6:悪寒
エレン視点です。
端的に言うとエレンさんが勇者に洗脳された経緯のお話です。
苦手な方はこの話と次の話は飛ばしてください。
私とディーンは小さいころから一緒に過ごしていた所謂「幼馴染」という関係だ。
お互いが一人っ子ということもあってすぐに仲良くなった。
私は少々やんちゃなお転婆娘だったが、ディーンは優しく私を見守ってくれていた。
そんな私たちが成長して、異性として意識して、交際するのは自然な流れだった。
20歳の時にディーンからプロポーズされた。
夜空がきれいに見える街はずれの高台
夜空を背景にプロポーズするディーン
左手につけてくれた指輪
私の返事はもちろんOKだ。
結婚して、私たち2人の新居で新婚生活を始めた矢先に・・・。
あの「勇者」がこの町を訪れた。
勇者がこの街に来ると聞いて、私とディーンは二人で勇者を見に行った。
『へえーあれが勇者様か。すごいイケメンだな。』
『何言ってるんだ?ディーンも負けてないぞ?』
『へへ、ありがとう。エレン』
どこからどう見ても仲の良い、新婚二人。
その二人が作る周りまで幸せにしてくれそうな甘い空気。
・・・だからなのだろうか。
勇者が私たちに近づいてきた。
『二人はとても仲が良いようだね。』
『えっ、勇者様。はい僕らは新婚でして・・・』
『へえ、新婚か。ああ、そんなかしこまらないでくれよ。』
ディーンと勇者様がお話ししている。
―勇者様、よくみたらディーンよりかっこいいかも。って私は・・・
嫌な悪寒に包まれた私はディーンに言った。
『な、なあディーン、そろそろ』
『こちらが君の妻かい?へえーきれいだね』
勇者は私の言葉を遮るように割り込み
私と目があった。
その瞬間、私が感じていた悪寒は暖かなものへと変わった。
―それはディーンと私の20年が一瞬で壊れた瞬間
『エレン?何か言いかけてたよね?どうしたんだい』
ディーンが私の肩に手を置く。
その瞬間、私は悪寒に包まれて体をびくっとさせた。
『エ、エレン?』
『デ、ディーン、いきなり肩に手を置いたらびっくりするじゃないか・・・。』
『え、あ、ごめん。』
ディーンは静かに手を離した。
『それで何を言いかけていたんだい?』
『あ、いや勇者様って素敵だねって』
『えっ!?』
なぜディーンは驚いているのだろう。
こんな素敵な人は他にはいない。
『俺はしばらくここに滞在しようかなー。君たちとは歳が近そうだしまたお話ししたいね。』
と勇者様は言って、宿屋の方に向かっていった。
私は勇者様がしばらく、この街に滞在すると聞いて心を躍らせた。
『なあ、ディーン。宿屋に泊まってもらうより、わたしたちの家に泊まってもらわないか?』
『えっ、でも・・・』
『空き部屋が一室あるし、勇者様は私たちとお話ししたいと言ってくれたじゃないか?
勇者様も宿代がもったいないし、勇者様が魔王と倒したら世界の英雄が泊まった家になれるぞ。』
『そ、そうだね』
するとディーンは勇者のもとに駆け寄り、話す。
そして勇者と共に私の方に向かってくる。
『いやーディーンさんありがとう。実はお金に余裕がなくて・・・家に泊めてくれる申し出はありがたかったよ』
『いえいえ、困ったときはお互い様ですよ』
私たちは年が近いこともあってか、会話には困らなかった。
私とディーンの幼いころの話、結婚に至ったまでの話等、話題は尽きなかった。
そして夜も更けて・・・。
『勇者様はこちらのお部屋をお使いください。少し散らかっているかもしれませんが・・・』
『ありがとう、エレンさん』
『エレン。僕たちも寝ようか。それでは勇者様お休みなさい』
『本当に勇者様ってすごいな。僕たちと同じくらいの年とは思えないよ』
ディーンが話しかけてくる。
『そうだな』
鬱陶しい。
今まで、そんなことを思ったことなかったが・・・。
『そんなことより早く寝よう。今日は色々あって疲れたよ』
私は適当に会話を切り上げる。
『・・・そうだね。エレンお休み』
ディーンが寝静まったのを確認して、私は勇者の寝る部屋に静かに行く。
『よう待っていたぜ。エレン』
ディーンが完全に眠るのを待っていたから
かなり遅い時間になったのに、勇者様は起きていた。
『勇者様』
『俺の部屋に来てくれると思ってな。待っていたぜ』
ああ、まさか勇者様が待っていてくださったなんて。
『俺はエレンに一目見て瞬間感じたぜ。運命ってやつをな』
運命。なんて素敵な響きだろう。
『俺しばらくこの街に滞在するって言ったよな?それは、エレン、君を俺のものにするためさ。』
『わ、わたしをか』
『今日、一目みて思った。お前を俺の女にする』
『でもわたしにはディーンが』
『ならなんでここにきた』
勇者様は核心をついてきた。
『それは・・・』
『大丈夫だ。短い滞在期間で俺の方が良いってわからせてやるよ』
勇者からの強引なキス。
そのキスで、私は完全に堕ちたのだ。
それからの私は・・・。
『私疲れているんだ。ご飯は外で食べてきてっていったよな』
仕事しているディーンの方が疲れているのに。
勇者には手料理を作っていた。
『勇者様。私をもっと愛してくれ!』
ディーンが仕事に行っているのに、ディーンとの寝室を汚して、勇者と愛し合い・・・。
そして夜になったら・・・
『ディーンには勇者様から教わった眠りの魔法をかけておいたぞ』
『じゃあディーンが起きる朝まで愛してやるよ』
勇者様の部屋で愛してもらって。
そして私はこんなことを思った。
『なんで、勇者様が幼馴染じゃなかったんだろう』
そんなことを考えて。
『ディーンがいなければ、勇者様と結ばれたのかな』
『ディーン・・・邪魔だな』
悪魔に染まった考えが降りてきた。