65:女神の塔へ
「アイスソード!」
スザクは氷の魔力を纏わせて魔物に切りかかる。
キングタイガー、ダークエレファント、ゾンビジェネラル・・・。
私たちも倒したような魔物がいる。
けれど強さが明らかに違う。
目の色も違う。血走っている気がする。
けれど、スザクの敵じゃない。
「ボルトキャノン!」
私は雷魔法を唱える。
スザクの死角から遅いかかるオオカミの魔物、キラーフォング3匹に雷魔法を入れる。
私がいるのを忘れてないでほしいわ。
「ありがとうジュリア!」
・・・彼が王都に旅立つときにも言われた『ありがとう』という言葉。
あの時はそれが最後の『ありがとう』だと覚悟した。
でもこれからは・・・。
「スザク、まだ来るよ!」
その言葉をもっと言ってもらうために、ここを切り抜けるんだ。
「上、エイシェントドラゴンがいる!」
そう叫んだのはシオンだった。
地上の魔物だけで精一杯なのに・・・。
流石に四方で魔物を抑えているスザクたちに、あれの相手もさせるのは酷だ。
ここは遠距離攻撃できる私たちでどうにかしないと。
「シオンはティアさんの、ジュリアさんはスザクさんの支援をお願い!」
ラフェールさんが言った。
「あれは俺がどうにかする!」
「で、でも」
シオンが反論しようにも、ラフェールさんは既にクロスボウを構えていた。
「わかったわラフェール!ジュリアもスザクを支援に戻って!」
私は不安だ。
遠距離攻撃をしたとしても、上空のエイシェントドラゴンに致命傷を与えられるとは思えない。
私はスザクをちらっと見る。
雷魔法を放つ準備をする。
スザクの支援のためもそうだ。
もう一つの目的は上空にいるエイシェントドラゴンに打つために・・・。
もしものために備えて・・・。
「パワーシュート!」
ラフェールさんが叫んだ。
放たれた矢は勢いが落ちずに、そのままエイシェントドラゴンを打ち抜いた。
エイシェントドラゴンは落ちてくる。
ズドーンと大きな音を立てて地上に落ちた。
「さて俺の方向は片付いたぞ」
「私もね。」
ルギウスさんとクレアはまるで何事もなかったように言った。
「ふう、僕もジュリアの支援があって何とか片付きました。」
「シオン、ラフェールありがとな!」
スザクとティアもそう言って集まってくる。
私の最上級雷魔法を見せたかった気持ちもあるが、使わないような展開で良かった。
「さてせっかくだし、ガンさんの素材とやらをついでに集めておくか?」
ティアの言葉で倒した魔物から素材を集める作業を始めた。
*******
「それにしてもラフェールよ。エイシェントドラゴンを一発で打ち抜くとは・・・。よほどの腕だな。」
ルギウスさんはエイシェントドラゴンのキバを採取しながら言った。
「あ、ありがとうございます。まさかルギウスさんに褒めてもらえるとは・・・」
上空にいるドラゴンを遠距離攻撃で矢の威力を落とさず打ち込めるのは凄い。
「本当に凄いよ。矢の威力が落ちなかったもん。」
シオンがラフェールさんに言った。
「私じゃあの威力で打ち抜くのは無理だなー。どうやったの?」
「こう、狙いを定めるときに、ギュッと魔力を込めたんだ。」
ラフェールさんはクロスボウを構えるポーズをとって説明する。
「そして放つ瞬間に一気にシュン、パンっていう感じで矢を放つんだ。」
擬音やジェスチャーが多い説明だ。
所謂、筋肉言語ともいうのだろうか?
・・・私にはちっともわからなかった・・・。
「へえ、今度私にも教えてくれる?」
「ああいいぜ」
シオンはラフェールさんと同じ狙撃を攻撃手段としている。
きっとラフェールさんのように威力の高い矢を放つことができれば
大きな力となるだろう。
それよりもシオンとラフェールさんは普通に会話している。
きっとここから二人は取り戻していくんだと思う。
これがきっかけとなってくれればいいな。
と私は甘いことを考えながら、素材を集めていた。
*******
「まさか、本当に女神の塔までこれるなんて・・・。」
聖域での戦闘を終えた私たちは塔の入り口までたどり着くことができた。
「俺の気配消去を使わずに本当に突破してしまうなんて・・・。」
落ち込んでいるような、それでいて嬉しそうな声でラフェールさんは呟いた。
「気配消去まで使えるんですね。」
スザクが驚いたようにラフェールさんに尋ねた。
「そうしないと遠距離攻撃の俺は生き残れないから。」
今まで一人でここまで来ようとしてたからな。と彼は笑いながら言う。
「敵だったら相当厄介なスナイパーだってことだな・・・」
ルギウスさんがそういうけど、彼の場合は気配消去しても、気配に気づきそうだけど・・・。
「・・・準備はいいか?」
ティアが扉に手をかけながら言った。
「大丈夫です。さっきの戦闘も傷もジュリアに癒してもらいましたし。」
スザクが言った。
スザクとティアとクレアは女神の聖域での戦闘で少し敵からの攻撃で傷を受けていた。
なので私の癒し魔法で傷を癒した。
ルギウスさんは何事もなかったようにしていたのは流石に驚いたけど・・・。
いや、3人も私の癒し魔法でどうにかなる程度の傷で済んだのも凄いと思う。
4人で冒険していた時に自分の得意なスキル以外も取得しようと色々試行錯誤していたのがここで活きた。
まだまだマリアさんのような癒し魔法にはほど遠いけど。
「よし、じゃあ行こう」
とティアは女神の塔へ入るための扉を開ける。
ここで女神のペンダントを手に入れる。
魔王、そして勇者の洗脳に怯えることがなくなる。スザクの隣で戦うことができる。
そして洗脳されて魅了状態となったマリアさんや、エレンさんにこのペンダントをつけることができれば・・・。
きっと取り戻すことができる。
また4人で冒険、いや、クレア、ティアも。ここにいる全員でまた冒険したいと思った。
そんな甘いことを考えて女神の塔へ入っていった。