72:妄想
『ジュリア、どうしたのボサっとして?』
シオンさんは私に声をかけてきた。
ここは華やかなお城の中。
そしてあの勇者に洗脳され、身体をささげた悪夢の場所。
どうして私はこんな場所に・・・。
『そうだぞ、ジュリア』
この声はまさか・・・。
『エレンさん!』
私は叫んだ。
エレンさんがなんでここに?
『お、おうジュリア、どうした?』
『エレンさんは魔王の間で・・・。』
『んー?私が魔王如きにやられると思っていたのか?』
と言いながら、エレンさんは私の頭をくちゃくちゃと撫でる。
『ジュリア、どうしたの様子がおかしいわ。具合悪いの?』
『ええと、私はなんでここに・・・』
あれ?
私は確か魔王の間で・・・。
『お疲れのようですわね。ジュリア』
『マ、マリアさん!?』
『こんな時は癒しの魔法で・・・それ!』
この温かく癒される魔法は・・・。
間違いなくマリアさんの癒し魔法。
『お元気になられましたか?』
『ありがとうございます。マリアさん』
『色々あり過ぎて疲れてたのね。ジュリア』
『まあ、確かに色々あったな。』
そうだ。
私たちは魔王を倒した。
ルギウスさんと協力してクレアさんを救った。
そして・・・スザクが真の勇者に目覚めた。
クレアさんと共に剣聖と賢者も洗脳から救って、皆で協力して偽勇者と魔王を倒した。
スザクは英雄となった。
彼は『様々な種族が共存できるように僕は活動する』と言った。
ルギウスさんと協力して行き場の無い魔族を保護している。
私もエレンさんたちも賛同し、その活動を一緒に行っている。
そして、私とスザクは結婚をした。
今日は魔王を倒した平和式典。主役は英雄となったスザク。
そして私はその英雄の『妻』として式典に参加するためにここにいるんだ。
『それにしても私たちも式典に参加できるとはな。』
『英雄の仲間として参加できるなんて夢のようですわ。』
本当に夢のようだ。
スザクと結ばれた。
偽勇者に復讐できた。
そして、みんなでここに戻ってこれた。
本当に報われて良かった。
洗脳から解放された後も、スザクを追って王都に行った後も、たくさん苦労した。
『それに私たち、これからもずっと英雄の「妻」として一緒に居られるわね。』
『えっ!?』
シオンさんの言ったことを私は理解できなかった。
英雄の妻ってことはスザクの妻ってこと?
『おいおい、何を驚いているジュリア』
驚いている私にエレンさんが声をかける。
それは驚くに決まっている。
スザクの妻は私で・・・。
『私たちは英雄を支えた女性として「妻」として迎えられるって話だったろう?』
忘れたのかーと言うエレンさん。
『大丈夫よ。「正妻」はもちろんジュリア。私たちはいわば「側室」ってやつね。』
『これかも私たちは一緒にいれるな。』
『スザクさんは戸惑ってましたけど、ジュリアが説得してくれましたわ。』
そうだ私は・・・。
私はスザクとの結婚すること、みんなと一緒にいること。
ついでに偽勇者への復讐も・・・。
それらを全てを叶えることができた。
『スザクさんはカムイくんと似て優しいですわ。』
『頼りになる人で素敵よね。』
『私よりも身体は小さいが、あれほど逞しいとはな。』
3人はスザクを褒めている。
『本当に・・・夢みたい』
洗脳の悪夢と比べたら、最高の夢をかなえることができた。
洗脳によってたくさんものが奪われた悪夢。
故郷の思い出、そして恋人との時間、絆、仲間も奪われた。
全て取り戻すことができて・・・。
・・・仲間を奪われた?
そうだ。勇者と同じ能力を持つ魔王によって・・・・。
「うっ!」
頭が痛い。
―違う!
『どうした、ジュリア。』
『やっぱり具合が悪いんじゃ・・・』
『私の魔法で癒しますわ。』
―違う違う違う!
私はなにも達成してない。
彼との絆を取り戻すことも。
洗脳の過去を乗り越えることも。
魔王の脅威を乗り越えることも。
そして大切な仲間を取り戻すことも。
私はなにも達成してない。
だから・・・この光景は・・・
都合の良い妄想だ。