62:ドニーの村
「やっと・・・ドニーの村に着いたな。」
ティアが言った。
女神の塔の近くにあるドニーの村。
・・・やっとここまで着いた。
近くの高い塔が恐らく女神の塔だ。
「さてこの村に入って、あの塔について情報集めをしないとな。」
ルギウスさんが言った。
村に入るということは・・・。
「さあ首輪をつけて。」
クレアが言う。
二人は気にしてないようだけど、私は気が重い。
仲間である彼らに首輪をつけること。
種族の壁が厚いということを痛感する。
「またつけないといけないのか・・・。」
スザクも落ち込みながら首輪を手にする。
「何を言う。目的のためだ。」
ルギウスさんはそういうけど・・・・。
「あんたら、ここではそういうのは不要だぞ。」
野太い男性の声がした。
その声の方向に振り返ると・・・。
背の低いおじさんいた。とても力強そうで耳が長い。
「ドワーフ族か。」
「ああそうだ。」
ドワーフって高度な鍛冶技術を持つ種族らしい。私は実際には初めて見た。
「ここは俺たちドワーフ族、エルフ族、人族・・・様々な種族が過ごす村だ。」
「だから剣士の兄ちゃんよ。人の街のように魔族を奴隷扱いしなくてもこの村は問題ないぜ。」
「よ、良かったー。」
私もスザクも首輪をつける作業がなくなってホッとする。
演技とはいえ、仲間に首輪をつけるなんてつらい。
「おうおう、兄ちゃんたちは何しにこの村に来たんだ?」
ドワーフのおじさんが聞いてきた。
「人間と魔族が一緒に行動しているなんて珍しくてな。」
「ああ、あの塔に用があってだな」
ティアが塔を指しながら、ドワーフのおじさんの質問に答えた。
「それは本当か、おっぱいの姉ちゃん。この前人間が・・・。」
「お、おっぱいだと?」
ドワーフのおじさんが何かを言いかけたのを阻止するように、ティアが顔を真っ赤にして言った。
それにしてもこのドワーフのおじさんは「見た目まま」の呼び方をする。
もし私がおじさんの前で言葉を発したら・・・。
―『ま〇板の姉ちゃん、それは本当か?』
・・・なるべく口を開かず、話さないようにしよう。
「私はティアだ。その呼び名はやめろ。」
「おっ、悪かった。すまんすまん。
・・ったくそんなでけえもんぶら下げてっから。」
おじさんが呟いたことに激しく共感した。
でも、なるべく話さない。
「それで先ほどなにか言いかけてましたが・・・。あっ、僕はスザクです。」
おじさんが言いかけていたことをスザクが聞きなおした。
そっか。
話すときに自分の名前を言えばきっと私も大丈夫だ。
まな板対策は完璧だ。
「ああ。いつか前だったが、女神の塔に用があるって人間が一人でここを訪れてな。」
もしかしてカムイさんが言ってた人のことかな?
「そいつは俺の家で居候させている。今はまた女神の聖域に挑んでいるのかな。」
「女神の聖域ってなんですか?」
「それはな。女神の塔を中心に広がる領域のことだ。その領域内の魔物は異様に強い。その領域を出れば、異様に強い魔物は襲ってこないから近づかなければ安全なんだがな。」
そういえばドレークさんが塔の近く魔物が異様に強くて調査できなかったって言ってたっけ。
異様に強い魔物が出る領域をここの人は「女神の聖域」って呼んでいるのだろう。
「まあでも見た感じティアとスザク、そして魔族の兄ちゃんと姉ちゃんは大丈夫だろう。ちょっと心配なのが後ろのまない・・・」
「ジュリアです。」
「シオンです。」
おじさんが禁断のワードを言う前になんとか名前を言えた。
・・・シオンも私と一緒に反応している。
「・・・二人のお嬢ちゃんは心配だが、まあ4人がいるから大丈夫だろうな。」
複雑な気持ちだ・・・。
まな板って言われかけたことじゃない。
強さを心配されることだ。
「彼女達は僕たちが守るので問題ないです。」
スザクの言葉はうれしい。
けれど守られるだけじゃなくて、共に成長すると誓った。
・・・それができてないのが悔しい。
「それと女神の塔に用があるって人間ってどんな人なんですか?」
スザクがおじさんに聞いた。
確かにどんな人なんだろう。
カムイさんの言った人なのだろうか?
「ああ、かなりのクロスボウ使いだったかな。名前はラフェールだ。」
「ラフェール!?」
ドワーフのおじさんにいち早く反応したのはシオンだった。
「お嬢ちゃんは・・・シオンといったか。急にどうした。」
「あの恋び・・いえ、知り合いと名前が一緒だったので・・・」
シオンは恋人ではなく知り合いと言った。
本当は恋人って言いたいんだろうけど・・・。
「なら実際に会ってみるか?」
「え、それはその・・・」とシオンは戸惑う。
もしかしたら故郷の街で会えなかった大切な人と会えるかもしれない。
けれど会えたとしても、お互い傷つくかもしれない。
シオンは今、大切な人と会うのに覚悟を決めないといけない。
「何、遠慮することはないぜ。何ならそいつと一緒に居候させてもいいぜー。女神の塔周りの森や女神の聖域で、鍛冶の素材を取ってきてくれるならなー。」
シオンが戸惑っているのを見て、遠慮していると感じたのか、おじさんは遠慮するなと言った。
「・・・はい。会わせてください。お願いします。」
シオンが答えた。
「おう、遠慮することはないぜ。じゃあついて来いよ。ティアはその馬も連れて来いよ。」
と言うとおじさんは村の中へ歩き出した。
「あ、俺はガンってんだ。よろしくな。」
私たちはガンさんに着いて行く。
「シオン。大丈夫なの?」
ガンさん宅へ行く道中、私は彼女に聞いた。
「ええ大丈夫よ。別人の可能性もあるけど、もし本当にラフェールだとしたら・・・」
覚悟した目で、そう彼女は言葉を続けた。
「あの時はできなかったけど、彼としっかり向き合うから。」
ラフェールという名前・・・だいぶ久しぶりに登場しました・・・