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60:幻影

 ルクの街を出発してからも、道中は順調だった。



「今日はここで野営するか。あと一日もあればドニーの村に着くだろうな。」


 ティアが言った。



 遠くに塔のようなものが見えてきていた。早く進みたいけど、そろそろ夜も更けてきた。










 野営の準備中・・・




「ちょっと気になることがあるんだがいいか?」

 とルギウスさんが問いかけてきた。



「なんだい?」

 スザクがテントを準備しながら答える。



「勇者のことなんだが・・・」



 ・・・あまり触れたくない話題だ。

 どうしてこのタイミングでそんな話題を出すのだろう。



「なぜ人族は、好き放題している勇者を野放しにしているんだ?」

「そ、それは・・・。」


 スザクが答えに困っている。

 圧倒的な強さを持つルギウスさんにはわからないのだろう。



「ルギウスさん、それはですね・・・」


 私はルギウスさんに話した。


 人類の中では最高の強さを持っていること。


 王都にきた翌日に騎士団を圧倒していた四天王の一人を倒したこと。


 洗脳スキル持ちであるが、それと同時に各地で魔物の脅威から救っている事実があること。


 勇者に見捨てられたら、人類は魔王に支配されてしまうこと。


 神父様の話を思い出しながら、しっかりと話した。




「・・・圧倒的に強いから、好き放題してても何も言えなかったんです。」


 強さを盾に、好き放題していた勇者。


 各地で魔物の脅威を救っているのかもしれない。

 でも私たちにとっては、穏やかな幸せを壊した悪魔だ。


 『強い』からって、何をしても許される。


 私だって納得いかない・・・。




「勇者が最強だと?」


 彼は驚いたように言った。


 ・・・ルギウスさんはわかってくれないのかな。

 彼の基準だったら勇者が最強っていうのもおかしい話なのかもしれないけど・・・。




「確かにそうね。」

「えっ、クレア?」


 ルギウスさんの言葉に、まさかのクレアが同調したので私は思わず反応する。


「なんかもっと特別な理由があるのかと思ったけど・・・。本当に『最強』だから野放しにしていたの?」

「どういうこと?」



 特別な理由?

 本当に『最強』?




 彼女が何が言いたいのか、私は理解できず戸惑う。



「・・・私は勇者パーティに敗北したけど、それは相手が『3人』いたからよ。

 勇者が強いことってことは否定しないけど、スザクさんやティアも負けてないわよ?」

「えっ?」


 クレアの言葉にスザクが反応した。






 スザクやティアが勇者に負けてない?







「・・・何をそんなに驚いている?クレアは何もおかしなことを言ってないぞ。」


 スザクや私たちの反応を見て、ルギウスさんも不思議そうに言う。




「えっ、だって神父様は騎士団を壊滅させた四天王の一人を王都に来たばかりの勇者が一人で倒したって・・・」


 シオンが混乱しながら言った。



 神父様は戦闘訓練を受けてない勇者が、騎士団を圧倒した四天王を倒したと言った。

 つまりは勇者という資質だけ四天王を倒したということ。


 神父様の言葉に嘘はないと思う。



 けれどクレアは実際に勇者と戦っているため、勇者の戦闘における実力がわかっている。


 彼女の言うスザクとティアが負けてないって言葉は本当なんだと思う。









「・・・そういえば」


 ルギウスさんが何かを思い出したようにつぶやく。


「クレア。その勇者が倒したっていうのは『ファントム』のことか。」

「ええ、そうね。」

「ファントム?ど、どういうことですか?」


 スザクが二人に言った。




「ああ、それはな」とルギウスさんは静かに語り始めた。



「王都に来たばかりの勇者が倒した四天王は『ファントム』、つまり魔王の『幻影』だ。」

「『幻影』・・・?」


 『幻影』という言葉があまり聞きなれないので、私は思わずその言葉を繰り返した。


「まあ、魔王の分身みたいなものだ。ただ分身とはいえ、魔王曰くファントム自身も自我を持つらしい・・・。そして戦闘力もそれなりにある。」



 ルギウスさんの「それなり」というのはきっとかなりのレベルの強さだと思う。




 それを資質だけで倒した勇者。やはり『最強』の勇者なのだろうか。





「だからファントムがやられたと聞いた時は正直、驚いた。」



 ―『ファントムが赤子の勇者にやられた。最強の勇者かもしれない。』



「魔王からこう聞いた時は心が躍った。最強の勇者といつか戦えるからと思ったからだ。・・・結果は妻を洗脳されただけだがな。」



 ルギウスさんの言葉にクレアがビクリと身体を震わせた。


 勇者に敗北して、そして洗脳されてしまったこと。


 そのことはとても高い戦闘力を持つ強い彼女にとっても、心に深い傷を負っている。




「だが魔王の間で初めて勇者を見たとき違和感を覚えた。これが『最強』なのかと。」




 私はふと思った。



 魔王の『幻影』によって最強だと思い込まされていたのだとしたら・・・。



 勇者の強さというのが、魔王によって作られた『幻影』なのだとしたら・・・。




「最初は力を隠しているのだと思った。だがやつは簡単に倒れた。」

「・・・思い返せば確かに魔王に洗脳された剣聖と賢者にあっさりとやられてたな。」


 ティアが言った。



 あの時は勇者なんか見ている余裕がなかったけど・・・。

 思い返せば私たちが必死に戦っているのに、地べたに寝そべっていただけだ。











「あの時は違和感をハッキリさせる余裕はなかったが、落ち着いた今はハッキリといえる。あの勇者は強いが最強ではない。」

ここに来て3話の最強勇者が本当なのかという話に・・・


ちなみにファントムですが、スザクがルギウスと出会ったときの回想話の際に名前だけ登場しています。

本当にチラッとだけですが・・・。

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