75:女神の秘宝
ポケモンの冠の雪原を楽しんでます。
「これで全員『幻想』に打ち勝ったわよ!」
クレアが『声』に向かって高らかに言った。
次はどんな試練が待っているのかしら。
どんな試練が来ても私は逃げない。打ち勝って見せる。
彼の隣で戦うために。
でもまずは『声』の主を見つけないと・・・
「ダメ。私の気配察知に引っかからない。」
シオンが『声』の主を自身の気配察知の能力で探していた。
「どうすれば・・・?」
気配察知の能力でも見つからないなんて・・・。
あの『声』の主はどこに・・・。
『どうもしなくて良いぞよ。』
『声』が聞こえた。
「こっちじゃこっち」
声のする方向を振り向くと・・・。
小さな女の子がいた。
「えっ、女の子?」
私は思わず声を上げてしまう。
「魔術師の女子よ。わらわはこの塔の主じゃよ。」
主ってことは・・・。
この女の子が女神のペンダントを持っているのだろうか。
「それで主様。私たちは女神のペンダントを探し求めてきたのだけど・・・」
「ペンダント・・・」
塔の主様は考え込むと・・・。
「そんなものはないぞ。」
「えっ!?」
主様が言ったことに衝撃を受けた。
じゃあここまでの道のりって・・・。
ここまでの道のりは無駄だったってこと?
「ちょ、ちょっと女神の秘宝って女神のペンダントじゃないの?」
クレアは慌てて主様に言った。
これが手に入らなければ、私たちは魔王と戦うことができない。
洗脳を防ぐことができない・・・。
「でも女神の秘宝はあるぞよ。」
主様は言った。
「ほれ。奥の『女神の壁』から採掘すると良いぞ?」というと主様は奥を指差した。
「お主らは心の支えがなくとも『幻』に負けず試練も乗り越えた。好きなだけ取って良いぞ。」
太っ腹じゃなわらわも。と主様は胸を張って言った。
確かにきれいな石はたくさん採掘できそうだけれども・・・。
「ちなみにお前らの心の支えの男共も無事じゃぞ。剣術の稽古をしたり、おしゃべりしたりして、のーんびり待っておるぞ。」
・・・こんな石が何に役立つのだろうか。
女神の試練も乗り越えて苦労してここまで来たのに。
私は膝をついた。
「こ、これじゃ一緒に戦えない・・・。」
洗脳を防ぐという目的で女神のペンダントを取りに来たのに・・・。
―『行きましょう!その塔へ』
噂レベルの情報を信じて、何もしないより行動した方がいい。
と思ってあの時私は発言した。
でも結局無駄足だったなんて・・・。
「魔術師の女子よ。何を膝をついておる?」
主様が私に声をかけてくるが答えることができない。
ペンダントがないこと、スザクの隣で魔王と戦えないこと。
そして私の浅はかな発言で無駄な時間を仲間に過ごさせてしまったこと・・・。
それを受け入れられずにいた。
「・・・ここに洗脳を防ぐペンダントがあるときいてきたんだがな。まさかただの石ころだとはな。」
私の代わりにティアが答えた。その声は落胆の色が隠せてない声色だった。
ティアの答えを聞いた主様は首をかしげる。
「お主らは何を言っておる?ペンダントやら石ころやら訳の分からないこと言いおって!」
主様は小さく地団駄を踏みながら言った。その仕草はまるでわがままをいう幼子のようだった。
「あのなぁ。ここで採掘できる石は『石ころ』ではないぞよ。」
わかっとらんのぅ。と呟きながら言った。
「あの石は、様々な魔法効果を封じることができる凄い石じゃ!」
ビシッと、主様は私を指差した。
「えっ、じゃあ『女神のペンダント』があるっていうのは・・・」
シオンは主様に尋ねた。
「・・・人間たちにこの塔のことがどのように伝わったかは知らんが、お主らが言う『洗脳を防ぐ』効果はその石にあるから、好きなだけ取ると良い!」
―『洗脳を防ぐ』効果はその石にある
確かに主様は言った。
ということは・・・。
この旅路は決して無駄じゃなかったということ。
「みんな!」
仲間たちは皆、笑顔だった。
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「これくらいでいいかなっと。」
私たち4人の分。
スザクとルギウスさん、ラフェールさんの分。
そして・・・エレンさんとマリアさんの分。
これで足りるはずだ。
「あれ、ちょっと多い?」
「これはね・・・。」
私が数が少し多いことに疑問を持つとクレアが答えた。
「エリーとシュリの分よ。彼女達も救ってあげたいの。」
剣聖と賢者と呼ばれる彼女達。
勇者に洗脳された後は、魔王に洗脳されて魅了状態となってしまった。
彼女達も私と同じ被害者だ。クレアも救いたいと思ったのだろう。
「必要な数取ったし、さっさと戻りましょう。」
「ちょっと待つのじゃ」
塔を降りようと出発しようとしたら、主様が声をかけてきた。
「その、洗脳スキルで大変な思いをしたんじゃよな。本当に申し訳ない。」
主様は頭を下げながら言った。
「主様が頭を下げることでは・・・」
「お主たちは魔王を倒す、そして勇者も倒すのじゃろう?」
私の言葉を遮って、主様は優しい笑顔を浮かべて言った。。
その笑顔はまるで女神のようだった。
「頑張るんじゃぞ。」
すると私たちの身体が光に包まれる。
「下まで送ってやろうぞ。」
主様がそう言うと身体が浮いたような感覚になった。
『お主らに神々が残した負の遺産の後処理をさせるは申し訳ないのう・・・』
主様が何か言った。
その言葉が私たちの耳に届くことはなかった。