57:出発
「本当に行くんだね。寂しくなるなー」
「ドレークさん。一生のお別れじゃないんですから」
ティアの言う通り、少し大げさな言葉だなと思った。
「いやー君たちが僕の家で療養してくれたおかげで、無駄に広い家で寂しくなかったからね。」
また本当に寂しくなるなーと笑いながらドレークさんは言った。
「ドレーク。なにからなにまで世話になった。」
フードを被るルギウスさんが頭をさげる。
「クレアたちのことや怪我の療養場所、このフードや馬車の用意も。なにからなにまで本当に感謝する」
このフードもなるべく魔族だとバレないようにと、ドレークさんがルギウスさんとクレアの二人分用意したものだ。
「いやいや今回の調査で成果をだしてくれたら文句はないさ」
穏やかに言う。
元四天王に成果を求めるなんて、ドレークさんは、肝が据わっているというか・・・。
「俺を部下扱いか。」
「もちろん。僕の部下であるティアくんと調査にいくんだから、僕の部下だ。そこに人も魔族も関係ないさ」
ニコニコと笑顔でドレークさんは言う。
「まあルギウスくんやスザクくんがいるから心配ないけど。無事で戻ってきてねー」
ドレークさんに見送られて私たちは出発した。
*******
女神の塔への道中は順調だった。
魔物に襲われたときは・・・。
まずルギウスさんが正体を明かす。
大体の魔物は逃げていく。
中には「ルギウス様、クレア様どうして人間と一緒に?」と詰め寄る魔物もいた。
ルギウスさんが詰め寄る魔物に事情を説明する。
魔王を倒すってことを言うと・・・。
「魔王様が倒されても、ルギウス様たちがいてくれれば俺たちも人族と共に暮らせるかな」というオークの魔物。
「そんなに争いごと好きじゃないし・・・。人間が襲ってくるから・・・」というサイクロプスの魔物。
「クレア様!万歳!」と言いながら謎の踊りをし出すピエロみたいなの姿をしている魔物。
「ガウガウ!(俺は人間の劇団に興味があるぞ)」というオオカミの魔物。
クレアやルギウスさんが曰くオオカミの魔物はこんなことを言っていたそうだ。
こんなことを思っている魔物がいることに少々驚いた。
人に襲われたから、仕方なく反撃するという魔物もいるのかもしれない。
「魔王様を裏切ったのか」と言って、襲ってきたとしても・・・。
ルギウスさんの相手にならない。
魔物との戦闘はルギウスさんとスザクで事足りていた。
また人間の盗賊の集団に襲われたときは・・・。
「この娘たちに私の力を見せたいし、リハビリがてら任せてもらえる?」
とクレアが言うと
「ああ、任せた」
とルギウスさんは言った。
「クレア一人に任せて大丈夫ですか?」
と私は聞いたけど
「何も問題ない」と彼は言った。
「さあ、私が相手になるわ」
「女が一人で相手だ?舐めるなよ」
と盗賊の一番偉い人っぽい人が言うが・・・・。
・・・赤子と大人が勝負しているみたいだった。
圧倒的な力、スピード。
集団で襲う盗賊は一人一人と倒れて言った。
・・・こんな強い人に私は氷魔法で攻撃したんだ。
ちょっと身震いした。
「こ、この女。人とは思えない強さだ。」
盗賊は完全に怯えている。
あまりの恐怖に失禁している人もいた。
「ええ、人じゃないわよ」
彼女はそうフードを取る。
「懲りたらもうこんなこと辞めることね。」
うふふと彼女は笑顔で言う。
・・・順調も順調だった。
*******
シオンの故郷のルクの街についた。
「よし、ここで必要な物資を補給して出発だな。シオン、案内頼めるか?」
「ええ、いいわ」
「私もお手伝いします。」
シオンの故郷に長居できないのは残念だけど、必要なものを買ったらすぐ出発しないとね。
「あら、せっかくに街に寄ったのよ。野営続きだったし、少しゆっくりしていってもいいじゃないのかしら?」
シオンの故郷でもあるんでしょ?とクレアが言う。
返答に困った。
フードを被っているとはいえ、もしもそのフードを外せとか言われり、なんかの拍子で被っているフードが外れて顔が露わになったら・・・。
「クレア、俺たちは『魔族』だ。」
ルギウスさんが代わりに言ってくれた。
魔族と人の壁は厚い。
もし魔族だとバレたら大騒動になる。
「大丈夫よ。・・・あれを見て」
クレアが指さした方向を見ると・・・。
商人のような人が魔物に首輪をして街に入った光景だった。
「最悪『魔族』だとバレても、あなたたちの奴隷ということにしておけば・・・」
「それはできないわ」
私は間髪入れずに叫んだ。
そんなことできない。
「クレアは仲間なのに!」
私は声を大にして言う。
「僕もジュリアに同じだ・・・。」
スザクも厳しい声色で私に同意する。
「本当に奴隷扱いしろって言ってないわ。むしろ奴隷の真似事さえすれば、人の街を体験できるなら安いものよ。」
とクレアは言うが、嘘でも仲間を奴隷扱いなんて・・・。
「確かに・・・」
思わぬ言葉を言ったのはルギウスさんだった。
「魔王を倒した後は人と共に生きていくことになる。今、人の街の文化を知っておくことは良いことかもしれない。」
「そうよね。」
「で、でも」
二人はもう目の前の「違う種族の街」に興味津々みたいだった。必要な物資を補給して出発することを許してくれない。
「ちょっとこの首輪をして、フードを取れって言われたときに奴隷のフリをすればいいだけだ。というわけでスザク、ジュリア、俺たちに首輪をつけろ」
やっと次の冒険に向けて『出発』しました・・・。
魔界での怒涛の展開に比べると、4章の始めはゆったりした展開だったかもしれません。