69:男同士
引き続きスザク視点です。
「最強魔族の名が泣く、だったか・・・」
『なんじゃと・・・』
「おい、起きていいぞ。」
魔物は切り刻まれていた。
新たな魔物が聖域から塔に入ってくる気配もない。
『お、おぬしたちがここで魔物を倒しても上へは行けないぞよ』
僕は階段に足を踏み出す。
でもまたバリアのようなものに阻まれてしまった。
『うふふふ。何もできずにそこで本当に指をくわえて、女共を待っているが良いぞよ。』
その一言を最後に『声』は語りかけてくることはなかった。
「ルギウス、ラフェールさん、ごめんなさい。」
僕は彼らに謝罪した。
声に簡単に惑わされ、自分は戦場で戦意を失った。
彼らが助けてくれなかったら・・・。
「ん?気にするな」
ルギウスは魔物の死骸をガサゴソとかき分けながら言った。
「それよりスザクも手伝え。」
「え?」
「スザクさん忘れたんですか?」
僕が戸惑っているとラフェールさんが言った。
「素材ですよ、素材。」
そ、そうだった。
ガンさんとの約束を忘れていた。
「彼女たちを待っている間に、ドラゴンのキバとかさっさと取っちゃいましょう。」
*******
「まあ、こんなもんでいいか。」
意外と沢山素材が集まった。
これでガンさんも満足してくれそうだ。
・・・まだジュリア達は戻ってこない。
やはり僕の努力は無駄だったのか。
不安が心を支配する。
「案ずるな。」
そんな僕の様子をみて、ルギウスが声をかけてきた。
「クレアがいる。そしてティアもジュリアもシオンも強い。問題ない。」
―『ジュリア、先に行くんだ。』
そう言って僕は彼女たちが女神のペンダントを入手することを信じて送り出した。
信じて送り出したのに、今になって気持ちが揺らぐなんて・・・。
信じたなら最後まで信じないと。
「あの、ルギウスさん、スザクさん・・・」
ラフェールさんが僕たちに声をかけてきた。
「なんだ。」
「あの『声』が『勇者』とか言ってましたが・・・もしかして・・・」
「えっ!?」
そういえばラフェールさんにジュリアやクレアさんが勇者に洗脳されていたことを話してない。
・・・出会ってからすぐに女神の塔に向かったから、話すタイミングがなかったってのもあるけど。
「俺も『勇者』にシオンが洗脳されました。」
「ああ、知っている。」
「やはり知ってましたか・・・。」
今ここにいる三人は、大切な人が洗脳された被害者同士。
そして今は幸運なことに、その人が戻ってきて一緒に旅をしている。
「少し語り合いませんか?」
ラフェールさんが言った。
「このまま彼女たちを待っていても不安ですから。男同士で話しましょうよ。」
僕ら3人は同じ被害者、きっと分かり合えることがあるはずだ。ただ待っているより話していた方が気が紛れるだろう。
「是非、お願いします。」
僕は彼の提案に同意した。
「そんな固くならないでくださいよ。俺は単純にルギウスさんとスザクさんのことが知りたいだけですから。」
・・・思えば僕はルギウスのこともよく知らない。
これは二人のことを知るいいきっかけになると思った。
「さあ、座って話しましょうよ。」
ラフェールさんは床に座った。
そして地面を手でポンポンと叩きながら言った。
**********
僕らはたくさんのことを語り合った。
自分の持つ武器の話、今まで出会った最大のピンチの話。
恋人との話。
出会い、エピソード、どういった経緯で付き合ったのか。
シオンさんとラフェールさんの初めての夜の話。
ルギウスのプロポーズ大作戦の話。
作戦を決行しようと思ったら、クレアさんに先を越されたというのは驚いた。
正直、僕にとっては刺激が強い話ではあったけども。
「手をつなぐだけで真っ赤になるのか。スザクは純情なんだな。」
ラフェールがそう言って僕をからかう。
打ち解けていくうちに「さん付け」も自然となくなっていた。
「そ、それは・・・」
「スザクは奥手なんだな。」
ルギウスまで・・・。
さらに魔王城での戦いについても話した。
「君たちは魔王との戦いに備えて洗脳を防ぐためにここに来たんだな。」
「そういうことだな。」
「そういえばラフェールはなんでここに?」
僕たちは洗脳対策として女神のペンダントを手にいれるためにここに来た。
ルクの街でカムイさんから聞いた噂の男性というのは、ラフェールのことだろう。
・・・彼はなぜここに来たのだろうか?
「ん、まあ君たち同じようなものさ。」
彼は誤魔化すように早口で言った。
**********
男同士の話に、話題は尽きなかった。
そして話題は「勇者の洗脳」「魅了状態」に関わる話にも・・・。
「スザクはジュリアさんのために強くなったのか・・・。」
「ですがあの『声』の言う通り、自己満足、現実逃避だったのかもしれません。」
彼女を取り戻したい、でも方法がわからない。
もしかしたら彼女は『自分の意志』で勇者についていったのかもしれない。
でも僕はその現実を直視できなかった。
あの優しい彼女があんなに豹変するなんて思わなかったから。
僕は勇者よりも強くなると決意した。そうしたら彼女は僕のところに戻ってくる。
そんな根拠のない理由に縋り、自己満足な努力を始めた。
幸運なことにその努力を助けてくれる人とも出会った。
その努力は彼女が僕を捨てたという現実から目を背けるには、最適な行動だったから。
自己満足に浸っている間は、そのことを忘れることができた、いや向き合わなくていいから・・・。
「だが結果的にはお前が強くなったおかげで、こうして一緒に旅ができている。」
ルギウスが僕の肩に手を置いて言った。
「お前が俺の心を救ってくれたおかげで、クレアも救うことができた。」
心を救ったというか、あの時はルギウスの圧倒的な強さの前にそうせざるを得なかった、が正しい表現であるとは思うが・・・。
「だからあまり自分の努力を卑下するな。」
「そう。ルギウスの言う通りだ。」
ルギウスの言葉にラフェールが同調する。
「・・・俺は本当に逃避したんだからな。」
彼は目線を落とす。
「いや・・・今も逃避し続けている、が、正解か。」
もしかして彼が僕たちとの『初対面』の時に、シオンさんに気付くのは遅れたのは・・・。
「・・・よかったら俺の話を聞いてくれ。」
サブタイトルですが、本当は52話の女子会の男版の「男子会」にしようかなと思ってましたが、男子会という単語をあまり聞かないので不採用。
男同士で語り合うということで、今のサブタイトルにしました。
次回もスザク視点です。