76:成長
本日はプロ野球のドラフト会議がありました。
「お前ら無事に戻ってきたんだな。」
『女神の秘宝』と素材を手に入れた私たちは、ガンさんの家に戻ってきた。
塔の主様に下に送ってもらって、女神の試練で離れ離れになったスザクたちと再会した。
主様の言う通り、彼らは床に座ってのんびり談笑していた。
スザクが真っ赤な顔して恥ずかしそうにしていた。
3人で何の話をしていたのだろうか。ちょっと気になる・・・。
彼らはあの魔物大群を切り抜けた。倒した魔物たちからガンさんに言われていた素材をたくさん採取していた。
そしてスザクとルギウスさんの話を聞いたラフェールさんも魔王を倒す旅に同行することになった。
シオンが嬉しそうにしていた。
私たちも『女神の秘宝』を手に入れて、主様に下まで送ってもらったことを話した。彼らも『女神の秘宝』がペンダントでなかったことに驚いていた。
けれどこの石が魔法効果や洗脳を防ぐことを知ると安心したようだった。
「なかなか戻ってこねえから心配だったぜー。それで目的のもんは手に入ったのか?」
「はい。女神の秘宝も素材もたくさん手に入れました。」
「おー虹色の枝、ドラゴンのキバ、良質な毛皮も・・・。夢のようだぜ。」
ガンさんは目を輝かせながら素材を見た。
「それで『女神の秘宝』はどれだ」
「はい。これです。」
「ほーこれが『女神の秘宝』か・・・」
私が見せた石をまじまじとガンさんは見る。
「よし素材のお礼だ。この石をペンダントにしてやる。こんな『石ころ』の状態だとカッコ悪いだろ?」
確かに魔王と戦うときに石の状態だと落としてしまうかもしれない。
でもペンダントにしてもらえるなら、首からかけるので落とすリスクもない。
でも素材のお礼と言うが、居候させてもらい、旅の馬の面倒も見てもらった。
流石にそこまでしてもらうなんて・・・。
「なーに!遠慮するなって」
ガンさんは笑顔で言った。
「いやー居候までさせてもらってそこまでしてもらうのは・・・。」
ラフェールさんが私たちが思っていることを言った。ここまでお世話になりっぱなしなのは気が引ける。
ラフェールさんの言葉を聞いたガンさんはゆっくりと目を閉じる。
「・・・俺はな、ラフェールを見て諦めなければ望みは叶うって思ったんだ。」
ガンさんはゆっくりと話し始めた。
「俺の夢は全ての種族に俺の鍛冶技術で作ったものを自分の店で売ることなんだ。だが大きな街に出たらドワーフは変な目で見られる。種族の壁は厚いんだよな。」
私はルクの街で宿屋を探していたことを思い出した。
―『他のお客様もいますし・・・』
―『できればご遠慮いただけたらと・・・』
こうやって魔族を連れて宿屋を探した私たちは断られた。
あちらにも言い分があるのはわかるけど、種族の壁を感じた瞬間だった。
「俺はそれで自分自身の夢を諦めた。」
人の多い王都やルクの街でお店を出すどころか、普通に生活すること自体が難しいだろう。
「だがよ。ラフェールの諦めない心、そして魔族と人間が種族の壁を越えて、同じの目的で一緒に旅をしているお前らを見て、俺の夢を諦めるのは早いじゃないかって思ったんだ。」
ガンさんの言葉を聞いて私は思った。
私たちは、魔王に破れて、なしくずし的に一緒に旅をすることになっただけかもしれない。
けれど、どんな経緯であれ、種族を越えて同じ目的に向かっていたのは事実だ。
「お前たちは素材だけじゃなくて、夢へ挑む俺の心に火をつけてくれた存在だ。だからやらせてくれ!」
「いえ、むしろこちらがお願いしたいくらいです。」
スザクはガンさんに頭を下げて言った。
「お願いします。」
私も彼に続いて言った。
「おうよ。この石の数だけ、加工してやらあ。」
腕が鳴るぜ!
とガンさんは腕をぐるぐる回しながら言った。
「だがちょっとは時間をもらう。急ぐ旅なんだろうが、三日位、この村で待ってくれ。」
「いえ、むしろ三日間で作っていただけるなんてありがたいです。」
スザクの言う通り、本当に感謝だ。
「それじゃ今日のところは休むか。お前たちもしばらくはこの村でゆっくり休みな。」
休むことも大事だぜ。とガンさんは笑顔で言った。
************
お休みの時間はあっという間に過ぎて、ドニーの村を出発する日になった。
「本当に三日間でこの数を綺麗に加工してくれるなんて・・・。」
「凄い技術だ。」
クレアとルギウスさんが感心していた。
短い期間で加工してくれた。そしてとてもきれいだ。
私たちもゆっくり休むことができた。
スザクと村をお散歩したり、シオンたちと村のお店を回ったり・・・。
もちろん身体が鈍らないように鍛練もした。
今なら最上位の雷魔法を打てそうだ。魔力の向上と効率良く魔法を放つために、王都に戻ったら杖を新調しようかな?
スザクとルギウスさん、ラフェールさんは近接戦闘の鍛練をしていたな・・・。
「こんくらい当然よ。さあ早速つけてみてくれ!」
ガンさんの言葉を聞いて、私たちはペンダントを付ける。
これで・・・何も怖くない。
彼の隣で戦えるんだ!
「じゃあ俺たちは行きます。ガンさん長い間お世話になりました。ありがとうございます。」
ラフェールさんはお礼を言った。
「おうよ。またここに来るときがあったら頼ってくれや。」
こんな辺境の村に来る用事があるならな。とガンさんは笑って言った。
そして私たちは村の出口へ歩みを進めようとしたとき「あっ、ちょっと待った!」とガンさんが声をかけてきた。
「ジュリアとシオン、ちょっといいか?」
「はい。なんでしょうか。」
「お前たちには、特別に武器を作ったぜ!」
ほらよ。とガンさんは虹色の杖を私に、弓をシオンに渡した。
「あの・・・これは・・・?」
「お前たちは、女神の塔でだいぶ成長したみたいだな。」
女神の塔で『幻』に打ち勝った。多分少しは成長したんだと思う。
それを言葉にしてもらえるのは素直に嬉しかった。
「・・・俺はお前たちが女神の聖域にいくことを心配したよな。」
―『まあでも見た感じティアとスザク、そして魔族の兄ちゃんと姉ちゃんは大丈夫だろう。ちょっと心配なのが後ろのまない・・・』
―『ジュリアです。』
―『シオンです』
そういえば初めて会ったときにそんなやりとりをしたことを思い出した。
「でもお前たちは見事に戻ってきた、成長してな・・・。だからそれは俺からの贈り物だ。」
「ガンさん!」
「ありがとうございます。」
私たちはお礼を言った。
「良かったね。ジュリア。」
スザクが笑顔で私に言った。
「その杖は己の魔力を高める。攻撃魔力、そして回復魔力もな。」
回復魔力が高まる。
ということは私も少しはマリアさんの癒し魔法に近づけるかもしれない。
そして攻撃魔力も・・・。
「そしてその弓は威力を上げる。ラフェールのパワーシュートのような威力で矢を打てるかもな。」
「ラフェールのように・・・」
シオンが嬉しそうに言った。
「さて、そろそろ行きな。」
「ありがとうございます。ガンさん。」
こうして私たちはガンさんと別れ、ドニーの村を出た。
************
さて、これから王都への長い旅だ。
そういえば行きもかなり時間がかかったな・・・。
そんなことを私が思っていると・・・。
「さて、すぐ帰るか。」とルギウスさんが言った。
すぐ帰るなんてできるのかしら?
「皆、馬車に掴まれ!」
私たちはその言葉に従う。
そして謎の浮遊感を感じたときに・・・・。
・・・・既に王都の目の前にいた。
一瞬で戻ってこれた。
「ふう、久々に転移魔法を使ったが・・・上手く行ったようだな。」
ルギウスさんって転移魔法までも使えるんだ・・・。
「一度行ったことがあるところなら、これで移動できるのは便利よねー。」
クレアが言った。
ー『転移という能力はそれだけ稀少な能力なんだ。』
私はドレークさんの言葉を思い出しながら、効力を失った緑の石を握った。
一度行ったことがあればルギウスさんは転移魔法が使えるんだ。
ルギウスさんってもうなんでもあり・・・。なんというか強さの1/100を分けてほしい。
・・・って驚いてられるのも束の間だった。
「城に魔王がいる。」
「なんだって!?」
ルギウスさんの言葉に皆が驚く。
「魔王が攻めてきたってこと?」
シオンが言った。
ルギウスさんの言う通りあの城に魔王がいるってことは、王都に魔王が攻めこんできたってことだ。
「それにしては静かな気がするが・・・」
ティアの言う通り魔王が攻めているなら確かにもっと騒がしい気がする。
遠目から見ても建物から煙が出ていたり、そんな様子はない。
「いや王都の中に入らないと、本当の状況がわからないです。」
スザクが言った。
「行きましょう!」
私たちは王都へ走り出した。
魔王を倒す。
エレンさんたちを取り戻す。
そして勇者の過去と蹴りをつける。
最後の戦いの舞台に私たちは足を踏み入れた。
ジュリア視点の4章は最後です。
勇者視点、魔王視点の話を一話ずつ挟み、4章は終わりとなります。