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68:自己満足

スザク視点です。

「倒しても倒しても魔物がなだれ込むように入ってくる。」


 ジュリア達が塔を登りだしてしばらく経った。


 僕たちはその間、休む間もなく女神の聖域から塔に入ってくる魔物を倒し続けていた。




 ルギウスは相変わらずの強さだ。心配はないだろう。



 ラフェールさんも得意のクロスボウで遠距離攻撃で攻撃する。

 彼の得意な遠距離攻撃できるように僕たちがなるべく敵を引き付ける。



 でもどうしても数が多い。



 ・・・しまった。ラフェールさんの方に魔物が近づいていく。




「心配ないぜ。スザクさん。」


 彼は近づいてきた敵に対して・・・


「アサシンソード!」


 と隠していた短剣で素早く対応した。



「あんたらほどではないが、近接戦闘もできる。だから心配しなくて大丈夫だぜ。」

「わかりました。」


 ・・・任せても大丈夫そうだ。それよりも僕も自分の心配をしなければ・・・。




 魔力を剣に纏わせる。





「ファイアソード!」




 僕は目の前の敵を一掃する。




 この階段は一匹たりとも登らせない。ジュリア達は僕たちが守るんだ。








『おおー、なかなかやるのー男共』



 あの声がどこからともなく聞こえてくる。



『おぬしたちが頑張っても、上で女どもはやられているかもしれないぞよ。』

「問題ない。クレアも、それ以外も強いぞ。」

『ほう・・・』



 クレアさんとティアさんがいる。


 ジュリアもシオンさんも強力な遠距離攻撃ができる。

 それにジュリアは癒し魔法もできる。



 彼女達は塔を攻略してくる。

 僕は・・・いや僕たちは彼女達を『信用』している。



『離れ離れになっても「信用」をしている、か・・・。』



 それでも馬鹿にしたような声で続ける。



『流石、恋人と離れ離れになった経験がある男は違うのぅ。』



 ピクっと、僕は思わずその声に反応する。



『勇者によって、な。』


 僕は動きを止める。




 なんでそのことを・・・



『おぬしは恋人が連れられた後、強くなろうと努力した。』


 そうだ。僕は強くなるための努力をした。




 レオンハルトさんの修行に死ぬ気でついて行った。南の森でも強くなった。




『確かに強くなった。でも「強くなった」から彼女は戻ってきたのかの?』

「そ、それは・・・」



 違う。



 彼女が戻ってきたのは、勇者の『気まぐれ』だ。

 もしかしたら今だって洗脳状態だったのかもしれない。



 強くなるという努力。


 それは勇者から彼女を取り戻すため。



 その名目で『彼女が僕を捨てて勇者を選んだこと』という現実から目をそらすため、気をそらすためにしていた行動。




『今の状況と似てはおらぬか』



 「声」は優しく僕に語りかける。



『強くなるための努力、そして今の魔物を抑える努力・・・』

「スザク、気にするな。集中しろ!」


 ルギウスが叫ぶが、僕は声に耳を傾けてしまう。


『その努力の結果は「離れ離れになった彼女を取り戻す」という結果に直結するのかの?』


 しない。


 強くなったのも、現実から目をそらすため。


 努力していると思い込んでいないと僕の心が持たなかった。

 つまり、彼女を取り戻すという意味では意味のない努力だった。



 今ここで魔物を倒しているのも、もし彼女が塔の上の階層でやられてしまっていたら・・・。

 これも、意味のない努力だ。




『お前の努力とやらは、彼女のためと思い込んでいる自己満足の行動で、その努力が実ると思い込む現実逃避、じゃな。』



 カラン


 僕は剣を落とす。



「スザクさん!」



 ラフェールさんが叫ぶ。




 あっ、魔物が僕を・・・。






「パワーシュート!」


 僕を襲う魔物が矢で打ち抜かれる。



「しっかりしろ。」


 ルギウスがいつの間に近づいて僕を叩く。


 落とした剣を拾い、僕の手に握らせる。



「自己満足で何が悪い。」


 ルギウスが言った。



「・・・『今』は彼女も一緒に戦っているだろう。お前がそんなんでどうする。」



 彼女は今戦っている。


 勇者によって離れ離れになったときとは違う。

 今は一緒に戦っている。


 もし僕がここで魔物を通したりしたら、上で戦っている彼女を襲う。

 もし僕が通した魔物で彼女がやられたりしてしまったら・・・。




「ファイアソード!」


 僕はもう一度、剣を握りなおした。





『その魔族の男は何もできなかったのう・・・』

「・・・・」


 声は僕からルギウスに標的を変えてきた。



『勇者に妻が洗脳された後は、無駄に魔物を活発化させたのう。』

「・・・・」

『スザクは強くなる努力をしていたが、お主は本当に意味のないことをしていたのう。』

「・・・・」

『最後は結局、人間にまで助けを求めてな。』

「・・・・」

『最強魔族の名が泣くのう。』

「・・・・耳障りだな。」




 





 明らかに空気が変わった。



「スザク、ラフェール」



 全身に鳥肌が立った。



「ちょっと伏せててくれ。」



 有無を言わさぬ圧。




 圧倒的オーラ。





 僕は返事をする前に自然と身体を地に伏せていた。

 ラフェールさんも同じ姿勢をしていた。







「アサルトモード」






 本能が言っている。







 決して、顔を上げてはいけないと・・・。







 魔物が周りにいるはずの状態で無防備にも伏せるのは愚かな行動だ。でも決して顔を上げてはいけない。

 



 僕は本能に従って地に伏せ続けた。

次回もスザク視点です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  女神の塔のエピソードに入ってから、予測のつかない展開です。  次回にどうなるのか、さっぱりわからないけど、楽しみにしています。
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