表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/132

71:恐怖

ジュリア視点に戻ります。

 なぜ『勇者』がここに・・・。




 私は恐怖で地面に座り込んでしまう。


「ジュリア。」



 ティアが座り込んだ私に向かって叫ぶ。その声を聞いても恐怖は収まらない。



 『洗脳』によって勇者を好きになる恐怖。

 自分の意志を関係なく、スザクではない男に身体をささげた。



 そして大切な彼を傷つけた。




「はあ、はあ、はあ・・・」


 シオンは呼吸するのがやっとだ。



「いや、いや、近づかないで!」


 クレアが恐怖の叫びをあげた。


 ファイナルドラゴンを一撃で倒した彼女からは想像もつかない怯え方だ。



「いや、もう弄ばないで!」



 洗脳から逃れるためにこの塔に登ったのに。

 その塔でその元凶に再会することになるなんて・・・。


 あの男は卑劣な笑みを浮かべている。

 ・・・私を洗脳から解いたときと同じ顔をしていた。





「大丈夫だ。私がどうにかしてやる!」


 震える私たちにティアが声をかけた。




「勇者め。消えろ!」


 ティアから攻撃が向けられているのに、あの男はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべているだけ。



「はああああああ」



 ティアは勇者を剣で切った。



 だが・・・。



「な、なんだと!」


 その剣は確実に勇者に命中した。

 でもティアの剣が身体に刺さっているのに、あの男は気持ちの悪い笑みを浮かべ続けていた。


「君は俺に洗脳されてないからねぇ・・・」


 勇者は口を開いた。


「なぜ話すことができる・・・。」

「君だけだね。彼女達の苦しみがわからないのは。」


 勇者はティアの問いに答えずに話を続ける。


「・・・なにが言いたい?」

「君は他の三人違って、洗脳される恐怖を知らない。」

「・・・やめろ」

「だから俺に切りかかることができた。」

「やめろ!」


 ティアは勇者の身体から剣を引き抜く。そして再度切りかかる。



「君だけが洗脳されてない。」

「やめろやめろやめろ」

「同じ苦しみを分かち合えない。」

「やめろやめろやめろやめろやめろ」



 ティアは狂ったように何度も何度も勇者を切りつけた。



 でも勇者は気持ちの悪い笑みを浮かべて言い続ける。



「そんな状態で本当に仲間といえる?」

「やめてくれ!」



 ティアは剣を落とした。



「あの娘たちも心中では『洗脳されたことない癖に』って思っているかもね」



 勇者は気味の悪いニヤニヤしながら言った。



 違う。そんなこと思ってない。




「そうなのか・・・みんな。」



 ―違う違う違う違う違う違う違う違う



 そう言いたいのに脳も口も言うことを聞いてくれない。



 私は恐怖で完全に身動きが取れないでいた。



「なんか、言ってくれ・・・」


 レジェンドサイクロプスをサイコロのように細切れにした強いティア。


 そんな彼女が発せられた声とは思えない位に弱々しい。


 不安そうな目を私たちに向けてくる。



「やっぱりそうなのか・・・」


 ティアは跪いてしまう。





 違う。






 違うのに。







 違うってことを彼女に伝えないといけないのに・・・。



 このままじゃティアとの絆がなくなってしまう。そんなの嫌!






 ティアとの絆を失う恐怖。それは勇者よりも怖いこと?







 伝える。

 この恐怖を乗り越えて。



 もうこれ以上、勇者や洗脳によって何かを失うのはごめんだ。






「・・・そうか、そうなんだな。」

「「「違う。」」」



 ティアの絶望しきった声に私・・・いや私たちが反応した。



「私は仲間だと思っている。」とシオンが言った。


「ほ、本当か。」

「本当よ!それに・・・ライバルだと思っているわ。」


 クレアも続けて言った。


「私の剣術と同等だと思った女はティアが初めてよ!」

「仲間、ライバル・・・」

「私は頼れる姉だとも思っています!」


 ティアはわたしが甘えてしまったときも受け止めてくれた。その時、彼女は優しく頭を撫でてくれた。



「ティアはかけがえのない大切な仲間なの!」


 私は叫んだ。



 仲間になることに洗脳なんて関係ない。

 そのことを伝えるために・・・。



「そう、だよな。」


 ティアは剣を拾い上げる。



「よくも私を惑わしたな、っていない・・・。」



 ・・・勇者の姿が消えていた。



 正直急にいなくなったのは不気味だ。




 だけどそんなことより・・・。



「ティア、ごめんなさい。」


 私はティアに抱きつく。


「ど、どうしたジュリア。」

「勇者が怖くて、違うってことを伝えられなくて・・・」


 まるで駄々っ子のように私は言い訳をした。


「私もごめんなさい。」

 シオンもティアに抱きつきながら言った。


「洗脳とか関係ないのに。ティアを誤解させて。」

「二人共良いんだ。」


 抱きつく私たちの頭を優しく撫でる。


「それでもちゃんと『違う』って言葉に出してくれただろう?

 怖かったのに、よく頑張ってくれたな。えらいぞ。」


 良かった。ティアとの絆が壊れなくて本当に良かった。


「その、私もごめんなさい。あの程度の男に恐怖して取り乱すなんて。」

「気にするな。それにしてもクレアが私をライバルだと思っていたなんてな。」

「え、そ、それは。」


 クレアは顔を真っ赤にしている。



「顔が真っ赤だぞ。本当に・・・」



 ティアは少し間をあけて言った。



「可愛いな。」

「ううううう」


 きっとクレアも「きれい」とか「かっこいい」は言われ慣れているんだろうけど。


 可愛いは言われ慣れてないてないのか、クレアはその場に蹲ってしまう。



「あの時私のことを可愛いと言ってからかった仕返しだ。」

「ティア」


 クレアは悔しそうにティアを見つめている。




「か、からかっている時間なんてないのよ。」


 クレアはそういうと立ち上がった。




「下でルギウス達が待っている。先に進むわよ!」


 そうだ。のんびりもしてられない。


「そうだな。さあいくぞ、シオン、ジュリア」




 私たちはさらに先に進むために階段を登り、さらに上を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ