都の中にいたか・・・」
私たちは王都に入り、そこに潜んでいた魔物たちと戦闘した。
今は城下町の中心部の広場にいる。
「やはり本当に魔王は攻めてきたみたいだな。」
ルギウスさんが言った。
「・・・ドレークさんやギルドの皆は無事だろうか?」
ティアが心配そうに言った。
ドレークさん、ワカバさん、そして冒険者仲間・・・。
神父様や街の人たちも心配だ。
ドレークさんが何か手を打ってくれてばいいけど・・・。
「・・・妙だな。」
「どうしたのルギウス?」
「魔王が攻めてきた割には、思ったより街がきれいに残っているな・・・」
確かに建物等が破壊されたという形跡が少ない。
建物にヒビが入っている、窓ガラスが一部割れている、その程度だ。
建物自体が炎上していたりしてもおかしくない。
「やっと帰ってきたね。」
広場にいる私たちに声をかけてきたのは・・・。
「ドレークさん、無事でしたか。」
ティアが安心したように声を出す。
「僕だって現役ではないけど冒険者。無事だよ。」
ドレークさんは持っている武器をくるりと回しながら言った。無事でよかった。
「再会したばかりですまないが・・・。ドレークよ、何があった教えてくれ!」
ルギウスさんが言った。
・・・わからないことが多い。
街の中に魔物がいた。
けれど、魔王が攻めてきたという割には街は綺麗に残っている。
それに街の人も少ないというか・・・。
ドレークさんは無事だけど、他の人たちは無事なのだろうか?
「わかった。のんびりしている時間もないし、手短に話すよ!」
私たちが戻ってくる少し前に魔王が攻めてきたそうだ。
ドレークさんはこのことを想定して、あらかじめ手を打っていた。
ギルドの人達、教会の人達、そしてドレークさんの作戦に賛同した街の人たちは、既に避難済だということだ。
避難はドレークさんの昔からの知り合いの魔術師に協力してもらったらしい。
ただ賛同せずにお祭り騒ぎだった街の人たちもいる。
ドレークさんは説得していたが、聞く耳持たずで「どうしようか」と考えていた時に、攻めてきたらしい。
「強制的に『石』を渡しておくべきだった。僕の判断ミスだね。」
石ってなんのことだろう。
と思って私は質問しようとしたけど「僕のミスを憂いている時間はないね・・・」とドレークさんは言うと、続きを話し始めた。
ドレークさんの考えに賛同せず、勇者が魔王を倒すことを疑わずにお祭り騒ぎだった人たちの救出作業を、ドレークさんやギルドの冒険者、『まな板』三人衆たちが協力して行っている。
ギルドに助けを求めに来た人、家の中に隠れている人・・・。
一旦ギルドを一時避難場所にして、そこに人を集めているらしい。
そして魔術師さんの力を借りて、避難するとのことだ。
魔術師さんの魔力は無限ではない。だから一時避難場所に人を集めて、魔術師さんの力を借りて一気に避難をさせるらしい。
また城の中にいた王族や騎士団の安否は不明だそうだ。
魔王勢力の中に王都の騎士団の元騎士団長のレオンハルトがおり、どのような手段かは不明だが一部の騎士団員を魔族側に引きこんだそうだ。
さらにレオンハルトは、城下町の中央にある広場で街の人達に向かって言ったそうだ。
―『勇者は魔王様に敗れた。』
―『ただ我々は人間を殺したりはしない。』
―『魔族して生きるなら、我々は傷つけたりはしない!』
―『考える時間を少しやろう・・・。また来る。』
そう言うとレオンハルトは広場を去り城の中に去った。
ついさっきの出来事だったらしい・・・。
「でも良かったよー。君たちが思ったよりも早く戻ってきてくれて。」
ドレークさんは笑顔で言った。
でもそれは私たちが知っている穏やかな笑顔ではない。
疲れている笑顔だ。
ドレークさんの自身の考えに賛同しなかった人達を救っている。
私は正直自業自得だと思うけど、ギルドマスターという立場だと、それでも救わないといけないのだろう。
「・・・魔王の勢力は城を占拠して中にいる。なぜか外に出てくるのはレオンハルトだけだね。」
「うーん、ならこちらから攻めていくしかないか・・・」
手を顎に当ててティアが言った。
「城に攻めるのもそうですが、街の人も救出しなければいけないですね。」
「それにあの魔王のことだ。城だけじゃなくて、街中に何か罠を仕掛けている可能性があるかもしれないし、それも調べないとな・・・。」
スザクとルギウスさんが言った。
城の中はどうなっているかわからない。そもそも街中にも魔王がしかけた何かしらの罠があるかもしれない。
逃げ遅れた街の人や隠れて身を潜めている街の人も救出しないと・・・。
魔王が城の中にいる間に、街の人の避難は済ましておきたい。
「また来る。」と言ったレオンハルト。
この人を迎え撃たないと恐怖に負けて『魔族』になろうとする人も増えるかもしれない。
町や城の状態の状況を集めること、潜む魔物を片付けながら、街の人を救出すること。
そしてレオンハルトの対策をしなければいけないこと。
どれから手を付けようか、かなり悩ましい状況だ。
「俺に考えがある。」
ルギウスさんが言った。
「チームを3つに分けて行動しよう。」
ルギウスさんが提案したチームは3つだ。
「調査」チーム、「戦闘」チーム。
そして「対レオンハルト」チーム。
それぞれのチームで役割を果たしてから、城に潜入しようということになった。
調査チームは、ルギウスさん、ラフェールさん、シオン。
ルギウスさんラフェールさんの気配スキルを使いながら、街や城の様子を調査するのがメインのチームだ。
もし街の人たちを救出できる状況であれば救出する。
ルギウスさんは魔族だということを悟られないように、フードを装備して行動する。
戦闘チームは、ティアとクレアとドレークさん。
街に潜む魔物たちと戦闘しつつ、逃げ遅れたり、身を隠している街の人も救うのがメインのチーム。
ティアとドレークさんはギルドマスターと副マスター。街の人も安心するだろう。クレアは魔族とバレないようにルギウスさんと同じようにフードを装備する。
でもルギウスさんが戦闘チームに入らなかったのは意外だな、と私は思った。
そして対レオンハルトチームは、スザクと私。
「スザクは広場でレオンハルトを迎え撃ってくれ。」
「ああ、任せてくれ。」
「・・・やつは恐らく魔王の駒の中で最強だ。ジュリアと協力して倒してくれ!」
以前の私だったら・・・
―『ルギウスさんとスザクで組んだ方がいい。』
・・・なんて言っていたのかな。
でも今の私は違う。
「わかりました。ルギウスさん!」
―『私だってあなたと一緒に成長する存在でありたいの!』
スザクが王都へ行くときに、私は彼に言った。
一緒に成長する存在であること。それを証明して見せる。
「ここからは離れ離れで戦うことになりますが・・・」
スザクが静かに、そして力強く言葉を発する。
「離れていようが、種族が異なろうが、僕たちは仲間です!」
彼の力強い、そして勇気の出る言葉。
「だな。」とクールに返したルギウスさん。
「スザクさん、かっこいいわね。」とスザクを少しからかい気味に言ったクレアは、その後小さな声で「ありがとう、スザクさん。」と呟いた。
「逞しくなったな。」とティアはまるで弟の成長を喜ぶ姉のような表情で、嬉しそうに言った。
「離れていても、か・・・」とラフェールさんは小さく呟いた。
「ジュリア」
シオンは私に声をかけてきた。
ずっと一緒に戦ってきたシオン。
洗脳されているときも、解放されたときも、ポイズンバラフライ戦のときも、王都へ旅立つときも・・・。
冒険者になるときも、勇者に復讐すると誓ったときも、冒険者として成長していくときも・・・。
魔界に行くときも、魔王の間での戦いのときも、女神の塔でも・・・。
ずっと私たちは隣で頑張ってきた。
けれど今回は離れ離れ・・・。
「お互い・・・生きてまた会いましょう。」
この戦いは命をかけた戦い。
もしかしたら、ここで一生の別れになるかもしれない。
「もちろん!全員生き残って、また会うの!」
『全員』が生き残って平和に、そしてハッピーエンドを迎えるんだ。
・・・もちろん『全員』の中には、エレンさんやマリアさんも入っている。絶対に救ってみせる。
「さあ、作戦開始だ!」
スザクの言葉で各チームが動き出した。
「ジュリア、頼むね!」
「任せて!」
私たちは広場へ向かった。
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スザクと私は、広場でレオンハルトを迎え撃つために待っていた。
そういえば、この広場・・・。
スザクがルギウスさんと出会った時の話をギルドで聞いて
―『ルギウスさんが勇者を殺してくれるし。』
って醜い心を晒して、思わずその場から逃げ出しちゃって・・・。
けれどスザクが追いかけてきてくれて、抱きしめてくれた広場だ。
あの時は、この広場でスザクに救われた。
そんなことを思っていると・・・。
「さあどうする、人間共よ。」と声と共に、レオンハルトが現れた。
「・・・お前がいたか。スザク!」
レオンハルトはスザクに気づいて声をかけた。
私は静かに杖を構えた。
チームに分かれて行動することになるので、視点変更が多い章となります。