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74:楽

この話はシオン視点となります。

『ラフェール、やっぱりダメなの?』

『・・・・』


 スザクさんやルギウスさんたちと協力して魔王と勇者を倒した。


 私もラフェールと一緒に遠距離攻撃で活躍した。


 息のあった攻撃も見せた。

 そして魔王を倒すという大きなことを成し遂げた。


 よくある物語では二人は結ばれるはず・・・。

 実際にジュリアとスザクさんは結ばれた。




 私たちもそうならないの?




『ねえってばあ』

『・・・スザクたちのように、無理に元に戻る必要ないじゃないか?』

『えっ!?』



 思わぬ言葉に私は言葉を失う。



『スザクは奥手だから、他に女ができなかっただけかもしれない。』


 確かにスザクさんは女性に対して自分から行くようなタイプじゃない。



 でもラフェールは・・・。


 洗脳される前は私一筋だったけど、逞しい体つきだし結構モテる。




 いやよ・・・。




『でも俺はお前が勇者に連れていかれた間に・・・』


 いやよいやよいやよいやよ


『他の女と付き合って、抱いた。』

『ああ・・・』


 ラフェールから見たら私はこっぴどく裏切った女。

 そんな女に見切りをつけて、他の女性に行くことはむしろ必然だ。



 神官様が事情を説明してくれたって・・・。

 結局は元に戻らない。






 零れた水は拭き取られるだけ。

 そして新たな水が注がれる。








 ・・・むしろスザクさんのような人が珍しいのかもしれない。



 でも、彼が他の女を抱いていたなんて・・・。

 私が洗脳されている間に前に進んでしまうなんて・・・・



 受け入れられないよ。



『魔王と勇者を倒して、お互いスッキリしたんじゃないか。』



 彼の言葉は耳に入らない。





 ・・・入れたくない。



『だから、これからは別々の道で頑張ろう』

『ああ、ま、待っ』


 私の言葉を待たずに、彼は去っていった。



 その背中を追う「勇気」も「気力」も何もない・・・。



『ううう』

 私は惨めに地面に張り付いて涙を流すしかなかった。





『シオン』


 この声は・・・。


『どうしたの?』


 ジュリア。

 私と同じ、勇者に洗脳された被害者。



 故郷に帰るとき。

 モック村南の森で初めて共闘したとき。

 魔王に仲間が洗脳されたとき。



 どんな時もそばにいてくれた大切な仲間。


『うううジュリアぁ。ダメだったよぉー』



 私は思わず彼女に甘える。



『頑張ったんだね。』


 そう言うとジュリアは私の頭を撫でる。



『・・・ねえシオン』



 そういうとジュリアは口を閉じる。

 そして一瞬哀しい顔した・・・ように見えた。


『ジュリア?』

『一緒に、一緒に、スザクの妻にならない?』

『えっ!』


 突拍子もないことを言いだしたので私は驚いた。


『スザクは真の勇者だもん。妻が二人くらい居たって問題ないよ。』


 そ、そういうことじゃなくて。





 でも・・・スザクさんなら・・・。


『それにね。スザクは「まな板」な女の子が好きなんだって。』

『ジュ、ジュリア、私は別にその・・・』

『きっとスザクも喜ぶよ。』



 ティアのと比べると、神は平等なのか疑いたくなるけど・・・。



 スザクさんはラフェールと違って洗脳されたジュリアを一途に思い続けていた。


 そして彼は優しい性格だ。

 今は魔王がいなくなって行き場のない魔物をルギウスさん、クレアと一緒に保護している。そしてドニーの村のように様々な種族が共存して暮らせるように働きかけている。本当に優しい人だ。



 ・・・私を受け入れてくれるかもしれない。



『三人で幸せに暮らそ?』



 幸せに・・・?


 私も幸せになりたい。



『ジュリア。その話・・・・』




 ―「お願いしてもいい?」




 私はそう言おうとして・・・





 それでいいの?



 私はまた『楽な方』に逃げようとしている。


 ラフェールには自分が洗脳されていたことを前面に出して『楽』に許してもらおうとした。

 彼の気持ちも何も考えずに・・・。



 ドニーの村で再会した後も、私は彼と一緒にいるだけだった。

 一緒に女神の塔を攻略して、魔王を倒せば、必ず元に戻ると根拠のないことを思っていた。

 根拠のない理由にしがみついて、『楽』に彼と元に戻ろうとした。



 それに魔王を倒したのはスザクさん、ルギウスさん、ティア、クレア。

 私はそれに言ってしまえば同行しただけ。ほぼ彼らに頼っていた。



 ここでも『楽』をしていた。





 そして今・・・


 ラフェールとはダメだった。彼が去った後、追うのが怖かった。

 追う気力がないとか言い訳して、その場に伏せるという『楽』な選択をした。

 伏せてれば誰かが助けてくれると思って・・・。


 洗脳された私を許してくれないラフェールとジュリアを許したスザクさんを比較した。そしてそのスザクさんに縋るという『楽』な選択をしようとしている。



 そうやって私はまた『楽』をするの?

 ジュリアやスザクさんの気持ちを考えず、傷ついた私を気遣うジュリアに甘えていいの?




『ジュリア。その話・・・・』


 私は笑顔を作る。


『お断りするわ。』

『えっ、シオン・・・』

『大丈夫だから。』



 ジュリアが私に気を使って何かを言いかけるけど私はそれを止める。




『私は大丈夫!もう楽な道には逃げないから。』




 ラフェールが歩き出した道を応援する。そして私も新たな一歩を踏み出す。





 いつか再会したときに・・・。



 胸を張って彼と顔を合わせられるように・・・。







 *********















「ん・・・」


 なんだか長い夢を見ていた気がする。


 私は女神の塔を攻略していたはずだけど・・・。





「シオン、シオン」



 この声は・・・



「良かった。目覚めた!」


 ジュリアだ。


 なんだろう、さっきまで一緒に塔を登っていたのに。


 少し雰囲気が変わった気がする。



「シオンも目覚めたぞ。」


 ティアが言った。


 目覚めたということは眠っていたってこと?


 なんで意識を失っていたの?



「あの『声』め。試練とか言いつつ、私たちに『幻』を見せやがって・・・」


 そうだ。

 私たちは塔に登って、この変わった雰囲気の部屋に入った途端に・・・・。





 でもみんなその『幻』に勝って目覚めたんだ。



 これまでの戦闘はティアやクレアがいたから自分が積極的に敵を倒さなくても進めた。言ってしまえば楽をさせてもらっていた。




 ―『心の強さ、意志の強さで試練に打ち勝て』


 私は石板に書いてあった言葉を思い出す。




 『幻』に勝つ心の強さで乗り越える試練。

 これは自分自身で勝つ戦い。『楽』はできない。







 これが女神の試練というのなら・・・。







 私は逃げない。

 正面から受けて立つ。

幻想回は終わりです。

いきなり幻想の話になったので驚いた方もいたかもしれません。


次はジュリア視点に戻ります。

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