78:野望
4章ラストです。
魔王視点となります。
我は魔王。
ルギウスたちを逃した。
我の『野望』のために、始末しておきたかった。
だが、それ以外は物事は思う通りに進んでいる。
我はマリア、エリー、シュリを愛した。
彼女達は既に立派な魔族だ。
そしてエレンも・・・。
ディーンに再び魔族として復活させたこと。
そして我の『野望』を話したら彼女も我に忠誠を誓った。
この野望が叶えば、エレンが裏切った「可愛い仲間」を殺す必要がない。
むしろ一緒に平等に生きることができる。
彼女も魔族として、我に忠誠を誓った。
また、他種族を魔族にすることを、エレン、エリー、シュリで試してうまくいくこともわかった。
そして今は、勇者を取り込んでいる。
この男も「勇者」としてしか自分を見てもらえず苦悩していたみたいだが・・・。
「勇者」という希望に縋る人族。
確かに「勇者」は強い。
我ら魔族に抗おうと人族は「勇者」の強さに免じて、色々、目を瞑ってきた。
しかしこの強さの一部が、我による「幻影」であることを人族は知らない。
四天王一人目を名乗った我の「幻影」ファントム。
そいつは騎士団を壊滅させた。
そして勇者によって倒された。
いや、勇者に力を与えて倒されるようにした。
取り憑いたとでも表現しようか。
我と同じ異性を洗脳する力も与えた。
勇者はその力で好き放題した。
取り憑いた「幻影」を通じて我は見ていた。
各地で魔族の脅威から救う勇者。
一方で小さな幸せを壊す勇者。
客観的には小さな幸せでも、当事者にとってはとてつもなく大きなことだってある。
その幸せを壊すことで一生恨まれることだってある。
我は「勇者」に激しい恨みを持つ二人の男を回収した。
一人は新妻を取られ、風で崖に突き落とされた哀れな夫、ディーン。
洗脳されたエレンに指輪を崖下に捨てられて、そして「強風」で煽られて転落した。
ディーンは転落する瞬間に我・・・いや勇者と目が合った。
その時の絶望、怒り、憎しみを宿した目が印象的だった。
そのままディーンは命を落とした。
その遺体はすぐに回収した。
もう一人は妻を孕ませられ、その事実に耐えきれず妻が自殺した哀れな夫、レオンハルト。
自分の妻が勇者に惹かれていく。
しかし、王都の騎士団長である以上、勇者を許容する王族の方針には逆らえない。
それに自分も魔物から人類を守る騎士団と言う立場にいる。
勇者がそれにどれだけ貢献しているか、わかっていた。
勇者は王都で過ごしている。
自分が任務で外に出ている間も、彼の妻は勇者と過ごしていた。
見た目も性格も勇者に変えられていった。
けれどレオンハルトは何もできない。
王都に仕える騎士団の団長だから。
レオンハルトの妻は「勇者」によって変えられていったが、レオンハルトは「環境」が彼を変えていった。
取り憑いた勇者越しに見るレオンハルトの目は、闇に落ちていくように暗くなっていった。
彼はついに自分の妻とも向き合えなくなっていた。
それからしばらくレオンハルトの姿は見なくなった。
ある田舎の村に長期の任務に行っていたらしい。
任務から帰ってきたレオンハルトは驚いたことに決意に満ちた目をしていた。
しかし、そんな彼に真っ先に伝えられたことは・・・。
妻が自殺したこと。
絶望した彼は騎士団を抜けて王都を旅立った。
戦う相手ともすら向き合えなかった彼は、クレアと戦い、当然のように敗れた。
その敗北は彼の心を折った。
心が参っている時は何かにすがりたくなる。
それが魔王だとしても・・・。
そして・・・我の駒となった。
この二人を魔族として我の駒とした。今は新四天王として頼りになる存在だ。
勇者はルギウスの美しい妻のクレアを洗脳した。これを利用してルギウスを始末してくれるか期待したが・・・。
だが『私情』が絡む思惑はうまく行かないものだ。
クレアを洗脳して、ルギウスの強さを知ってしまった勇者は怖気づいてしまった。
そして自分の妻が洗脳されたことを知ったルギウスは、クレアや勇者に気づかれぬように我のところに来た。
―『魔王なら洗脳を解くことをできるよな。』
ルギウスはクレアの洗脳を解くように直談判しにきた。
驚くことにルギウスを前にして、怖気づかず挑んできた勇者以外で勇気ある人間がいたようだ。
我はこれを利用することにした。
勇者を誘い出しつつ、ルギウスを倒し、その勇気ある人間を我の駒とできるかもしれないと・・・。
だがそんな突然生まれた考えが思い通りに進むこともなかった。
勇気ある人間は簡単には堕ちない。
そんな簡単なことにすら気づかなかった。
それでも我は、洗脳の記憶、そして自分に新たな道を示してくれた師と戦わせて心を揺さぶった。
その程度で堕ちるわけがなかった。
計算外のことが起こったときこそ、冷静に物事を判断せねばならなかった。
そして最大の誤算は勇気ある人間の金魚の糞のようについてきた魔術師の女だ。
まさか脱出する術を持っていたとは・・・。
それでもエリーやシュリ、エレン、マリアを我の駒とできたので良かったといえるだろう。
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勇者の取込は思ったよりも早く上手く行った。
ファントムが取り憑いていたおかげだろうか?
そのおかげで我が取込やすいようになっていたのかは知らぬが・・・。
「魔王様、お疲れ様でした。」
魔王妃のマリアが声をかける。
その横にはエリーとシュリもいる。
「素敵になりましたわ。」
「けれど勇者の面影があるのは少しあれね・・・」
エリーは不満そうに言った。
「見た目で判断するな。我は魔王だ。」
「そ、そうですけど・・・。」
シュリもまだ少し納得していないようだ。
・・・これだと少し士気にかかわる。
「見た目が変わろうとも我は魔王だ。それを教えてやろう。3人とも我と一緒に寝室に来るのだ。」
人間というのは見た目で判断する種族らしい・・・。
その考えは改めないといけない。
我は心の中で思った。
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「皆、集まったか。」
3人に我が姿や見た目が変わろうとも魔王であることを教えた後、皆を集めた。
今、我の元にマリア、エリー、シュリ、レオンハルト、ディーン、エレンが集まる。
「我も勇者を取り込んだ。準備もできた。」
「ついにですね。魔王様」
マリアが我を見る。
「そうだ。人間界の王都へ行く。そして・・・」
そこで人族に希望の勇者が絶望に飲まれたことを宣告する。
そして我は人族を殺戮・・・などはしない。
我の『野望』のために生かす。
「『魔族統一計画』始動だ。」
種族を統一し、争いを無くす。
これが我の『野望』だ。
「問題はルギウスだ。」
その『野望』の最大の障壁の名を我は呼ぶ。
「そのルギウスは我が殺る。」
これは『野望』を叶えるための最終試練。
今まで『我は弱い』とルギウスよりも弱いことを肯定し、甘えていた我への最終試練。
お前を倒して、最終試練を乗り越えて見せるぞルギウス!
「ルギウス以外のやつらはお前たちに任せた。生かすも殺すもお前たちの判断に任せる。」
「ジュリア、シオン。私が迎えに行くからな。」
「エレン。僕も協力するよ」
ディーンはエレンの頭を撫でながら言った。
「ティア・・・あの時のリベンジを果たすわ。」
「あの時の私たちとは違うってことを教えてあげるわ!」
魔王の間では、2対1の状況でティアに敗北したエリーとシュリ。士気に問題はない。
「さあ。行くぞ!」
『野望』を叶えるために・・・。
魔王は種族を統一して争いを無くすと言ってますが・・・
4章は思ったよりも長くなってしまいました。
次からは最終章です。