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59:安心

 私はなんとか噴水のある広場を探し出して、そこで待っていた2人をカムイさんの宿屋に連れてこれた。



「やはり宿屋を見つけるのは大変だったか・・・。でもよく見つけたな」


 ティアが言った。


「カムイさんやエイミーさんが理解のある方たちで良かったです。」

「・・・まあでも断ってきた人たちの言い分もわかるわ。普通は怖いものね。魔族と対峙したら・・・。」


 クレアが寂しそうに言った。



 確かにただの村娘のまま生きていたらそう思っていたかもしれない。

 けれど勇者のように、同族である人の人生や尊厳を、平気な顔して弄ぶ人間もいることを知った。


 魔族だから『悪い』、人間だから『良い』そんなことは決してない。

 『良い』や『悪い』に種族なんて関係ないことを知った。




「魔王を倒して、種族関係なく暮らしていけたらいいなぁ」


 私は心の底から思うことを言葉にした。


 クレア達がフードや首輪をせずに街を歩ける日が来たらいいなと思う。



 そういえば道中に劇団に興味もある魔物がいたっけ?

 その狼の魔物も劇団と一員として活躍できる日がくるといいなぁ・・・。




「うふふ、そうねジュリア。」


 私の呟きにクレアが反応した。


「魔王を倒したら、色々な種族が共に生きていけたらいいわね。」



 最初は勇者への復讐心で魔王討伐をしようと思った。


 その気持ちがなくなったといえば嘘だ。

 でも今はそんな復讐心なんかよりも、そういう思いの方が強い。



 そして魔王を倒せばきっと・・・。




 失った大切な仲間も戻ってくる。




「そういえばこのルクの街はシオンの故郷なんでしょ?」


 クレアがシオンに対して言った。



「家族と過ごさなくて良かったの?」

「うん、大丈夫。ティアが買い出しは私に任せろって言ってくれて、顔だけは出してきたから。」


 シオンは無理に笑顔を作って言っている。




 ・・・ように私は見えた。




「シオン・・・」



 ラフェールさんと何かあったのだろうか?

 いや、むしろ何も変わらなかったのだろうか?



「・・・ジュリア、そんな顔して見つめないで。」

「え、あっ、ご、ごめんなさい。」



 私は慌てた。

 以前にシオンとラフェールさんとの事情を聴いている。思わず色々考えてしまいシオンを見つめてしまった。






「・・・ジュリア、みんなもやっぱり聞いてくれる?」


 シオンが小さく呟く。


「話して。」


 私は彼女の話を聞くべきだと思った。


「仲間としてちゃんと聞くわ!」


 つらいことや苦しいことは話を聞いて、それで彼女が『楽』になるなら話してほしい。



 私の言葉を聞いて、彼女はぽつぽつと話し出す。


「家族に顔を出したときに聞いたの。ラフェールはどこかに旅立ったんだって・・・。」



 勇者の洗脳・魅了によって傷ついたのは魅了された私たちだけじゃない。



 ラフェールさんも傷ついている。

 ・・・きっと勇者によって自分の意志関係なくシオンも一緒に傷つけたのだろう。



 そんなつらい思い出がある故郷から離れる

 ・・・という選択を彼がしても何もおかしくない。



「それを聞いて、会えない寂しさもあった。そして・・・ホッと『安心』した私もいたの。」



 その『安心』は、彼が新たな一歩を踏み出したからなのか。

 それとも、彼と会ってお互いに傷つけ合うことがなくなったからなのか。




 ・・・それはきっとどちらにも当てはまるのだろう。




「もうラフェールと会えないのかなぁ。」


 シオンの悲痛な呟き。


 ティアがぎゅっと彼女を抱き寄せる。



「ごめんなさい。こんな話をしてしまって・・・」

「いいのよ。私たちは仲間なの。」


 クレアの言うとおり、私たちは仲間だ。

 つらいことや苦しいことは、一緒に乗り越える仲間なんだ。



「みんな、聞いてくれてありがとう。『楽』になったわ。」


 シオンらしい笑顔で彼女は言った。


 完全に気持ちを切り替えた・・・わけではないだろうが、少しは気が楽になったようなので良かった。

 


「さて、明日も早いし眠ろうか・・・。」



 ティアが言った。




 明日からまた旅は再開する。


 彼の隣で戦うために必要な女神のペンダントを求める旅。





 私たちは眠りについた。




 *********



 翌朝。



「ご利用いただきありがとうございます。」


 私たちはカムイさんは頭を下げてお礼を言った。


「いえ、こちらこそありがとうございます。」

「本当にいい宿だ。飯は上手いし寝具はふかふかしているし・・・。またこの街に来ることがあったら利用しようかな。」


 ティアはここを相当気に入ったみたいだ。


「はい、またのご利用お待ちしています。」



 必要な物資も補給できて、ゆっくり休むことができた。


 カムイさんたちに感謝して、私たちは街の外に出る。


 そして女神の塔へ歩を進めた。

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