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63:初対面

「ガンさん、また居候させてあげるのかい。世話好きだねぇ」



 ガンさん宅に向かう途中、村の住んでいる方々が彼に声をかける。



 見渡しても様々な種族がいる。ガンさんが言っていたことは本当だった。



「ねえねえあの人間の剣士さん、優しそうで素敵じゃない?」

 エルフの女性が言った。

「えー、私はクロスボウの人間さんの方が好みかな・・・。がっちりしたガタイが素敵ね。」

 もう一人のエルフの女性が言った。



 エルフも女子トークとかするんだなー。

 そんなことを思っていると・・・。



「お二人共!」


 女子トークをしているエルフたちに声をかけたのはカバの魔物だ。



 すごく厳つい見た目だ。

 声色は女性だけど・・・。




「お姉様!!」


 えっ、お姉様?



「若いわね。魔族の殿方をよくごらんなさい。見た目だけじゃなくて相当な強さも兼ね備えているわ。」

「お姉様、見ただけでそこまで見抜くなんて・・・」

「流石ですわ。」



 エルフとカバさんが楽しそうに話す。



 こうやって種族関係なく、話せるようになるといいなぁ・・・。



「ジュリア、ぼんやりしてどうしたの?」

「え、あ、ううん。」


 女子トークに耳を傾けていたからぼんやりしてしまった。


「・・・いろいろな種族が当たり前のように話しているのいいよね。」



 人が多い街ではこうはいかない。


 ルクの街や王都でこのような光景は見ることはできない。



「この光景が当たり前になるといいね。」

「そうだね。」

「じゃあ行こうか。」



 少しガンさんたちと離れてしまったから、急いで追いつかないと・・・。



 ******



「ひ、広いですね。」


 ドレークさんの家と同じくらいガンさんも広い家に住んでいた。



「まあな。」とガンさんは胸を張って言うと、「この部屋は客用だ。」と大きい部屋に案内してくれた。






 大きいけど一部屋だ。それだと夜はスザクと同じ部屋で・・・。



「ここにしきりがあるから、寝るときはこれで男女のスペースを区切るといいぜ。」



 ・・・ですよね。

 安心したような、残念だったような。



「この部屋を好きに使ってもいいが、明日からは女神の塔周りの森や聖域で、素材を取ってくるのは忘れるなよー。」

「素材といっても何を取ってくればいいんだ。」


 ティアがガンさんに尋ねた。


「魔物を倒した時に取れるキバ、女神の聖域に落ちているという虹色の枝とか、不思議な色のキノコとか・・・。まあ後でメモでも書いて渡しておくぜ。」


 素材のことを聞いて、キバとか枝が鍛冶の素材になるのかなと思った。

 きっと職人さんにしかわからないこともあるんだろう。



「俺は女神の聖域で素材を入手して生きて帰れるほど強くねえ。そこであんさんたちに居場所を提供する代わりに取ってきてもらうってわけだ。」


 ウィンウィンの関係だなと笑顔でガンさんは言った。









 すると・・・・



「ガンさん、帰りました。」


 男性の声が聞こえた。







 シオンがビクっと震えたのを私は見逃さなかった。








「大丈夫、きっと、大丈夫・・・」


 うわごとのように彼女は呟く。

 私はそっと彼女の肩に手を添える。





 逞しい体つきの男性が部屋に入ってくる。



 きっとこの人がラフェールさんなんだろう。


「うお!俺の他にも、人や魔族もいますね。」

「女神の塔に用があるっていうんでな。俺のところに案内したってわけだ。」

「世話好きですね。」

「まあな。そういえば今回は女神の塔までたどり着けたか。」

「ダメでした。ですが・・・。」


 ラフェールさんは背負っていた籠をガンさんに見せて言った。


「沢山の素材が取れました。」

「おお。」



 ・・・何も起こらない。



 ラフェールさんはシオンのことを認識していないのだろうか?


 彼女は彼に話しかけようと「あの、その」と小声言う。彼女の様子からして、あの人は彼女が会いたいラフェールさんのはずだ。



 だが彼はこの部屋にたくさんの人がいると認識しているにも関わらず、シオンを全く認識しない。





 私はラフェールさんが部屋に入ってきた瞬間に、何かが起こると思っていた。



 ―『久しぶりだね。』

 ―『シオン!?なんでここに』



 ラフェールさんから彼女に対してこのような言葉が来ると思っていた。

 感動の再会、ちょっとした修羅場、『何かしら』が起こるはずだと思っていた。





「俺はラフェールっていいます。」


 彼は『初対面』である私たちにあいさつをした。


「なんで、なんで・・・」とシオンは私の耳元でうわ言のように呟く。




「俺も女神の塔に用があるのですが、なかなか一人だと女神の聖域を超えられなくて・・・」

 彼は私たちにそう言った。





 私とも目が合う。

 私の側にはシオンがいる。






 けれど彼は・・・。


「良かったら一緒に女神の塔を目指しませんか?」



 シオンを認識しない。

 何も起こらない。



「そ、そうですね。よろしくお願いします。」


 スザクはそういうとラフェールさんと握手する。



「皆さんのお名前を聞いてもいいですか?」


 シオンがビクっと震えた。



 顔も名前も・・・ラフェールさんの記憶からシオンのことは消えてしまったというのか?




 スザクがちらっと私の方を・・・いやシオンを心配そうに見た。

 そしてすぐにラフェールさんを見て「僕はスザクです。」と自己紹介した。




「ルギウスだ。」

 スザクに続いて、ルギウスさんも自己紹介をする。


「クレアよ。」

「ティアだ。」


 次々に仲間たちが挨拶をする。






 ・・・挨拶をしていないのは私とシオンだけとなった。








「お嬢さんたちのお名前は・・・」



 本当にラフェールさんはシオンのことを記憶から消してしまったのだろうか。

 故郷から旅立って、小さいころの思い出すらも、記憶から消してしまったのだろうか。



「ジュ、ジュリアと言います。よろしくお願いします。」


 私は自分の名前を名乗った。










「・・・シオンです。」




 小さな声で彼女は言った。


 


 感情が消え去った、死んだような声で・・・。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  なにも波乱がおこらない?  いろいろ予想していたのが全く外れてしまいました。  何も起こらないことでかえって不安な気持ちになり、私たちはシオンと一緒の心待ちになってしまいます。うまいです…
[一言] あらあ、シオンの記憶つらくて忘却の彼方へなのかな、彼。まさか又、魔王の仕業とか。
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