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64:女神の聖域

「シオン・・・?」


 ラフェールさんは彼女の名前を聞くとそうつぶやいた。



 シオンはビクッとした。

 そして小刻みに震えている。私の手に彼女からの不安が伝わってくる・・・。


 この後、ラフェールさんが言葉を発するまでの時間は短かった。


 けれど、彼女にとって、今のちょっとした空白の時間はものすごく長く感じているはずだ。大切な人が自分のことを完全に忘れてしまっているか、あと少しでわかってしまうのだから。

 



 



 






「もしかして、本当にシオンなの?」

 

 ラフェールさんはシオンをシオンと認識して驚いた声を出した。


「えっ、ラフェール!?」 

「本当にシオンだ。久しぶりだな。」

「ラフェール!」


 シオンは生き返ったように彼の名前を呼んだ。


「似ているなとは思ったけど、まさかここにいるとは思わなくてさ。」



 良かった。


 彼は認識できなかったんじゃなくて「まさかここにシオンがいる」って思わなかっただけ。

 確かに彼にとって王都にいるはずのシオンが、このドニーの村にいるとは思わない。



「うん!」


 これできっと彼女たちは元通り・・・というわけにはいかない。


 元通りになるためのスタートラインに立っただけ。


 これから徐々に絆を取り戻していってくれるはずだ。







「さて自己紹介も終わったようだな。シオンのお嬢ちゃんも再会できてよかったな。」


 ガンさんはシオンに向かって言った。


「今日はここに来たばかりで疲れただろうし、ゆっくり休んでくれ。ラフェールもお疲れさんだ。」



 確かに今から素材集めに行ってくれというのは体力的にきつい・・・。



「明日からは女神の塔を目指すついでに、きっちり素材集めもしてもらうからな。」




 ********





 翌日・・・。



「もう女神の塔に行くのか?ラフェールは連日だが大丈夫か?」


 ガンさんは心配そうに私たちに聞いた。

 やっぱり世話好きだ・・・。


「はい。俺は大丈夫です。」

「それにしてもお前が来てしばらく経ったな・・・。」


 ガンさんは懐かしむように語りだした。


「まだ女神の塔へたどり着いてねえが、全く諦めねぇな。」

「最初は聖域に辿り着くことすら大変でしたからねー」

「でもお前さんは諦めずに一歩ずつ成長した。それはお前が取ってくる素材の量でわかるってもんだ。」

「ガンさん・・・」

「今までお前さんは一人で女神の塔を目指していた。何度跳ね返されようと諦めずに挑み続けた。それはなかなかできることじゃあねえ。」


 一人で半年も女神の塔を目指しても、そこに一度もたどり着けない。普通だったら、心が折れてしまってもおかしくないだろう。



「今日は一緒に行く頼もしい仲間も増えた。きっと一人で頑張るお前さんを女神様は見ていたんだろうな。」


 何度も何度も跳ね返されてもラフェールさんは挑み続けた。



 でもなんでラフェールさんはそこまで女神の塔に挑み続けるのだろう。

 私はふと疑問に思った。




「今日こそは女神の塔にたどり着けると良いな。スザクたちもラフェールを頼んだぜ。」


 そう言ってガンさんはニコっと笑った。


「あと、素材もな。」



 **********









「ここから先が女神の聖域になるはずです。」


 女神の塔に向かって森に入ってしばらく進むとラフェールさんが言った。


 ラフェールさんは何度も挑んでいるから、明確な目印がなくても、だいたいの位置でここからが『聖域』だというのがわかるのだろう。


「覚悟して進んでください。って俺が言う必要もないのかなぁ・・・」


 ここまでくる道中、魔物に襲われることもあった。

 でもルギウスさん、スザク、クレアにティアもいる。難なく進むことができた。



 特にルギウスさんの強さを見たラフェールさんは

「これは、聖域どころか塔まで攻略できてしまうかもしれない・・・」

 とつぶやいたほどだった。



「じゃあ皆さん、進みますよ!」


 こうして私たちは女神の聖域に一歩踏み出した。

 そしてしばらく進むと・・・。














 ・・・空気が変わった。



 森の中という景色は聖域に入る前と同じはずなのに。



 私でもわかるくらいに空気が変わった。




「ジュリアとシオンさんは僕から離れないで・・・」


 スザクが私たちに言った。





 周りは既に魔物が囲んでいる。四方塞がれている状態だ。





 明らかに雰囲気が違う。



「ほう、これは少しは楽しませてくれそうじゃないか。」

「ええそうね。数が多いのが厄介だけど・・・」

「問題ないだろう、クレア。背中は任せたぞ。」

「もちろんよ。」



 と言うと二人はそれぞれの方向に魔物の群れに飛び込んでいった。


「あの二人が向かっていった方向は問題ないとして・・・。」


 ルギウスさんとクレアは何かスイッチが入ったように戦っている。





 ただ彼らも強いと言っても全ての方向の魔物を抑えれるわけではない。





 最近は戦闘はルギウスさん、クレア、スザクで足りていたから、私が戦う機会があまりなかった。


「ティアさん背中は任せましたよ」

「ああもちろんだ」


 スザクは続けて指示を出す。


「ラフェールさんとシオンさんはティアさんの後方支援を。」

「OKよ。」

「わかりました。」


 二人はスザクの指示に応答する。



「そしてジュリアは・・・。」


 彼は私の方を振り向く。






 ・・・あの時は『足手纏い』と言われた。







 けれど今は違う。



「僕の支援をお願い!」

「わかったわ。」



 私だって戦えること、そして足を引っ張らないことを証明するんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだシオンと元恋人どうなるかは不明ですか。
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